著者
Audrey STERNALSKI 松井 晋 Jean-Marc BONZOM 笠原 里恵 Karine BEAUGELIN-SEILLER 上田 恵介 渡辺 守 Christelle ADAM-GUILLERMIN
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.161-168, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
23
被引用文献数
2

福島第一原発事故から1年が経過した2012年に福島県内で採集したスズメ目鳥類3種(ヤマガラ,スズメ,カワラヒワ)の成鳥と,シジュウカラの未孵化卵および巣材で測定した放射性セシウム(134Cs および137Cs)濃度から,内部および外部被曝線量率と,それらの合計被曝線量率を推定した.外部被曝線量率が合計被曝線量率に寄与する程度は,生息地の微細環境(例:地表,空中および樹上,巣内)の汚染の程度と,生活史段階(成鳥もしくは卵の各段階)に応じた各微細環境での活動時間の影響を受け変化した.すなわち,シジュウカラの未孵化卵の外部被曝線量率は内部被曝線量率よりも高く,主に巣材の汚染に由来していた.シジュウカラの主な巣材は多量の放射性核種を保持することが知られているコケ類で,外部被曝線量と内部被曝線量率の差は1,000倍以上に及んでいた.さらにシジュウカラの未孵化卵で推定された合計被曝線量率は,野外で測定した空間線量率をはるかに上回っていた.これらの結果は,野生動物に対する放射線被曝の影響を評価するためには,詳細な線量分析を実施することと共に,慎重に対象種の生活史を考慮することで,個体に対する生物学的影響のより適切な評価に繋がるだろう.
著者
三上 修 菅原 卓也 松井 晋 加藤 貴大 森本 元 笠原 里恵 上田 恵介
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.3-13, 2014 (Released:2014-05-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

スズメPasser montanusは日本の都市を代表する鳥であり,もっとも身近な生き物の一つである.スズメは人工構造物にできた隙間に営巣するので,ヒトHomo sapiensはEcological Engineer種として,スズメに生息環境(営巣環境)を提供しているといえる.スズメは電柱にも営巣することがわかっている.ときにそれは停電という問題を引き起こす.このような軋轢を解消しつつも,スズメとヒトが都市のなかで共存することが重要である.そこで,本研究では,スズメによる電柱への営巣の基礎的な情報を得ることを目的とした.その結果,スズメが主に営巣しているのは,電柱の構造物のうち腕金であることが明らかになった.ただし,都市によって,営巣している構造物および数に違いが見られた.これは,管轄している電力会社が異なるため,営巣可能な電柱の構造物の種類及び数に違いがあるからである.さらに関東地方の都市部と郊外で比べたところ,都市部では電柱への営巣が多く,郊外では人家の屋根への営巣が多かった.これは,都市部では,電柱の構造が複雑化するため,電柱に営巣できる隙間が多いこと,郊外は,屋根瓦が多く,屋根に営巣できる隙間が多かったことなどが原因と考えられる.スズメの電柱への営巣は停電を引き起こしうるので,営巣させないような努力が必要であるが,一方で,建物の気密性が高まっていることで,スズメの営巣環境は減っている.スズメが営巣できる環境を維持しつつ,電柱への営巣を制限する道を探っていく必要があるだろう.
著者
松井 晋 Audrey STERNALSKI Christelle ADAM-GUILLERMIN 笠原 里恵 五十嵐 悟 横田 清美 渡辺 守 上田 恵介
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.169-174, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
21
被引用文献数
2

福島第一原子力発電所事故から1年後の2012年に東京,長野,茨城,福島を含む地上から1 mの空間線量率が0.11-21.4(μGy/h)の地点で回収したカラ類(シジュウカラParus minorもしくはヤマガラPoecile varius)の主にコケ類を用いて作られた巣材の放射性セシウム[Cs-134+Cs-137]濃度は6.6-6,128.9(Bq/g dry weight, n=14)となり,空間線量率が高い場所で採集した巣材ほど,巣材の放射性セシウム濃度が高くなる傾向があった.これらの結果は,地上1 mの空間線量率は相対的な巣材の汚染レベルの指標になりうることを示唆し,空間線量率の高い地域ほど巣材に含まれる放射性物質から繁殖期に卵,雛,親が近接的に受ける外部被曝線量率が増加すると考えられた.
著者
東 信行 佐藤 淳 笠原 里恵
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

青森県のリンゴ園を中心とした農地における有害動物の管理を,生態系サービスに注目しそれを生かしたバランスの在り方を見出す。現状ある捕食―被食関係の定量化と同時に,適切な捕食圧を目指すための地域景観の管理の在り方を把握し,一般に情報提供を行う。慣行型の有害生物管理を超えた生態系管理型農業を目指す。
著者
笠原 里恵 神山 和夫
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 = Japanese journal of ornithology (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.35-51, 2011-04-28

環境省の行っているガンカモ類の生息調査で得られた数値データとモニタリングデータを解析するソフトウェアであるTRIMを用いて,日本で越冬するカモ類13種における1996年から2009年までの個体数の増減を日本の8地方区分による地方別,また都道府県別に解析した.結果として,分析期間中,マガモ <i>Anas platyrhynchos</i> とコガモ <i>Anas crecca</i> は全国的に減少傾向にあった一方でキンクハジロ <i>Aythya fuligula</i> やスズガモ <i>Aythya marila</i> は全国的に増加傾向にあった.ヒドリガモ <i>Anas penelope</i> では地方による個体数の増減は少なかった.多くの種において個体数の変化傾向は県や地方によって異なっていたが,13種中9種が関東地方で,8種が中部地方で減少傾向を示し,8種が近畿地方で,5種が中国もしくは四国地方で増加傾向を示した.この結果は調査が行われている1月中旬において,多くのカモ類の分布が変化していることを示唆している.カモ類の個体数に影響を及ぼし得る要因として,繁殖地や越冬地の環境変化,餌付け状況や地球温暖化による移動距離もしくは渡りの時期の変化等が考えられるが,今後のさらなる研究が望まれる.
著者
笠原 里恵 神山 和夫
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.35-51, 2011 (Released:2011-05-28)
参考文献数
25

環境省の行っているガンカモ類の生息調査で得られた数値データとモニタリングデータを解析するソフトウェアであるTRIMを用いて,日本で越冬するカモ類13種における1996年から2009年までの個体数の増減を日本の8地方区分による地方別,また都道府県別に解析した.結果として,分析期間中,マガモ Anas platyrhynchos とコガモ Anas crecca は全国的に減少傾向にあった一方でキンクハジロ Aythya fuligula やスズガモ Aythya marila は全国的に増加傾向にあった.ヒドリガモ Anas penelope では地方による個体数の増減は少なかった.多くの種において個体数の変化傾向は県や地方によって異なっていたが,13種中9種が関東地方で,8種が中部地方で減少傾向を示し,8種が近畿地方で,5種が中国もしくは四国地方で増加傾向を示した.この結果は調査が行われている1月中旬において,多くのカモ類の分布が変化していることを示唆している.カモ類の個体数に影響を及ぼし得る要因として,繁殖地や越冬地の環境変化,餌付け状況や地球温暖化による移動距離もしくは渡りの時期の変化等が考えられるが,今後のさらなる研究が望まれる.
著者
三上 修 植田 睦之 森本 元 笠原 里恵 松井 晋 上田 恵介
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.A1-A12, 2011 (Released:2011-05-20)
参考文献数
12
被引用文献数
2

近年,日本国内においてスズメ Passer montanus の個体数が減少していると言われている.その原因はわかっていないが,熊本で行なわれた先行研究では,都市部では農村部とくらべて1つがいが連れている巣立ち後のヒナ数が少なく,都市化にともなう何らかの要因がスズメの減少をもたらしている可能が示唆されている.しかし,この研究は狭い地域で行なわれたものであり,それが本当に日本全体でも起きているかはわからない.そこで2010年にこの研究と同じく,巣立ち後のヒナ数を調べる調査を「子雀ウォッチ」と銘打ち,一般市民に協力してもらう形で全国規模で行なった.その結果,全国から406の記録が集まり,それを解析したところ,巣立ち後の平均ヒナ数は,商業地で1.41羽,住宅地で1.81羽,農村では,2.13羽と,商業地,住宅地,農村の順で多くなった.この結果は前述の先行研究の結果と整合性があり,やはり都市化と関連している何らかの要因が全国規模でスズメの減少要因になっていると考えられる.この子雀ウォッチを今後もつづけ,記録を蓄積することで,スズメの減少要因の解明につながると期待できる.