著者
篠崎 一雄
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.S057, 2004

2000年にシロイヌナズナのゲノムシークエンスが99.99%の高精度で国際研究チーム(日本ではかずさDNA研が25%を決定)によって決定された。植物では初めてのゲノムシークエンスの決定であり、その後の遺伝子の機能研究の基礎となる大きなマイルストーンであった。その後、アメリカでは2010年プロジェクトが始まり機能解読のためのリソースの整備と機能解析システムの開発などが本格化した。26,000個あるすべての遺伝子の機能を解析するためのT-DNAやトランスポゾンによる遺伝子破壊型変異体の作成と変異遺伝子の同定が精力的に進められつつある。現在、T-DNA遺伝子破壊変異体は世界では数十万株に達しており、大部分の遺伝子にT-DNAが挿入したラインがアメリカ、日本、ヨーロッパで作成されている。これらの遺伝子破壊系統を用いて遺伝子を破壊した系統を集めて網羅的に表現型を観察するフェノーム解析もはじめられている。さらに、我々はmRNAのコピーである完全長cDNAの収集を進めており、すでに18,000個(全遺伝子の70%)収集した。完全長cDNAはゲノム上の遺伝子の位置と転写開始部位を正確に決定するために必要である。さらに遺伝子発現プロファイルを解析するために利用した。また完全長cDNAはタンパク質の機能や構造を解析するための重要なリソースである。現在、これらのゲノムリソースを用いてすべての遺伝子の機能解読が本格化している。
著者
酒井 達也 A. Jones Mark Smirnoff Nicholas 岡田 清孝 O. Wasteneys Geoffrey van der Honing Hannie 西岡 美樹 上原 由紀子 高橋 美穂子 藤澤 紀子 佐治 健介 関 原明 篠崎 一雄
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.716, 2008

キネシンモータータンパク質は様々な生物において細胞の先端成長及び細胞の形の決定に関与していることが知られている。シロイヌナズナゲノム中には 61 遺伝子のキネシン関連遺伝子が存在することが明らかになっているが、その多くは機能が明らかになっていない。我々はアルマジロリピートドメインを持つ植物特異的キネシン関連タンパク質 ARK1 がシロイヌナズナ根毛の先端成長に関与することを明らかにした。ark1 突然変異体根毛は波状、時に枝分かれの表現型を示し、内側の微小管はより重合して量及び長さが促進されていた。すなわちARK1は根毛内部の微小管量を限定する働きを持ち、これが根毛の先端成長を制御することが示唆された。ARK1 はARK2 及び ARK3 の二つのパラログ含む遺伝子ファミリーをシロイヌナズナゲノム中で形成しており、ARK2 が根の表皮細胞の形態形成に関与することを明らかにした。さらにARK タンパク質と結合する因子として NEK6 タンパク質リン酸化酵素を同定した。nek6 突然変異もまた、シロイヌナズナ表皮細胞の形態形成に多面的な影響を与えており、NEK6 が ARK キネシンに関連した微小管機能を介して細胞の形態形成に関与することが示唆された。
著者
市川 尚斉 武藤 周 篠崎 一雄 松井 南 中澤 美紀 近藤 陽一 石川 明苗 川島 美香 飯泉 治子 長谷川 由果子 関 原明 藤田 美紀
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.428, 2007

優性突然変異を引き起こすミューテーションは、遺伝子ファミリーを形成する遺伝子群のゲノム的機能解析など、遺伝子破壊型のタギング法では表現型が現れない遺伝子の機能解析に欠かせないテクニックである。我々は総合的な遺伝子の機能付加を目指して、約1万種の独立シロイヌナズナ完全長cDNAからなる標準化cDNAライブラリーをアグロバクテリアのバイナリーベクター上で作成した後、このバクテリアライブラリーをシロイヌナズナに花感染させることでシステマティックに形質付与を起こさせる方法として、Fox Hunting Systemを開発した。T1世代の植物を15,000ライン以上観察したところ、可視変異の起きた1,487ラインを単離した。そのうち本葉でうす緑色の変異を起こした115ラインに関して次世代植物の観察を行ったところ、59ライン(51%)が優性もしくは半優性にT1表現系を再現した。cDNAの再導入によって表現型が再現したラインの1つは、ペールグリーンの性質の他に花芽形成が早まり、徒長成長も示すことが判明した。遺伝子配列を解析したところ、このcDNAは未知の遺伝子で分泌たんぱく質様の構造を持つ95アミノ酸配列の小型のたんぱく質をコードしていることがわかった。この新規機能遺伝子を例にしてFOX-hunting systemの有効性を議論する。
著者
藤 泰子 金 鍾明 栗原 志夫 松井 章浩 石田 順子 田中 真帆 諸沢 妙子 川嶋 真貴子 豊田 哲郎 横山 茂之 篠崎 一雄 関 原明
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.422, 2009

真核生物における遺伝子発現制御およびヘテロクロマチン形成には,ヒストンおよびDNAの化学修飾やsiRNAを介したエピジェネティックな機構が関与している.シロイヌナズナにおけるsiRNAを介したエピジェネティックな遺伝子抑制には, siRNA合成に関わる<I>RDR2</I>遺伝子, siRNAを介したDNAメチル化に関わる<I>DRM1, DRM2, CMT3</I>遺伝子, およびヒストン脱アセチル化酵素をコードする<I>HDA6</I>遺伝子が機能すると考えられている. <br>我々は, タイリングアレイを用いたゲノムワイドな発現解析により, <I>hda6</I>変異体において特異的に発現上昇が認められる遺伝子群を同定した. それら遺伝子群は, データベース上に公開されているsiRNAおよびDNAメチル化のマッピング領域と高度に重複していた. 一方, <I>rdr2</I>および<I>ddc</I>変異体(<I>drm1,drm2,cmt3</I>三重変異体)を用いた発現解析の結果から, <I>RDR2</I>や<I>DDC</I>により制御される遺伝子群は, 予想に反して<I>HDA6</I>遺伝子による制御領域とは殆ど一致しないことが明らかとなった. 以上のことから, <I>HDA6</I>による遺伝子抑制は, <I>RDR2</I>や<I>DDC</I>経路に依存しない機構であることが示唆された.
著者
藤 泰子 金 鍾明 松井 章浩 栗原 志夫 諸澤 妙子 石田 順子 田中 真帆 遠藤 高帆 角谷 徹仁 豊田 哲郎 木村 宏 横山 茂之 篠崎 一雄 関 原明
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.375, 2011

シロイヌナズナのヒストン脱アセチル化酵素HDA6は、RNA依存性DNAメチル化を介したヘテロクロマチン制御因子として同定されている。我々が行った全ゲノム発現解析の結果から、HDA6とDNAメチル化酵素MET1は、ヘテロクロマチン領域を主とした共通の遺伝子を抑制することが示された。また<I>hda6</I>機能欠損により、これら領域ではヒストンアセチル化の上昇など、エピジェネティックなクロマチン状態の推移が認められた。一方、同領域にはRDR2依存的な24nt siRNAが多数マップされるにもかかわらず、その転写活性は<I>rdr2</I>変異では殆ど影響を受けなかった。HDA6標的領域では周辺のDNAメチル化状態に呼応した2つのCGメチル化状態が観察された。周辺のDNAメチル化領域から孤立している場合では、<I>hda6</I>機能欠損により標的領域のCGメチル化は完全に消失していた。一方、DNAメチル化が隣接する場合には、CGメチル化が残留していた。また、これら両領域ではCGメチル化の状態に関わらず、CHGおよびCHHメチル化はともに消失し、転写が再活性化されていた。さらに、HDA6は周囲のDNAメチル化領域には結合せず、その標的領域にのみ結合していることが確認された。これらの結果から、HDA6はRNA依存性DNAメチル化経路に殆ど依存せず、MET1と協調して領域特異的なヘテロクロマチン抑制に機能することが示唆された。