著者
佐々木 嘉光 内野 恵里 山口 ゆき 美津島 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P2146, 2010

【目的】重症熱中症は、意識障害を含む中枢神経障害をはじめとした多臓器不全(MOF)を呈する疾患であり、48時間以上の遷延性意識障害例で小脳症状の後遺症を来すとされている。今回、熱中症発症後に48時間を越える遷延性意識障害とMOF等を呈し、小脳症状等の後遺症を来した症例を経験した。発症から自宅退院までの経過をまとめ、機能予後について検討したので報告する。<BR>【症例】40歳代前半、男性。持ち家一人暮らし。業務中に行方不明となり、2日後に車内で倒れているのを発見されA病院へ救急搬送。意識レベルはJCS 300、血圧76/37mmHg、直腸温41.7&deg;Cであった。重症熱中症によるMOF、横紋筋融解症と診断され、腎不全に対し人工透析(HD)を週3回実施。脳波検査、頭部MRIで異常所見はなかった。遷延性意識障害が続き、発症2ヶ月後よりリハビリを開始。訓練開始1週間後、HDとリハビリ目的で当院転院し、同日より訓練(PT・OT・ST)開始となった。HDは転院2週間後に腎機能改善し離脱した。入院時検査所見では、BMI 20.9Kg/m<SUP>2</SUP>、心電図で洞性頻脈を認め、頭部CTは正常であった。安静時血圧は120/90mmHg、心拍数は105拍/分。精神機能は興奮、幻視、せん妄、見当識障害、記銘力障害がみられた。言語はジャーゴン様発話で強い不明瞭発語の構音障害を認め、失語症の評価はせん妄のため困難であった。また嚥下障害を認め中心静脈栄養管理であった。MMTは上肢1~3、下肢4<SUP>-</SUP>~4。深部筋腱反射は右アキレス腱・左上腕三頭筋腱で亢進、左膝蓋腱で正常、他減弱。病的反射は陰性。感覚は精査困難で筋緊張は低下。基本動作は全介助で寝たきりレベル。ADLはFIM 18点、協調運動は体幹失調試験ステージ4、国際協調運動評価尺度(ICARS)92点で姿勢および歩行障害・運動機能障害・構音障害・眼球運動異常を認めた。<BR>【説明と同意】本人に対して症例報告の目的、方法、参加・協力の拒否権、個人情報の保護、利益、公表方法について書面および口頭で説明を行い、同意と署名を得た。<BR>【訓練・経過】発症後約2.5ヶ月からリハビリ開始。理学療法(2~3単位)は、筋力維持・増強訓練、基本動作訓練、起立・歩行訓練を実施。運動負荷は%HRの65~75%程度、Borg scale 11~13とした。作業療法(1~2単位)は、高次脳機能訓練、両上肢巧緻動作訓練、ADL訓練を実施。言語療法(1~2単位)は、摂食・嚥下訓練と構音障害・失語症の評価と訓練を行った。訓練開始当初は起立性低血圧を認めたが、発症後約3ヶ月で車椅子駆動訓練、4輪型歩行車(CW)の介助歩行訓練を開始。寝返りは自立し、食事はきざみ食となった。標準失語症検査(SLTA)では、単語レベルでの理解と表出は可能であった。ICARSは79点で、座位・立位時の著明な体幹動揺と失調性歩行を認めた。発症後約4ヶ月で精神機能が著名に改善し、起立・着座訓練、リカンベント式エルゴメーター、踏み台昇降訓練、CW歩行訓練(40m)、バランス訓練実施。FIMは77点、食事は常食、SLTAは正常域で失語症は否定された。ICARSは72点で構音障害は不明瞭発語であるがほとんどの語は理解可能となった。発症5ヶ月後FIMは113点、ICARS 58点で、6ヶ月後FIMは122点、ICARS 35点となった。発症から9.5ヶ月後に頭部MRIを実施した結果、小脳に軽度の萎縮を認めた。10.5ヶ月後に独居の準備も整い、主治医と相談のうえ自宅退院となった。退院時はMMTが上肢4<SUP>+</SUP>~5、下肢5<SUP>-</SUP>~5、基本動作自立、手押し歩行車歩行は10m最大歩行速度7秒87、6分間歩行300m、独歩は見守りで10m程度可能、FIM 122点となった。体幹失調試験はステージ2、ロンベルグ徴候陰性、ICARS 27点で、最終的に小脳症状の後遺症(姿勢および歩行障害・構音障害・運動機能障害・眼球運動異常)が残存した。<BR>【考察】本症例は、発症後約2.5ヶ月間は全身状態が安定せず臥床状態が続き、予後は転院時でも予測できなかったが、約8ヶ月間のリハビリの実施により精神・運動機能、歩行能力と失調症状、構音障害とADLが改善した。発症4ヶ月頃より精神機能の改善と合わせてICARSとFIMは加速的に向上し、全般的な小脳症状が残存したが自宅退院に至り、機能予後は比較的良好であった。発症時の高体温による重度のMOFと48時間を超える遷延性意識障害を来す重症例では、意識レベルや精神機能が改善するまでの廃用予防と、精神機能改善後の集中的なリハビリが必要と考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法においては、これまで小脳症状とADLの程度を示した報告が少なく、稀な疾患であり、症例報告の蓄積によって今後の理学療法学の発展に寄与すると考える。
著者
長島 正明 蓮井 誠 永房 鉄之 美津島 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1576, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】自己免疫疾患などの炎症性疾患の急性期治療として,一般的に高用量ステロイド治療(30~60mg/日)が実施される。しかし,高用量ステロイド治療によって,ステロイド筋症が危惧される。主に速筋線維の萎縮が惹起され,筋力低下から転倒リスクが高まる。一方,骨格筋は身体の40%前後の重量を占めている。そこで我々は,筋力の推移は体重の推移から推測できると仮説した。本研究の目的は,高用量ステロイド治療中患者の筋力と体重の推移の関係性を検証することである。【方法】対象は高用量ステロイド治療目的で当院に入院した患者で,運動療法目的にリハビリテーション科に紹介となりADLが自立している17例とした。クレアチンキナーゼの上昇がない間質性肺炎合併皮膚筋炎および多発性筋炎4名,微小変化型ネフローゼ3名,全身性エリテマトーデス2名,肺サルコイドーシス2名,成人スティル病1名,天疱瘡1名,顕微鏡的多発血管炎1名,血管炎1名,非IgA腎症1名,膜性腎症1名で,男性10名女性7名であった。平均年齢は50±14歳,平均在院日数は68±18日,運動療法開始から退院時までの平均期間は49±14日であった。運動療法は,有酸素トレーニングとして嫌気性作業閾値の強度での自転車駆動20-30分,筋力トレーニングとしてスクワット運動や上肢ダンベル運動をBorg Scale13-15の強度で週5回実施した。測定は運動療法開始時と退院時に実施した。筋力は筋機能評価運動装置BIODEXを用い膝屈曲90°位で等尺性膝伸展最大筋力を測定した。体重,ステロイド服用量を診療録より記録した。骨格筋量は体組成計インボディを用い計測した。運動療法開始時と退院時の比較に,対応のあるt検定を用いた。また,筋力変化率と体重変化率の関係は,Pearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。結果は平均±標準偏差で示す。【結果】運動療法開始時/退院時で,1日あたりのステロイド服用量は45±8/30±5mgであった。体重は56.8±12.6/54.2±10.7kg(変化率-4.0±4.6%),骨格筋量は23.5±6.1/22.1±5.8kg(変化率-5.7±6.0%),膝伸展筋力は右113±60/101±58Nm(変化率-9.3±24.9%),左109±59/101±60Nm(変化率-6.8±27.1%)で有意に低下した。体重変化率と右膝伸展筋力変化率(r=0.67 p=0.004),体重変化率と左膝伸展筋力変化率(r=0.57 p=0.018)は有意に相関した。【結論】高用量ステロイド治療中患者の筋力は,運動療法を実施したにも関わらず有意に低下した。高用量ステロイド治療中患者の筋力減少と体重減少は有意に相関した。したがって,高用量ステロイド治療中患者において,筋力測定をせずとも体重減少から筋力低下を推測でき,転倒リスクの把握に有益である可能性がある。
著者
長島 正明 中村 重敏 山内 克哉 入澤 寛 安田 千里 美津島 隆
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第24回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.P014, 2008 (Released:2008-12-09)

【はじめに】 近年,肺の葉切除や部分切除後の肺機能や運動能力についての報告は散見するようになったが,片肺全切除患者の術前から術後早期における肺機能や運動能力の回復過程の報告はない.今回,術前から術後早期における片肺全切除一症例の肺機能と運動能力を測定し,葉切除例と比較したので報告する. 【方法】 対象1:58歳男性(168cm,57kg,術前%肺活量94%,1秒率73%)左上葉肺癌(扁平上皮癌)Stage3Bで化学療法後開胸法にて左片肺全切除となった.対象2:59歳男性(174cm,62kg,術前%肺活量92%,1秒率67%)左上葉肺癌(扁平上皮癌)Stage3Aで化学療法後Stage2Bとなり胸腔鏡手術にて左上葉切除となった.2例は術前心疾患はなかった.術前,術後1週,2週,3週,4週においてスパイロメータを用いて肺機能を測定し,同時に,呼気ガス分析装置を用いて運動負荷試験を実施し,最大酸素摂取量を測定した.運動負荷は自転車エルゴメータを使い,20分の安静後,3分間の30Wウォーミングアップ,その後1分毎に10W増加させall outまで実施した.術前,2例とも1週間の呼吸訓練を実施された. 【結果】 2例とも術後合併症はなかった.術後訓練は早期離床後,自転車エルゴメータにて一日20分以上の持久力訓練と呼吸指導を実施した.対象1は術後4週,対象2は術後3週で退院した. 肺機能:%肺活量は術前と比較し,対象1は術後1週で34%,4週で46%,対象2は術後1週で54%,4週で72%まで改善した.1秒率は術前と比較し,対象1は術後1週で93%,4週で86%,対象2は術後1週で88%,4週で93%であった. 運動能力:最大酸素摂取量(ml/kg)は,対象1は術前20.0,術後1週で8.9,4週で14.2,対象2は術前18.9,術後1週で15.6,4週で19.6へ改善した. 【考察】 肺切除後の運動能力の低下は,肺切除に伴う肺の容積,血管床の縮小による肺機能の低下が原因と考えられる.したがって,片肺全切除例はその切除域が肺葉切除に比べ大きいため,より肺機能が低下したと考えられた.加えて,片肺全切除例は開胸術であり手術侵襲が大きいことも影響しているかもしれない.片肺全切除例は,術前に比べ最大酸素摂取量は術後4週において70%程度であった.一方,上葉切除例では術前を上回った. 【結論】 最大酸素摂取量は,術後4週で葉切除例は術前レベルに改善したが,片肺全切除例は70%程度の改善であった.今後,症例の蓄積が必要である.
著者
長島 正明 蓮井 誠 山内 克哉 美津島 隆
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1626, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】ネフローゼ症候群は高度の尿蛋白により低蛋白血症を来す腎臓疾患群の総称である。腎臓病患者に対する運動療法は少なくとも嫌気性作業閾値(以下AT)であれば尿蛋白や腎機能へ影響を与えないことが報告されつつあり,ネフローゼ症候群診療ガイドライン2014においても安静や運動制限の有効性は明らかではなく推奨されていない。一方,ネフローゼ症候群の急性期治療として高用量(0.5>mg/kg/日)ステロイド治療が一般的であるが,ステロイド筋症による筋力低下によってADL制限が顕在化することがある。低用量ステロイド治療患者に対し運動療法が有効であることが報告されているが,高用量ステロイド治療における運動療法の有用性は不明である。本研究の目的は,高用量ステロイド治療中のネフローゼ症候群患者における運動療法の有効性を体組成・筋力・運動耐容能から検証することである。【方法】対象は高用量ステロイド治療目的で当院腎臓内科に入院したネフローゼ症候群患者で,運動療法の依頼でリハビリテーション科に紹介となったADL自立の60歳代一症例とした。運動療法は週5回実施した。有酸素運動としてATでの自転車駆動30分,筋力運動としてスクワット動作や上肢ダンベル体操をBorg Scale13の強度で実施した。測定は運動療法開始前と退院時に実施した。体組成は体組成計インボディを用い,筋量,脂肪量を測定した。筋力は筋機能評価運動装置BIODEXを用い,等尺性膝伸展最大筋力を膝屈曲90°位で測定した。運動耐容能は心肺運動負荷試験で評価した。心肺運動負荷試験は呼気ガス分析装置および自転車エルゴメータを用い,10wattランプ負荷とし,ATおよび最高酸素摂取量を測定した。ATはV-slope法にて決定した。最高酸素摂取量は症候限界時の酸素摂取量とした。また,体重,食事摂取カロリー,尿蛋白一日量,ステロイド服用量を診療録より記録した。【結果】入院3週目よりステロイド0.8 mg/kg/日で治療開始され,同時に運動療法開始となった。運動療法は8週間実施され,ステロイドは0.4mg/kg/日まで減量し退院となった。運動療法8週間前後で,体重(kg)は60.4→53.5に減少した。筋量(kg)は26.5→21.8に減少,体脂肪量(kg)は11.0→12.1に増加した。体重比筋力(Nm/kg)は右2.15→1.50,左1.85→1.51に低下した。AT(ml/kg/min)は12.7→15.6,最高酸素摂取量(ml/kg/min)は19.8→20.0に増加した。心肺運動負荷試験の終了理由はペダル50回転維持困難であった。また,入院中の食事は1800kcal全量摂取であり,間食はなかった。尿蛋白一日量(mg/日)の一週間平均値は4095→2159へ改善した。【結論】本症例において,運動療法によって筋力を維持することは困難であったが,運動耐容能を維持することができた。高用量ステロイド治療中のネフローゼ症候群患者における運動療法の強度の検証が必要である。
著者
高橋 大生 井口 ゆかり 小川 元大 竹内 真太 西田 裕介 美津島 隆
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.143, 2012 (Released:2013-01-10)

【はじめに】 熱傷の急性期には早期の日常生活動作(以下、ADL)自立を目指す必要があるといわれている。また、自殺企図による熱傷の症例では身体的問題と精神的問題は並行して治療していかなければならないとされている。今回、焼身自殺を図ったことにより重症熱傷を呈したが、精神状態の変動に留意したリハビリの介入によってADLの向上、歩行の再獲得に至った症例を経験したため文献的考察をふまえて報告する。なお、症例には発表の主旨を十分に説明し同意を得ている。【患者情報】 対象は40歳代女性である。既往歴に大うつ病性障害、解離性障害があり、以前に3回の自殺企図があった。平成X年2月25日、灯油による焼身自殺を図り、当院へ救急搬送された。入院時所見としてTotal Burn Surface Area 50%のⅢ度熱傷、Burn Index(以下、BI)50、気道熱傷の合併を認め、Artzの基準で重症熱傷と診断された。当院ICUに入室し人工呼吸器管理となった。その後、同年2月25日、3月2日、8日に分層植皮術施行し、3月8日より拘縮予防のため理学療法の介入を開始した。5月23日に四肢関節可動域訓練、離床開始となった。【初期理学療法評価(6/3)】 身体機能の評価は安静臥位時HR144拍、呼吸数54回、ROM-T右足関節背屈-10°、左足関節背屈-5°、両股関節屈曲80°、MMT下肢2~3レベル、体幹・上肢3~4レベルであった。基本動作とADL評価は起居動作が中等度介助、起立は最大介助、歩行は実施困難な状態であり、FIMは40点であった。精神機能の評価は短縮版POMSの抑うつ項目が17点であった。問題点として#1. ROM制限、#2. 筋力低下、#3. 運動耐容能低下を挙げた。PT訓練はROM訓練、筋力訓練、起居動作訓練、呼吸指導とし、週5回、1回40分実施した。【治療経過】 初期は関節可動域訓練を中心とした拘縮予防を行った。5月18日、Head-up 40°可能となった。6月7日Tilt tableにて起立訓練を行った。6月13日に平行棒内歩行訓練開始し、6月23日にサイドストッパー型歩行器歩行訓練開始した。6月29日にT字杖歩行訓練開始となり7月4日に独歩開始した。【最終理学療法評価(7/4)】 身体機能の評価は安静臥位時HR121拍、呼吸数36回、ROM-T右足関節背屈-5°、左足関節背屈0°、右股関節屈曲95°、左股関節屈曲90°、MMT下肢4レベル、体幹・上肢4レベルであった。基本動作は全て自立となりFIMは79点であった。歩行能力は10m歩行試験(平地、T字杖)39.6秒、最大歩行距離は独歩で23mであった。【考察】 自殺企図の症例では精神的問題も治療していかなくてはならないとされていることから、本症例に介入する上で精神状態の変動を把握することはリハビリのフィードバックにつながる点で有用であると考えた。そこで精神状態と身体機能の変動を調べ、リハビリに反映していくために身体機能をFIM、精神機能をPOMSで経時的な評価を行った。その結果FIM得点の上昇に伴いPOMS(抑うつ項目)が減少する傾向がみられた。達成体験が自己効力感につながることから、可能な動作が増えたことで本症例の自己効力感が増大し、抑うつの軽減につながったと考えた。
著者
長島 正明 江西 一成 近藤 亮 松家 直子 片山 直紀 永房 鉄之 美津島 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】皮膚筋炎・多発性筋炎は骨格筋を病変の主座として,亜急性に進行する近位筋優位の筋力低下や筋痛を認める全身性炎症性疾患で,発症は40歳代から60歳代の女性に多いとされている。早期診断・適切な治療により日常生活が自立する例も多いものの,好発年齢の関係から,自宅退院後の生活や仕事,余暇活動において高い身体機能が望まれる。今回我々は,急性期病院退院時にADLが自立していた皮膚筋炎・多発性筋炎患者を対象に体力測定を行い,同年健常者と比較することで筋炎患者の身体能力の実態を調査した。【方法】対象は当院入院し今回初めて皮膚筋炎もしくは多発性筋炎と診断され,退院時にADLが自立していた8名であった。測定は退院前1週間前後に実施した。比較対象群として,運動習慣のない同年健常者ボランティア9名を設定した。呼気ガス分析装置および自転車エルゴメータを用い,5もしくは10wattランプ負荷とし,嫌気性作業閾値および最高酸素摂取量を測定した。嫌気性作業閾値はV-slope法にて決定した。最高酸素摂取量はペダル50回転を維持困難,最大心拍数の90%,ボルグスケール19,危険な不整脈や胸痛の出現,被験者からの中止要請のいずれかに該当した時の酸素摂取量とした。6MWTは30mの折り返し歩行とし,最大歩行距離を測定した。筋力は筋機能評価運動装置BIODEXを用い,利き足の等尺性膝伸展最大筋力を膝屈曲90°位で測定した。統計学的解析はSPSSを用いてMann-Whitney U検定にて群間比較を行った。有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】対象者には本研究の趣旨,情報管理および結果の公表に関して,口頭で説明し文書にて同意を得た。本研究は浜松医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】対象は全例女性であった。年齢(歳)は筋炎群46±9,健常者群44±8であった。身長(cm)は筋炎群156±5,健常者群157±4,体重(kg)は筋炎群44±7,健常者群50±5,BMI(kg/m<sup>2</sup>)は筋炎群18.1±2.9,健常者群20.1±1.7であった。いずれも群間に有意差はなかった。筋炎群の退院時血清クレアチンキナーゼは196±230(15-655)IU/Lであった。退院時の内科的治療は1例がステロイド内服25mg/日,5例がステロイド内服30mg/日,1例がステロイド内服30mg/日+ネオーラル100mg/日,1例がステロイド内服30mg/日+メソトレキサート12mg/週であった。在院日数は65±19日であった。ADLはBarthel Indexで全例100点であった。全例筋痛は認めなかった。嫌気性作業閾値(ml/kg/min)は筋炎群10.3±3.1,健常者群14.7±4.9であった。最高酸素摂取量(ml/kg/min)は筋炎群18.6±6.6,健常者群27.2±7.3であった。6MWT(m)は筋炎群511±110,健常者群641±49であった。Peak load(watt)は筋炎群68±27,健常者群115±30であった。いずれも筋炎群で有意に低値であった。安静時心拍数(beats/min)は筋炎群75±11,健常者群64±9であり,筋炎群は有意に高値であった。最大心拍数(beats/min)は筋炎群151±21,健常者群157±9で群間に有意差はなかった。筋力(Nm/体重)は筋炎群1.35±0.40,健常者群2.52±0.28であり,筋炎群は有意に低値であった。【考察】皮膚筋炎・多発性筋炎患者はI線維の割合が有意に少ない(Dastmalchi 2007)ことが報告されている。一方,副腎皮質ステロイドの大量投与もしくは長期投与はIIb線維の特異的な萎縮を来す(Pereira RM 2011)ことが知られており,筋炎患者は病態上も治療上も特異的な筋病態を呈していることが推察される。また,下肢最大筋力が大きいほど歩行速度は速い(淵本1999)など一般的に筋力は運動パフォーマンスと関係すると言われている。身体能力の低下は骨格筋量の減少を背景として,6MWTではIIb線維の萎縮に伴う最大筋出力低下が起因し,有酸素能力ではI線維割合の低下に伴う末梢での酸素利用能低下が起因するものと考えられる。安静時心拍数は筋炎患者において有意に高かった。疾患それ自体が自律神経系に与える影響が大きいこと,また入院による運動不足に伴う交感神経活動の亢進が要因かもしれない。本研究により筋炎患者の有酸素能力,筋力,歩行能力が低下していることが明らかとなったが,自宅退院後および社会復帰後に,どの程度の制限を受けるかは定かではない。今後は生活に応じた実態調査が必要である。【理学療法学研究としての意義】皮膚筋炎・多発性筋炎患者において,ADLが自立していても有酸素能力,筋力,歩行能力は低下していることが判明した。筋疾患の場合,運動自体が筋線維を壊してしまう場合があるが,血清クレアチンキナーゼ,筋痛や筋力低下などの症状に配慮しながら運動療法を実施する必要性が示唆された。
著者
山内 克哉 伊藤 倫之 美津島 隆 三浦 美穂
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, 2005-04-18

慢性呼吸不全患者は,呼吸補助を行うと呼吸状態が改善することを経験する.今回,気道確保を必要とせず呼吸補助を行える長所を持つRTXを使用し,呼吸状態の改善の有無を検討した.症例は81歳,男性.10年前より肺気腫の診断で通院していた.2003年8月より呼吸状態悪化し,在宅酸素療法施行となった.2004年8月10日より入院加療し,口すぼめ呼吸や筋力増強訓練などの呼吸リハを開始したが,呼吸状態の改善は得られなかった.11月8日より1週間,毎日1〜2時間RTXを使用し,前後の血液ガス,呼吸機能検査を測定した.結果,血液ガスは,PaCO_2低下,PaO_2増加反応を示した.呼吸機能検査では,%VCは増加したが,FEV_1.0は低値のままであった.また,RTX使用で呼吸疲労度は軽減し,本人の満足度も得られる結果となった.今回の症例では,RTX使用が有用であり,今後も更なる症例を重ね検討を加える必要がある.