著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 田原 麻衣子 川原 陽子 真弓 加織 五十嵐 良明 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-163, 2014 (Released:2014-08-26)

【目的】近年、生活空間において“香り”を楽しむことがブームとなっており、高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤や香り付けを目的とする加香剤商品の市場規模が拡大している。それに伴い、これら生活用品の使用に起因する危害情報も含めた相談件数が急増しており、呼吸器障害をはじめ、頭痛や吐き気等の体調不良が危害内容として報告されている。本研究では、柔軟仕上げ剤から放散する香料成分に着目し、侵害受容器であり気道過敏性の亢進にも関与することが明らかになりつつあるTRPA1イオンチャネルに対する影響を検討した。【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりTRPA1 cDNAをクローニングし、TRPA1を安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立した。得られた細胞株の細胞内Ca2+濃度の増加を指標として、MonoTrap DCC18 (GLサイエンス社)を用いて衣料用柔軟仕上げ剤から抽出した揮発性成分についてTRPA1の活性化能を評価した。また、GC/MS分析により揮発性成分を推定した。【結果】市販の高残香性衣料用柔軟仕上げ剤を対象として、それぞれの製品2 gから抽出した揮発性成分メタノール抽出液についてTRPA1に対する活性化能を評価した。その結果20製品中18製品が濃度依存的に溶媒対照群の2倍以上の活性化を引き起こすことが判明した。さらに、メタノール抽出液のGC/MS分析結果より、LimoneneやLinallolの他に、Dihydromyrcenol、Benzyl acetate、n-Hexyl acetate、Rose oxide、Methyl ionone等の存在が推定され、これらの中で、Linalool 及びRose oxideがTRPA1を活性化することが明らかになった。これらの結果より、柔軟仕上げ剤中の香料成分がTRPイオンチャネルの活性化を介して気道過敏性の亢進を引き起こす可能性が考えられる。
著者
田辺 信介
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.EL7, 2014 (Released:2014-08-26)

化学物質の中でヒトや生態系にとって厄介なものは、毒性が強く、生体内に容易に侵入し、そこに長期間とどまる物質であろう。こうした性質を持つ化学物質の代表に、PCBs(ポリ塩素化ビフェニール)やダイオキシン類などPOPs (Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)と呼ばれる生物蓄積性の有害物質がある。私がPOPsの汚染研究を開始したのは1972年のことで、テーマは「瀬戸内海のPCBs汚染に関する研究」であった。当時の汚染実態はきわめて深刻化していたが、不思議なことに瀬戸内海に残存しているPOPs量は使用量に比べ予想外に少ないことに気がついた。この疑問は、「大気経由でPCBsが広域拡散したのではないか」という仮説を生み、地球汚染を実証する研究へと進展した。この研究の中で、ダイオキシン類やDDTは局在性が強く地域汚染型の物質であるが、PCBsや殺虫剤のHCHsは長距離輸送されやすい地球汚染型の物質であることを、大気や水質の調査だけでなく生物を指標とした研究でも明らかにした。また冷水域は、POPsの最終的な到達点となることを示唆した。さらに、POPsは食物連鎖を通して生物濃縮され高次の生物種ほど汚染が著しいこと、とくに海洋生態系の頂点にいる鯨類や鰭脚類などの水棲生物は、体内にきわめて高い濃度のPOPsを蓄積していることが認められた。この要因として、この種の動物は体内に有害物質の貯蔵庫(皮下脂肪)が存在すること、授乳による母子間移行量が大きいこと、有害物質を分解する酵素系が一部欠落していること、などが判明した。また、薬物代謝酵素等に注目した研究により、海棲哺乳動物はPOPs(親化合物)のリスクが最も高い生物種(ハイリスクアニマル)であること、一方陸棲の哺乳動物はPOPs代謝物のハイリスクアニマルであることを示唆した。以上の研究成果から、生態系本位の環境観・社会観を醸成する施策が必要なことを提言した。
著者
黒田 悦史
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S19-2, 2014 (Released:2014-08-26)

アレルギー性疾患の増加は社会問題の一つとなっており、その原因の解明と効果的な治療法の開発が急務とされている。アレルギー性疾患の増加の要因としては、アレルゲンの増加、感染症の減少(衛生仮説)、食生活の変化、生活環境における化学物質の増加などが考えられている。化学物質の増加に関しては,産業の発達とともに産出されてきた様々な微小粒子状物質のアレルギー性疾患への関与が示唆されており、さらに最近では微小粒子状物質の一つであるParticulate Matter 2.5(PM2.5)が健康被害を引き起こすとしてその影響が懸念されている。粒子状物質はアレルゲンとは異なり、それ自身は抗原とはならない。しかしながら粒子状物質を抗原とともに感作することで、その抗原に対する免疫応答を増強させるアジュバント効果を有することが知られている。興味深いことに、粒子状物質の多くがアレルギー反応の原因となるTh2型免疫反応を誘導することが報告されており、粒子状物質によるTh2アジュバント効果と近年のアレルギー性疾患の増加との関連が示唆されている。しかしながら、粒子状物質がどのような機構で免疫反応を活性化し、Th2型免疫反応を誘導するかについては明らかにされていない。 我々は、粒子状物質をマウスの肺に注入することで誘発される免疫反応について解析を行っており、粒子状物質によってダメージを受けた細胞から遊離される内因性アジュバント、すなわちダメージ関連分子パターン(DAMPs)が抗原特異的なIgEの誘導に重要であることを見いだした。本シンポジウムでは、DAMPsに焦点をあて、粒子状物質によって活性化されるTh2型免疫応答のメカニズムについて紹介したい。
著者
石井 健
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-5, 2014 (Released:2014-08-26)

「よく効く」ワクチンには、必ずアジュバント、もしくは内因性のアジュバント成分が含まれており、宿主細胞に存在する自然免疫受容体によって認識され、その後の獲得免疫が誘導されることが明らかになってきており、アジュバント(因子)の分子メカニズムの免疫学的、細胞生物学的な理解が飛躍的に進歩しつつある。2011年度のノーベル医学生理学賞が、アジュバントの作用機序に関する自然免疫や樹状細胞研究に授与されたこともあり、基礎研究の裾野も広がってきている。2014年のKeystone Symposiaでは「The Modes of Action of Vaccine Adjuvants」という題目の会が開かれる予定である。また、アジュバントが必要とされるワクチンの臨床応用の対象は感染症の枠を超え、がん、アレルギー、アルツハイマー病など非感染性疾患に広がっており、その開発は世界的に競争が増している。 一方で、アジュバントを含むワクチンの副作用が問題になっている。このような状況において、ワクチンやアジュバントの有効性や副作用の評価方法、指標(バイオマーカー)の構築が切望されている。 我々は、各種アジュバントによる動物実験やヒトのサンプルを網羅的に解析した「アジュバントデータベース」を構築する準備を進めている。本研究では日本が「安全な」アジュバント開発研究で世界のトップに立つために、アジュバントの評価方法の指標 (バイオマーカー)の同定を目的としたアジュバントデータベースの構築、および新規アジュバント開発を行っている。これらのトランスレーショナルリサーチ、とくにマイクロRNAによるワクチンの副作用バイオマーカーの可能性を示唆する知見を発表したい。<最近の著書>“Biological DNA Sensor” Edited by Ken Ishii and Choon Kit Tang Elsevier“Nucleic Acids in Innate Immunity”Edited by Ishii KJ and Akira S CRC press「アジュバント開発研究の新展開」石井健、山西弘一編、CMC出版 2011<最近の代表論文> 1) Kobiyama K et al Nonagonistic Dectin-1 ligand transforms CpG into a multitask nanoparticulate TLR9 agonist PNAS 2014 in press 2) Desmet C and Ishii KJ Nucleic acid sensing at the interface between innate and adaptive immunity in vaccination Nat Rev Immunol 2012 12(7):479-91 3) Marichal T, et al DNA released from dying host cells mediates aluminum adjuvant activity. Nat Med. 2011 17(8):996-1002. 4) Koyama S et al Plasmacytoid dendritic cells delineate immunogenicity of influenza vaccine subtypes. Sci Transl Med. 2(25):25ra24. (2010) 5) Ishii,K.J. et al. TANK-binding kinase-1 delineates innate and adaptive immune responses to DNA vaccines. Nature 451, 725-729 (2008).
著者
光本(貝崎) 明日香 田中 佐知子 沼澤 聡
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-221, 2014 (Released:2014-08-26)

【目的】カチノンはCatha edulis (khat)から得られるモノアミンアルカロイドである。カチノン構造類似体である合成カチノンは中国・インドで合成され、世界中に流通している。1-phenyl-2-(1-pyrrolidinyl)-1-pentanone (α-PVP)は、2013年3月に新たに麻薬指定された新規の合成カチノンである。我々は、2012年度に「ハーブ」や「バスソルト」などと称して販売されている薬物が、主に合成カチノンを含有しており、その多くはα-PVPであることを明らかにした。「ハーブ」や「バスソルト」を使用した者が、重大な交通事故を起こしたり、健康被害を被ったりする事例が相次いで報告されており、大きな社会問題となっているが、α-PVPの生体作用は明らかではない。そこで本研究では、α-PVPが中枢神経系に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】自発運動量の測定:Balb/c雄性マウスにα-PVP (25 mg/kg)または水(10 mL/kg)を21日間投与し、1, 7, 14, 21日目に自発運動量を計測した。また、D1受容体拮抗薬SCH23390 (50 µg/kg, i.p.)および/またはD2受容体拮抗薬スルピリド(50 mg/kg, i.m.)を前投与し、自発運動量を計測した。ドパミン量の測定:in vivo マイクロダイアリシス法を用いて、α-PVP投与後の細胞外ドパミン量の変動を検討した。その他、ドパミン取り込み測定、免疫組織染色を行った。【結果および考察】α-PVPは、投与後速やかに自発運動量の増加を引き起こしたが、長期投与することにより、その作用は減弱した。α-PVPは、細胞外ドパミン量の上昇を引き起こした。SCH23390およびスルピリド前処置により、α-PVPによる自発運動量の増加は有意に抑制されたことから、α-PVPはドパミン神経系を刺激し、ドパミン量を増加させることで、自発運動量の増加を引き起こすこと、また、その作用には、D1およびD2受容体が関与していることが明らかになった。
著者
庵原 俊昭
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-4, 2014 (Released:2014-08-26)

インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーの原因として、発育鶏卵由来のタマゴ成分が関与していると考えられていた。しかし、本邦のインフルエンザワクチンに含まれるオボアルブミン濃度は1ng/mlであり、アナフィラキシーを引き起こす濃度(600ng/接種量以上)ではない。2009年のパンデミック時にタマゴを食べてアナフィラキシーを起こす小児41人に、発育鶏卵由来インフルエンザワクチンを接種したが1人もアナフィラキシーを発症しなかった。 2011/2012シーズンにおいて、2-フェノキシエタノール(2PE) を含むインフルエンザワクチンを接種した小児(主として3~5歳)は、2PEを含まないインフルエンザワクチンを接種した小児よりも高頻度にアナフィラキシーを発症した。アナフィラキシーを発症した小児は、インフルエンザワクチンに対するプリックテストが陽性であり、インフルエンザワクチンに対する高いIgE抗体を有しており、児から採取した好塩基球はインフルエンザワクチン刺激により活性化された。また、低濃度の刺激では、2PE入りインフルエンザワクチンの方が高い好塩基球活性化が認められた。以上の結果から、2PEがHAの構造をなんらか変化させ、結果として好塩基球や肥満細胞に付着した抗インフルエンザワクチンIgE抗体が架橋形成し、これら細胞を活性化させアナフィラキシーを誘発したと推論した。 2012/2013シーズンから防腐剤を2PEからチメロサールに変更したところ、小児のアナフィラキシーの頻度は他のメーカーは同等となった。一方、インフルエンザワクチン接種後に腕全体が腫脹した小児では即時型のプリックテストは陰性であったが、インフルエンザワクチンに対する高いIgE抗体が検出された。次に小児のインフルエンザワクチンIgE抗体を測定したところ、2歳~5歳で高値を示し、その後低下する傾向が認められた。 インフルエンザワクチン接種後のアナフィラキシーや腕全体の腫脹を予防するためには、IgE抗体を誘導しにくいインフルエンザワクチンの開発が必要である。
著者
笹野 公伸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.W4-4, 2014 (Released:2014-08-26)

ホルモン、特にステロイドホルモンは種々の標的組織における細胞増殖他に密接に関与している事から、腫瘍/癌化に大きく関与する。 中でもエストロゲン、アンドロゲンを中心とした性ステロイドは男性では前立腺癌、女性では子宮内膜癌、卵巣癌そして乳癌の発生に密接に関与する事はよく知られている。 こられのいわば古典的な性ステロイド依存性腫瘍に加えて最近では肺癌、大腸癌、胸腺腫等の一部でもこれら性ステロイドホルモンが癌化他に深く関与している事が示されてきている。 この性ステロイドが関与する発癌機構で動物実験と異なる事として、腫瘍組織局所での性ステロイド代謝による影響があげられる。 すなわち性ステロイド作用は通常血中のホルモン濃度と標的細胞における受容体の有無で規範される事が原則であるが、例えばヒトの場合エストロゲン依存性乳癌が発症してくるのはむしろ血中のエストロゲン濃度が極めて低下する閉経期以降が多い。この現象は受容体が発現している標的組織中で、閉経前後でその血中濃度があまり変わらない副腎皮質網状層由来の生物学的活性の低い男性ホルモンがアロマターゼ他の酵素によりエストロゲンに転換され作用する事に起因している。 このように血中のホルモン濃度に関係なく標的組織でホルモンを代謝/産生して作用する機序は従来の“Endocrinology”に比べて“Intracrinology”とも呼ばれ、多くの性ステロイド依存性腫瘍の発生/進展に際し大きな役割を果たしている事が明らかにされてきている。 このIntraccine機構はサイトカイン、成長因子等種々の要素による局所でホルモンを活性化、あるいは非活性化する酵素群の発現動態が影響され、これらのホルモン依存性は発癌機構も単に血中のホルモン濃度と標的細胞の受容体の発現量だけで規範されない。このようにホルモン、特に性ステロイドが関与するヒト発癌/腫瘍発生機構は非常に複雑であり、全身/組織/細胞レベルの総合的な解析が欠かせない。
著者
荻原 琢男 井戸田 陽子 木暮 悠美 原田 瞳 河合 妙子 矢野 健太郎 柿沼 千早 宮島 千尋 笠原 文善
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-176, 2014 (Released:2014-08-26)

【目的】アルギン酸(Alginic acid :Alg)は天然の藻類に含まれる多糖類であり,食品添加物や健康食品あるいは医薬品の原料として使用されている.また,そのナトリウム塩(Na-Alg)はストロンチウム(Sr)の体内取り込みを低減させる作用を有することが報告されている.しかしながらNa-Algの服用はナトリウムの過剰摂取に繋がる可能性があるため,Algの他の塩においても同様なSr吸収抑制効果が認められ,さらにSrに対してだけでなくセシウム(Cs)などの他の重金属においても同様な作用が認められれば,Algの有用性はさらに増すものと期待される.そこで本研究ではNa-Algおよびアルギン酸カルシウム(Ca-Alg)による重金属の吸収抑制および排泄促進効果を検討した.【方法】各種濃度のNa-Alg溶液に各種重金属の塩を加え,メンブレンフィルターを用いて遠心分離し,フィルター透過率を算出することによりNa-Algの重金属との吸着作用を検討した.また,ラットに通常飼料(control群)またはNa-AlgあるいはCa-Alg含有飼料を14日間与え,経時的に血漿中SrまたはCs濃度を測定し,その排泄促進効果を検討した.さらに,これらの飼料を14日間与えたラットにSrまたはCsの溶液を経口投与し,経時的に血漿中のSrまたはCs濃度を測定し,吸収抑制効果を検討した.加えて,同様に14日間飼育したラットの生化学検査および病理解剖を行い,各種血中パラメータおよび主要臓器への影響を観察し,安全性を評価した.【結果・考察】in vitroの検討において,Na-Algはその濃度依存的に各種重金属を吸着した.またラットにNa-AlgまたはCa-Alg含有飼料を与えたところ,control群と比較して血中のSr濃度は徐々に低下したが,Csの濃度はCa-Alg投与群でのみ低下した.さらに,SrまたはCs溶液を経口投与したとき,control群と比較してSrのラット血漿中濃度はNa-AlgおよびCa-Algいずれでも低下したが,Csの濃度はCa-Algにおいてのみ低下が認められた.これらのことからCa-AlgにはSrのみならずCsの排泄促進および吸収抑制効果があるものと考えられた.
著者
森 宣瑛 吉岡 靖雄 平井 敏郎 髙橋 秀樹 市橋 宏一 宇髙 麻子 植村 瑛一郎 西嶌 伸郎 山口 真奈美 半田 貴之 角田 慎一 東阪 和馬 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-9, 2014 (Released:2014-08-26)

近年、腸内細菌を有さないマウスの検討などにより、腸内細菌が宿主免疫細胞におよぼす影響が明らかになりつつあり、腸内細菌叢の有無が、免疫細胞の発達や各種免疫疾患の悪化・改善に寄与することが判明している。一方で、食事や抗生物質の服用などによる腸内細菌叢の変動が、免疫機能に与える影響は未だ不明な点が多い。従って、今後、環境要因による腸内細菌叢の変動を理解・制御できれば、各種疾患の予防や、健康増進に繋がるものと期待される。本観点から我々は、食餌成分や化学物質などが腸内細菌叢に与える影響を評価すると共に、腸内細菌叢の変動と宿主免疫機能の連関解析を図っている。本検討では、腸内細菌叢に最も大きな変動を誘導すると考えられる抗生物質の曝露が、宿主免疫系におよぼす影響を評価した。2週間連続で抗生物質を投与し、腸内細菌数の変動を解析したところ、コントロール群と比較して腸内細菌数が減少していた。次に、抗生物質を投与後、コレラトキシンとニワトリ卵白アルブミン(OVA)を経口免疫したところ、コントロール群と比較して、OVA特異的IgG・IgG1・IgEがほとんど誘導されないことが明らかとなった。また、抗生物質を投与した後、3週間後から免疫を開始した場合においても同様の傾向が認められた。次に、抗体産生抑制のメカニズムを解析するため、抗生物質を2週間投与後、宿主免疫系への影響を解析した。その結果、腸管の免疫組織であるパイエル板では、抗生物質投与によりCD4陽性T細胞の割合が減少しており、抗生物質投与終了3週間後にも、同様の傾向が認められた。即ち、抗生物質の一時的な投与は、長期間に渡って宿主免疫系に影響をおよぼし続けることが明らかとなった。今後、抗生物質をはじめとした様々な物質による、腸内細菌叢への作用機構、腸内細菌叢の変動による生体影響の関係を精査し、新たな毒性学・安全科学研究を推進したいと考えている。
著者
孫谷 弘明
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.MS4-3, 2014 (Released:2014-08-26)

2007年にヒトiPS細胞樹立が発表されて以降様々な大学・研究機関で活発な研究が行われ,再生医療の分野では昨年,理化学研究所が滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植の臨床研究が開始されたことが記憶に新しい.iPS細胞は自己複製能により大量培養を可能とし,多能性分化能により多種多様な体細胞に分化することができるため,様々な疾患に対する臨床応用への研究が進められている一方,未分化のiPS細胞が移植細胞群内に残存もしくは混入することにより移植適用部位で造腫瘍や異所性組織形成が懸念される.造腫瘍性とは移植された細胞集団が増殖することにより悪性もしくは良性の腫瘍を形成する能力をいい,増殖した細胞集団による周辺組織への影響や細胞集団自身の異所性に分化のリスクが飛躍的に上昇する.従ってiPS細胞を用いた細胞治療において移植細胞中の未分化iPS細胞の評価及び管理は非常に重要である.株式会社新日本科学は京都大学iPS細胞研究所高橋淳研究室との共同研究により,iPS細胞由来ドーパミン神経細胞を用いたパーキンソン病の細胞移植治療の臨床研究のための非臨床試験として,現在造腫瘍性試験を実施している.本発表ではiPS細胞の臨床応用に向けて最重要課題である造腫瘍性の評価を中心にその概要及び進捗を報告する.
著者
出口 雄也 高柳 あずさ 豊増 展子 岸 智裕 長岡(浜野) 恵 長岡 寛明
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-227, 2014 (Released:2014-08-26)

【目的】近年、禁煙補助剤としてニコチン含有のパッチやガム、トローチの利用者が増加している。タバコの場合、ニコチンは肺から吸収されるが、ガム、トローチの場合、消化器系から吸収される。タバコの主流煙には発がん物質であるタバコ特異的ニトロソアミンの4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone (NNK)やN-nitrosonornicotine(NNN)などが含まれていることが知られている。禁煙補助剤はタバコ特異的ニトロソアミンを含有していないが、これらを経口摂取した場合に、胃内で亜硝酸との反応によりタバコ特異的ニトロソアミンを生成し、変異原性を示すことが考えられる。そこで、本研究では亜硝酸塩濃度、反応液のpHを変化させることにより、ニコチンガムの亜硝酸処理生成物の変異原性をAmes試験により検討した。【方法】ニコチンガム(2個分:ニコチン約25 µmol)に25 µmolあるいは250 µmol(10倍量)の亜硝酸ナトリウムを添加した緩衝液中(pH 3.0、4.0、5.0)に溶解し、37℃で60分間反応させた。反応物を酢酸エチルで抽出し、減圧濃縮したものをDMSOに溶解し、Ames試験の試料とした。Ames試験はプレインキュベーション法で実施し、ラット肝臓S9mixによる代謝活性化法を併せて実施した。菌株にはTA98株、TA100株を用いた。【結果】ニコチン及びニコチンガムの変異原性はTA98株、TA100株ともに各緩衝液(pH 3.0~5.0)において陰性であった。しかし亜硝酸処理したニコチン及びニコチンガムの変異原性は、pH 3.0の緩衝液で10倍量の亜硝酸ナトリウムと反応させた場合に陽性であった。このことから、ニコチンガムで禁煙が成功しない場合には、長期間の服用は避けるべきであることが示唆された。
著者
秋山 卓美 清水 久美子 藤巻 日出夫 内野 正 最上(西巻) 知子 五十嵐 良明
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-250, 2014 (Released:2014-08-26)

【目的】4-(4-Hydroxyphenyl)-2-butanol(ロドデノール)を配合した美白化粧品の使用者に白斑が生じる事例が多数発生し,大きな問題になった.我々はロドデノールが皮膚のメラノサイトやケラチノサイトを傷害している可能性があると考え,ロドデノール及び製造原料である4-(4-hydroxyphenyl)-2-butanone(ラズベリーケトン)が各種細胞に与える影響を調べた.また,これら化合物の細胞内酵素による化学変化についても検討した.【方法】ロドデノール配合製品にメタノールを加えて超音波処理した後,キラルカラム及びODSカラムを装着したHPLCに供した.ロドデノール,ラズベリーケトン及びそれぞれの酸化体を市販正常ヒトメラノサイトまたはHaCaT細胞に添加し,ATP量を指標に細胞生存率を求めた.培養上清及び細胞破砕液についてLC/MS分析を行った.さらに,これら化合物の水溶液を酸素ガスでバブリングし,マッシュルーム由来チロシナーゼを加えて反応させた後,LC/MSで分析した.【結果及び考察】製品に使用されていたロドデノールは光学異性体混合物であり,R:S存在比はほぼ1:1であった.ロドデノール中のラズベリーケトン,製品へのラズベリーケトンの混入はごくわずかであった.ロドデノールの酸化体はメラノサイト及びHaCaT細胞のいずれに対してもロドデノール及びラズベリーケトンに比べて強い細胞毒性が認められた.ロドデノール及びラズベリーケトンを添加した細胞の培養上清中にはそれぞれの酸化体が検出された.またこれらの化合物はチロシナーゼを直接処理すると酸化体に代謝されることを確認した.以上の結果より,ロドデノールはチロシナーゼ等により酸化体に代謝され,これらがメラノサイトの細胞死に強く関わることが示された.
著者
小松 真一 土本 まゆみ 松井 元 真木 一茂 松本 峰男
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-3, 2014 (Released:2014-08-26)

治療用ペプチドワクチンを含む「治療用がんワクチン」は、がんの治療法として、外科的療法、放射線療法、化学療法に次ぐ「第4の治療法」として期待されているが、未だ臨床試験において主要評価項目を達成した能動免疫療法に該当する「治療用がんワクチン」は承認されていない。治療用ペプチドワクチンを対象とした非臨床安全性評価に関するガイドラインは、いまだ国内外を問わず存在しない。また、WHOのGuidelines on the nonclinical evaluation of vaccine adjuvants and adjuvanted vaccines(2013)では、原則のいくつかが、がんなどに対するアジュバント添加治療ワクチンの非臨床試験にも当てはまるかもしれないとされているに過ぎない。厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)「ワクチンの非臨床研究ガイドライン策定に関する調査研究」の活動として、治療用ペプチドワクチンのための非臨床安全性試験について検討した。今回、研究成果として投稿した“Considerations for non-clinical safety studies of therapeutic peptide vaccines”(治療用ペプチドワクチンのための非臨床安全性試験に関するコンシダレーションペーパー)を基に、調査研究班が考えた治療用ペプチドワクチンのための非臨床安全性試験について解説する。
著者
佐藤 彰彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.MS3-2, 2014 (Released:2014-08-26)

1988年に塩野義製薬 医科学研究所が発足し,抗ウイルス薬研究を開始した.抗HIV薬研究の中で,我々が見出し,臨床試験入りした化合物として,NNRTI(非核酸系逆転写酵素阻害剤)のS-1153(Capravirine)をはじめとして,多くのINI(インテグレース阻害剤)を見出した. 抗HIV薬では,薬剤を長期に投与することから,薬剤耐性ウイルスの出現を克服することが最重要課題であり,耐性の出現メカニズムを詳細に研究し,その基礎研究を基にした創薬をすることが必要である.S-1153(Capravirine)の研究・開発時から,既存の抗HIV薬の耐性プロファイリングから,耐性ウイルスの克服を目標にした研究を続けてきた.我々は,安定して耐性ウイルスを分離する方法を見出し,このin vitroでの培養手法を用いることで,臨床試験と同じ耐性ウイルスが分離できることがわかった. この手法を用いて,薬剤耐性ウイルスの出現機構を考察したところ,耐性ウイルスの出現時期,頻度,変異部位は,ウイルスの変異率,変異ウイルスの増殖性,薬剤の抗ウイルス効果(選択性)に依存しており,薬剤濃度を高く維持できれば,耐性ウイルスの出現を抑えることができることを理論的に証明し,ウイルスの耐性出現をコントロールできるノウハウを習得した.この理論から,既存の耐性変異に対して活性が低下しない化合物を目標にして,多数の骨格をデザインし,長期培養しても高度耐性ウイルスが分離できない優れた特徴を持つ化合物群を見出した. 我々は,抗インフルエンザウイルス薬の研究も進めてきており,インフルエンザウイルスのin vitro試験での耐性ウイルス出現過程は,HIVと同じ傾向であるが,急性感染症であるインフルエンザ感染の場合は,耐性ウイルスに対するin vitroとin vivo効果は,HIVとは異なり,必ずしも一致しないことがわかってきている.各ウイルスの耐性出現理論について紹介したい.
著者
酒々井 眞澄 沼野 琢旬 深町 勝巳 二口 充 津田 洋幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-25, 2014 (Released:2014-08-26)

多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のラット肺内投与に伴う長期経過後の中皮腫発がんに関わるエビデンスはない。本研究ではラットにMWCNTを経気管的肺内スプレー法により投与する実験システムを用いて2年経過での中皮腫発がんを検証した。雄F344ラット(5群を設定、各群15匹)にMWCNT(FT分画平均長2.6 µm、W分画平均長4.2 µm、R分画平均長>2.6 µm)を 2週間で計8回(total amount 1.0 mg)を肺内スプレーし96週目までの間に死亡あるいは瀕死解剖された個体および109週目に剖検された個体について中皮腫発生を調べた。65週目に1個体に縦隔原発の中皮腫が発生し、以降剖検までに11個体に中皮腫が発生した。計12個体中10個体が縦隔あるいは心外膜原発であり、2個体が精巣tunica vaginalis原発と考えられた。胸腔での中皮腫発がんまでの平均経過は94週であった。無処置群およびvehicle control群には腫瘍は認めなかった。腫瘍および各臓器の組織学的検索の結果、気管内にスプレーされたMWCNTは上縦隔リンパ節、中皮腫組織、肥厚した横隔膜中皮などに存在した。少なくとも本実験条件下では、CNTが気管あるいは肺内から胸腔に移動し、胸膜や縦隔中皮を標的に中皮腫発がんに至ったと考えられる。
著者
井上 貴雄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S15-4, 2014 (Released:2014-08-26)

アンチセンス、siRNA、アプタマーに代表される核酸医薬品は、これまで“Undruggable”とされてきた分子をも標的にすることから、抗体医薬品に続く次世代医薬品として注目を集めている。これまでに上市された核酸医薬品(2品目)は局所投与であったが、最近になり、全身投与が可能な核酸医薬品として初めてKynamro(ApoB-100 mRNAを標的とするアンチセンス医薬品)が承認されている。現在、臨床試験段階にある核酸医薬品は約80品目であり、うち11品目がphase 3に入っている。核酸医薬品はその物質的性質、機能的性質から、ひとつのプラットフォームが完成すれば短期間のうちに新薬が誕生すると考えられており、この数年で承認申請に至る候補品が増加すると予想されている。 以上のように臨床開発が大きく進展している核酸医薬品であるが、開発の指針となるガイドラインは国内外で存在しておらず、規制当局が個別に対応しているのが現状である。この背景から、ガイドラインの策定、品質/安全性を評価する試験法の確立、審査指針の根拠となる実験データの創出など、開発環境を整備するレギュラトリーサイエンスの重要性が指摘されている。 本シンポジウムでは、核酸医薬品の規制に関わる国内外の動きを整理すると共に、国立衛研における取り組みも紹介したい。