- 著者
-
米沢 富美子
- 出版者
- 一般社団法人 日本物理学会
- 雑誌
- 日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.7, pp.589-598, 1979-07-05 (Released:2008-04-14)
- 参考文献数
- 26
X線吸収による新しい原子構造解析法が提案され, ここ数年注目をあびている. EXAFS (extended X-ray absorption fine structure)とよばれるこの方法は, X線光電効果を利用した構造解析法である. X線電子分光学が, 外部光電効果を利用して, 放出電子の性質から物質内電子のエネルギースペクトルを調べる一つの手段であるのに対して, EXAFSは内部光電効果によるX線吸収係数の, 広エネルギー領域にわたる微細構造から, X線を吸収した原子のまわりの局所的な原子配置をさぐる方法である. この方法は, 粒子線回折による構造解析と異なり, 結晶構造をとらない一般の不規則系に対しても有用性が全く変らないこと, 複数の構成要素から成る系に対してもそれぞれの種類の原子のまわりの配置の様子が調べられることなど, いくつかの長所を持っている. しかし当然適用限界はあり, 不注意な過信は危険である. この解説では, EXAFSの構造解析の理論の現状を紹介し, 構造に関して, 原理的に得られる情報と, 原理的に得られない情報とをまず明確にする. 更に, 原理的には可能でも実際上探索が至難である情報にどんなものがあるかを述べ, EXAFSの長所と限界をはっきりさせることによって, EXAFSの有効な応用への一助に供したい.