著者
笹野 公伸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.W4-4, 2014 (Released:2014-08-26)

ホルモン、特にステロイドホルモンは種々の標的組織における細胞増殖他に密接に関与している事から、腫瘍/癌化に大きく関与する。 中でもエストロゲン、アンドロゲンを中心とした性ステロイドは男性では前立腺癌、女性では子宮内膜癌、卵巣癌そして乳癌の発生に密接に関与する事はよく知られている。 こられのいわば古典的な性ステロイド依存性腫瘍に加えて最近では肺癌、大腸癌、胸腺腫等の一部でもこれら性ステロイドホルモンが癌化他に深く関与している事が示されてきている。 この性ステロイドが関与する発癌機構で動物実験と異なる事として、腫瘍組織局所での性ステロイド代謝による影響があげられる。 すなわち性ステロイド作用は通常血中のホルモン濃度と標的細胞における受容体の有無で規範される事が原則であるが、例えばヒトの場合エストロゲン依存性乳癌が発症してくるのはむしろ血中のエストロゲン濃度が極めて低下する閉経期以降が多い。この現象は受容体が発現している標的組織中で、閉経前後でその血中濃度があまり変わらない副腎皮質網状層由来の生物学的活性の低い男性ホルモンがアロマターゼ他の酵素によりエストロゲンに転換され作用する事に起因している。 このように血中のホルモン濃度に関係なく標的組織でホルモンを代謝/産生して作用する機序は従来の“Endocrinology”に比べて“Intracrinology”とも呼ばれ、多くの性ステロイド依存性腫瘍の発生/進展に際し大きな役割を果たしている事が明らかにされてきている。 このIntraccine機構はサイトカイン、成長因子等種々の要素による局所でホルモンを活性化、あるいは非活性化する酵素群の発現動態が影響され、これらのホルモン依存性は発癌機構も単に血中のホルモン濃度と標的細胞の受容体の発現量だけで規範されない。このようにホルモン、特に性ステロイドが関与するヒト発癌/腫瘍発生機構は非常に複雑であり、全身/組織/細胞レベルの総合的な解析が欠かせない。
著者
齊藤 真弘 及川 圭介 内山 志保 猪股 芳文 安倍 修 笹野 公伸
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.7, pp.1272-1280, 2013 (Released:2013-07-05)
参考文献数
23
被引用文献数
2

われわれは極めてまれな胃原発未分化多形肉腫を経験した.症例は74歳女性で,腹部不快感を主訴に受診した.CT上,13cm大の胃粘膜下腫瘍および肝・骨転移を認めたが,これらは8カ月前には認めていなかった.間葉系腫瘍を疑いEUS-FNABを行ったが,免疫染色はすべて陰性であり,c-kitやPDGFRαの遺伝子変異も認めなかった.その後も腫瘍は急速に増大し2カ月後に死亡した.剖検病理所見も同様で未分化多形肉腫と診断された.
著者
山﨑 有人 中村 保宏 佐藤 文俊 笹野 公伸
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.232-239, 2018 (Released:2019-02-15)
参考文献数
20

副腎皮質癌,褐色細胞腫は副腎に発生する悪性腫瘍であり,専門性の高い診療,病理診断が求められる領域である。WHO分類2017の刊行により,副腎皮質癌では好酸性細胞型亜型,肉腫様亜型,粘液型亜型の3つが新たな組織亜型分類として認識されるようになり,褐色細胞腫では全ての症例において悪性のポテンシャルを有する腫瘍と定義付けられた。それに加え,副腎皮質癌ではENSATの診療ガイドライン(2018)が改訂され,診療方針の変遷が注目されている。近年,副腎腫瘍の領域においても病態発生に関与する遺伝子変異が数多く報告されてきているが,副腎皮質癌では治療標的因子や予後因子となるような遺伝子異常は未解明なままである。一方,褐色細胞腫ではここ数年で,病態に関与する遺伝子異常が数多く発見され,genotypingの重要性が注目されてきている。本稿では,副腎皮質癌と褐色細胞腫・傍神経節腫に焦点を当てて,両疾患における病理・病因の最新の知見を概説する。
著者
中村 保宏 鈴木 貴 渡辺 みか 笹野 公伸
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.32-35, 2013

原発性アルドステロン症(PA)は,副腎組織からのアルドステロン過剰産生に伴い高血圧や重症な合併症を引き起こす病態である。通常,PAのうち術前にアルドステロン産生副腎皮質腺腫(APA)と診断された症例において手術が行われ,その後病理学的診断がなされる場合がほとんどであるが,時に腫瘍径が非常に小さいためその病理学的診断が困難なケースも決して稀ではない。その場合,免疫組織化学的検討による病変の同定が有用となる。また,APAとの鑑別診断ではアルドステロン過剰産生を伴う原発性副腎皮質過形成,すなわち特発性アルドステロン症(IHA)の病理学的診断についても十分理解しておくことが重要である。