著者
綾城 初穂
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.62-81, 2014

先行研究では,日本人キリスト教徒が「宗教」を語る際に,複数のポジション(ディスコース上の立ち位置)から「宗教」について矛盾した語りを行っていたことが見出されている。本研究では,この矛盾した語りに伴う葛藤に彼らがどのように対処しているのかを,ポジショニング理論によって検討することを目的とした。分析の結果,語りの時間的性質によってポジション間の矛盾を無化していることが見出された。また,個人的ポジショニングという「個人」を強調する発話行為によって,語り手が日本社会の「宗教」ディスコースのモラルオーダー(ポジションに付随するルール)に対処していることも見出された。個人的ポジショニングの検討から,この発話行為が語り手の固有性を指示することでモラルオーダーの効力の及ばない「聖域」を作り出すことが指摘された。現代社会において個人は,多様な文脈と単一の固有性とを同時に課せられている。それゆえ,多様なポジションが生じる語りの中で固有性を指示する発話行為として「個人」を捉えることは,現代社会の「個」の在り方を検討する上で有益と言えるだろう。
著者
綾城 初穂
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.20, no.Special, pp.S2-S8, 2021 (Released:2021-10-01)

児童生徒の主体的な問題解決が求められる生徒指導において,修復的実践は有用な方法となり得る。しかし,現場では修復的な対応が行われている一方で,修復的実践という観点から実践事例が検討されることはほとんどなかった。そこで本研究では,学校現場で行われた対立解決の話し合いを修復的実践の観点から検討することを目的とした。小学生児童2 名の間の対立解決の話し合い過程を,ナラティヴセラピーの視点に基づいて作られた修復的実践である修復的対話の枠組みから検討した結果,個人を問題視せず関係に焦点を当て,各児童のストーリーを尊重し,その主体性を重視する,主として問いかけを用いた学級担任の働きかけが,関係修復をもたらしていたことが示唆された。加えて,本実践には,児童が問題解決できる範囲を見極める担任の教師としての専門性と,個人を問題視しない学校側のチーム体制の姿勢も寄与していたことが推察された。本稿が示すように,現場の実践を意味づける研究は,見えにくい有益なスキルを広く利用可能なものとする上で役に立つと考えられる。
著者
綾城 初穂
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.62-81, 2014 (Released:2020-07-10)

先行研究では,日本人キリスト教徒が「宗教」を語る際に,複数のポジション(ディスコース上の立ち位置)から「宗教」について矛盾した語りを行っていたことが見出されている。本研究では,この矛盾した語りに伴う葛藤に彼らがどのように対処しているのかを,ポジショニング理論によって検討することを目的とした。分析の結果,語りの時間的性質によってポジション間の矛盾を無化していることが見出された。また,個人的ポジショニングという「個人」を強調する発話行為によって,語り手が日本社会の「宗教」ディスコースのモラルオーダー(ポジションに付随するルール)に対処していることも見出された。個人的ポジショニングの検討から,この発話行為が語り手の固有性を指示することでモラルオーダーの効力の及ばない「聖域」を作り出すことが指摘された。現代社会において個人は,多様な文脈と単一の固有性とを同時に課せられている。それゆえ,多様なポジションが生じる語りの中で固有性を指示する発話行為として「個人」を捉えることは,現代社会の「個」の在り方を検討する上で有益と言えるだろう。
著者
平野 真理 綾城 初穂 能登 眸 今泉 加奈江
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.43-64, 2018 (Released:2021-04-12)

レジリエンスの個人差は,これまで主に自己評価式尺度による能力測定,あるいは,何らかの一義的な適応基準 (精神症状の有無等)によって判断されてきた。しかしながら,レジリエンス概念を通したより丁寧な支援と理解 を考えるならば,本人が意識せずに有しているレジリエンス能力や,個々人で異なる回復・適応状態の特徴を描き出せるような視点が必要であると考えられる。そこで本研究では,レジリエンスの個人差をより豊かに理解する新しい視座を得るために,投影法を用いて個人の非意識的な側面も含めた行動特徴を捉えることを試みた。18 ~30歳の男女1,000名に,12種類の落ち込み状況を示した刺激画を提示し,登場人物が立ち直れるためのアドバイスを回答してもらった。こうして得られた12,000の記述データについてカテゴリー分析を行った結果,最終的に14のレジリエンス概念が見出された。続いて,得られた概念を相互の関連から理論的に整理した結果,14のレジリエンス概念は“どのような種類のレジリエンス”(「復元」「受容」「転換」)を“どのような手だて”(「一人」「他者」「超越」)を通して目指すのかという「レジリエンス・オリエンテーション」の視座からまとめられることが明らかとなった。本研究は,これまでのレジリエンス研究における一元的な個人差理解を超える,多様なレジリエンス理解の枠組みを提供するものである。
著者
綾城 初穂 平野 真理
出版者
福井大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

価値観が多様化し、社会変動の大きい現代日本において、子どもの心理援助は社会文化的文脈(ディスコース)を含めて検討される必要がある。そこで本研究では子どもの心理援助の過程を、ディスコース分析、特にポジショニング理論の枠組みから検討し、理論化することを試みた。その結果、a) 子どもが苦しむディスコースに対してセラピストが取るポジショニング(あるディスコースに対して取る立ち位置)が子どものポジショニングも変化させること、b) この過程を通して、子どもは多様なディスコースを利用するようになっていくこと、c) このディスコースの多様化が子どもの心理的回復につながること、の3点が大きく示された。