著者
武川 正吾 角 能 小川 和孝 米澤 旦
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.129-141, 2018-10-30 (Released:2020-10-30)
参考文献数
21

社会支出に関する社会意識の4時点の反復横断調査の結果,2000年代を通じた高福祉高負担(福祉国家)への支持の上昇が確認できたが,2015年調査ではこの傾向が逆転した。各調査の回収率,サンプルサイズの差異を考慮し,性別・年齢でウェイト調整したデータによる再分析を実施したが,逆転の事実は変わらなかった。支持者の属性に関して,2000年と2015年のデータをロジスティック回帰モデルによって比較したところ,各種属性による高福祉高負担支持の構造が変化していることがわかった。年齢に関して,2000年には若年層(低い支持)から高年齢層(高い支持)への線形的関係が存在したが,2015年にはそれがなくなっていた。さらに年齢階層別分析と出生コーホート分析を行った結果,時系列に関する大きな趨勢は同様であるものの年代・コーホートごとに変化の仕方にばらつきがあることがわかった。とくに若い世代の高福祉高負担支持が相対的に上昇している傾向が確認できる。
著者
米澤 旦
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.28-41, 2016-05-31 (Released:2019-06-20)
参考文献数
26

本論の目的は,サードセクター研究におけるサードセクター組織と規範性の関係性をたどることである.サードセクター研究は規範的なものとなりがちである.これは,サードセクター組織自体が何らかの規範的目的を追求し,研究もサードセクターの規範的立場に自らを重ねあわせてきたためである.多くの場合,サードセクターが体現する規範性は一元的なものと想定された.しかし,セクター境界の曖昧化とセクター内部の多元化により,そのような前提の揺らぎは顕在化している.本論では,サードセクター研究の変化をたどることで,柔軟な組織形態と規範性を分析する枠組みを検討する.本論の主張は,サードセクター研究における組織形態と規範性の結びつきは3 つのステージに分けることができるというものである.1990 年代までの研究は,セクター本質主義を前提とする考え方(本論では「第一ステージ」と呼ぶ),原理の媒介をサードセクターに見出す考え方(本論では「第二ステージ」と呼ぶ)に区分でき,さらに,近年では,制度ロジックという枠組みを用いた,サードセクター研究の「第三ステージ」とも呼べるような研究がみられている.組織形態と規範性を柔軟に分析することに,「第三ステージ」の研究の意義がある.これらの検討は,社会給付のサービス化が進行するなかで,福祉にかかわる組織のより良き理解に貢献するものであり,福祉社会学の規範的課題を解くうえでも重要な作業である.
著者
米澤 旦
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.117-134, 2014-05-08

本論文の目的は、福井県における社会的包摂の実践を事例から示すことにある。この課題に取り組むために、近年、社会政策領域で注目されている障害者就労支援領域での労働統合型社会的企業の活動に注目し、福井県の代表的事例の活動を分析する。障害者就労は社会的包摂と密接に関連するが、福井県は障害者就労について高い成果を示しており、その一因として、就労継続支援事業の充実がある。福井県において最大規模の知的障害者の就労支援継続支援事業を運営する「コミュニティネットワークふくい」を対象に、当該団体の社会的包摂の理念と活動について分析する。ヒアリングや文書資料をもとにした分析から、企業の論理を巧みに導入しながら、能力開発を中心に生産活動への包摂に取り組んでいること、しかし、同時に家族の論理との間で葛藤を抱えることが明らかにされた。そして本例の検討を通じて、労働統合型社会的企業の研究に対する含意を提示する。