著者
石原 一彦 鈴木 七美 松井 清英
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.3, pp.446-451, 1987-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15
被引用文献数
23

高分子膜を透過させることによりDL-アミノ酸を光学分割することを目的として,側鎖に分子包接能を有するβ-シクロデキストリン残基を導入した高分子を合成し,これから得られる高分子膜のアミノ酸透過性を検討した。フェニルアラニンを透過させた場合,L-体の透過速度がD-体にくらべて大きく,その透過係数比は1.40であった。トリプトファン,ヒスチジンを透過させた場合も同様の傾向となった。また,シクロデキストリン残基のかわりにグルコース残基を有する高分子膜を用いた場合は,アミノ酸の光学異性体間で透過係数に差は認められない。さらにβ-ジグロデキストリンを橋かけした樹脂に対するフェニルアラニンの吸着量は,L-体にくらべてD-体の方が多くなる。これらのことから,シクロデキストリン残基とアミノ酸とが高分子膜中で相互作用し,とくにD-体との相互作用が強いため拡散性が抑制され,透過係数に差が生じたと考えられる。また,DL-アミノ酸を透過物質として光学分割を試みたところ,膜透過とまりL-体が濃縮きれ,フェニルアラニンの場合,その組成比はL/D=61.7/38.3となった。
著者
鈴木 七美 Nanami Suzuki
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.79-101, 2016

本稿は,アメリカ合衆国において,高齢認知症者の孤立感の緩和と「エイジング・イン・プレイス」に向けて開発されてきた「メモリーケア」について検討したものである。この実践は,「ブリッジ Bridge」(繋ぐ者)と呼ばれるボランティアが,「バディ Buddy」(仲間)と呼ばれる高齢認知症者と対面の交流を続けることによってなされる。2005 年以降,メモリーケアは,非営利組織メモリーブリッジと中等・高等学校の連携により,カリキュラムの一環として続けられ,2006 年から2010 年に,シカゴ・メモリーブリッジ・イニシアチブのもとで,7,500 人以上の中等・高等学校の生徒と認知症高齢者が,少なくとも三か月以上一対一で交流してきた。こうした場で,バディは,ブリッジの指導者・教師と位置づけられている。メモリーケアは,100 以上のホスピスにおいても,スタッフやボランティアと認知症者が交流する方途を探ってきた。本稿は,2013 年から高齢化率の高いフロリダ州の継続ケア退職者コミュニティと連携し始められた実践をとりあげ,現地調査(2015 年11 月17 日~ 12 月3 日)に基づいて,ブリッジたちの経験を検討し「メモリーケア」の意味に考察を加えた。This article explores the development of so-called "memory care" in theUnited States, which aims to diminish the emotional isolation of older adultswith dementia and promote their aging-in-place by connecting them to otherpeople. The practice has been carried out in certain cases via face-to-facemeetings of volunteers known as "Bridges" (persons who connect) and olderadults with dementia known as "Buddies" (fellows).Since 2005, exchanges for memory care have been practiced undera curriculum conducted in collaboration between a nonprofit organization(NPO) called Memory Bridge and secondary schools (i.e., junior and seniorhigh schools). From 2006 to 2010, the Chicago Memory Bridge Initiative(CMBI) connected over 7,500 secondary students with older adults sufferingfrom dementia through one-to-one relationships that lasted a minimum ofthree months. The Buddies were positioned as the guides and teachers of theBridges in meetings devoted to memory care. Memory Bridge also trainedover one hundred hospice staff members and volunteers how to associate withpeople with dementia in emotionally nourishing ways.The article investigates the experiences of the Bridges and considers themeaning of memory care by focusing on the practice, conducted since 2013,at a Continuing Care Retirement Community (CCRC) in Florida—where theaging rate is higher than the U.S. average—based on exploratory fieldworkresearch conducted in November and December 2015.
著者
鈴木 七美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.355-378, 2005-12-31

「介護」は、他者への配慮・自己への配慮といった人間関係行為の総体に関わる概念だと捉えられる。「介護」を問うことは、「全体としての生」をテーマとして、人間の身心に具体的に関わる配慮的関係のありようを再考することであり、それ自体社会的・文化的に規定された文化人類学研究の対象である。本稿では、「高齢社会問題」そのものがどのように問題化されているのか、その構造に関し検討を加えた。「介護」にかかわり、「自立した生活」などと表現される「個生」へのまなざしをとりあげ、「個別的ライフスタイル」や、相互性のなかに生きる人間のアイデンティティの表現としての「個生」の模索について考察した。「介護」の試みは、高齢者の福利厚生のみを対象とすることでは果たせず、どの世代に関しても諸関係性を紡ぐ過程で創造される充足に配慮した構想を立ち上げる必要に言及した。「介護」あるいは「ケア」、すなわち相互性のなかに生きることに関して検討することは、壮年を中心とした狭義の社会を問い直すことにほかならない。とはいえ、現代生活においても人々は自らの暮らしを問い直し関係性を紡ぐ方途を模索し続けている。各人の活動の充足を念頭に労働時間の短縮や変更が広く認められているスイス連邦では、自宅で暮らすことを願う高齢者を援助する「シュピテックス」を推進してきた。対面的コミュニケーションが日常的に実現できる地域では高い評価を受けているこのシステムだが、都市部ではコミュニケーションや高齢者の創造的活動については保証できないという問題点が指摘されている。この点を考慮しつつ、地域に適合的な産業振興を模索してきた町を例として、高齢者が充足する社会は、環境をも含め共生社会構想と切り離しては実現できないという点に言及した。人々が求めるものは、一方から他方へのサービスのみを考案することでは持続的に充足せず、循環機構を組み立ててゆくことが不可欠である。この過程で、人々は年齢を問わず「明日」を見据えることが習慣となり、常に変動の相にある新たな相互関係を築くことに参与することになった。ケアについて考えることは、諸関係性を生きる様式のヴァリエーションに関し現時点で再考することにほかならない。
著者
鈴木 七美
出版者
京都文教大学
雑誌
人間学研究
巻号頁・発行日
vol.7, pp.75-87, 2006

デンマークに特徴的な余暇活動は、神学者・歴史家のグルントヴィに率いられた19世紀の民衆運動と農民教育を源流とし、現在は、立ち止まりや学び直しの機会を提供すると同時に、個々人を地域に結びつけ市民として生かす戦略の役割を果たしている。本稿では、余暇活動の実践にユニークな役割を果たしてきた「人生の学校」とも呼ばれるフォルケホイスコーレ、コーディネーターであるペダゴウを養成する生活指導教員養成大学に関する現地調査をとおして、余暇とライフスタイルの可能性について考察を深める。
著者
田中 きく代 阿河 雄二郎 竹中 興慈 横山 良 金澤 周作 佐保 吉一 田和 正孝 山 泰幸 鈴木 七美 中谷 功治 辻本 庸子 濱口 忠大 笠井 俊和
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、海域史の視点から18・19世紀に北大西洋に出現するワールドの構造に、文化的次元から切り込み、そこにみられた諸関係を全体として捉えるものである。海洋だけでなく、海と陸の境界の地域に、海からのまなざしを照射することで、そこに国家的な枠組みを超えた新たな共時性を映し出せるのではないか。また、海洋を渡る様々なネットワークや結節点に、境界域の小さな共同体を結びつけていくことも可能ではないか。このような着想で、共同の研究会を持ち、各々が現地調査に出た。また、最終年度に、新たなアトランティック・ヒストリーの可能性を模索する国際海洋シンポジウム「海洋ネットワークから捉える大西洋海域史」を開催した。なお、田中きく代、関西学院大学出版会、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)研究成果報告書『18・19世紀北大西洋海域における文化空間の解体と再生-「境界域」の視点から-』を、報告書として刊行している。