著者
佐々木 嘉光 内野 恵里 山口 ゆき 美津島 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P2146, 2010

【目的】重症熱中症は、意識障害を含む中枢神経障害をはじめとした多臓器不全(MOF)を呈する疾患であり、48時間以上の遷延性意識障害例で小脳症状の後遺症を来すとされている。今回、熱中症発症後に48時間を越える遷延性意識障害とMOF等を呈し、小脳症状等の後遺症を来した症例を経験した。発症から自宅退院までの経過をまとめ、機能予後について検討したので報告する。<BR>【症例】40歳代前半、男性。持ち家一人暮らし。業務中に行方不明となり、2日後に車内で倒れているのを発見されA病院へ救急搬送。意識レベルはJCS 300、血圧76/37mmHg、直腸温41.7&deg;Cであった。重症熱中症によるMOF、横紋筋融解症と診断され、腎不全に対し人工透析(HD)を週3回実施。脳波検査、頭部MRIで異常所見はなかった。遷延性意識障害が続き、発症2ヶ月後よりリハビリを開始。訓練開始1週間後、HDとリハビリ目的で当院転院し、同日より訓練(PT・OT・ST)開始となった。HDは転院2週間後に腎機能改善し離脱した。入院時検査所見では、BMI 20.9Kg/m<SUP>2</SUP>、心電図で洞性頻脈を認め、頭部CTは正常であった。安静時血圧は120/90mmHg、心拍数は105拍/分。精神機能は興奮、幻視、せん妄、見当識障害、記銘力障害がみられた。言語はジャーゴン様発話で強い不明瞭発語の構音障害を認め、失語症の評価はせん妄のため困難であった。また嚥下障害を認め中心静脈栄養管理であった。MMTは上肢1~3、下肢4<SUP>-</SUP>~4。深部筋腱反射は右アキレス腱・左上腕三頭筋腱で亢進、左膝蓋腱で正常、他減弱。病的反射は陰性。感覚は精査困難で筋緊張は低下。基本動作は全介助で寝たきりレベル。ADLはFIM 18点、協調運動は体幹失調試験ステージ4、国際協調運動評価尺度(ICARS)92点で姿勢および歩行障害・運動機能障害・構音障害・眼球運動異常を認めた。<BR>【説明と同意】本人に対して症例報告の目的、方法、参加・協力の拒否権、個人情報の保護、利益、公表方法について書面および口頭で説明を行い、同意と署名を得た。<BR>【訓練・経過】発症後約2.5ヶ月からリハビリ開始。理学療法(2~3単位)は、筋力維持・増強訓練、基本動作訓練、起立・歩行訓練を実施。運動負荷は%HRの65~75%程度、Borg scale 11~13とした。作業療法(1~2単位)は、高次脳機能訓練、両上肢巧緻動作訓練、ADL訓練を実施。言語療法(1~2単位)は、摂食・嚥下訓練と構音障害・失語症の評価と訓練を行った。訓練開始当初は起立性低血圧を認めたが、発症後約3ヶ月で車椅子駆動訓練、4輪型歩行車(CW)の介助歩行訓練を開始。寝返りは自立し、食事はきざみ食となった。標準失語症検査(SLTA)では、単語レベルでの理解と表出は可能であった。ICARSは79点で、座位・立位時の著明な体幹動揺と失調性歩行を認めた。発症後約4ヶ月で精神機能が著名に改善し、起立・着座訓練、リカンベント式エルゴメーター、踏み台昇降訓練、CW歩行訓練(40m)、バランス訓練実施。FIMは77点、食事は常食、SLTAは正常域で失語症は否定された。ICARSは72点で構音障害は不明瞭発語であるがほとんどの語は理解可能となった。発症5ヶ月後FIMは113点、ICARS 58点で、6ヶ月後FIMは122点、ICARS 35点となった。発症から9.5ヶ月後に頭部MRIを実施した結果、小脳に軽度の萎縮を認めた。10.5ヶ月後に独居の準備も整い、主治医と相談のうえ自宅退院となった。退院時はMMTが上肢4<SUP>+</SUP>~5、下肢5<SUP>-</SUP>~5、基本動作自立、手押し歩行車歩行は10m最大歩行速度7秒87、6分間歩行300m、独歩は見守りで10m程度可能、FIM 122点となった。体幹失調試験はステージ2、ロンベルグ徴候陰性、ICARS 27点で、最終的に小脳症状の後遺症(姿勢および歩行障害・構音障害・運動機能障害・眼球運動異常)が残存した。<BR>【考察】本症例は、発症後約2.5ヶ月間は全身状態が安定せず臥床状態が続き、予後は転院時でも予測できなかったが、約8ヶ月間のリハビリの実施により精神・運動機能、歩行能力と失調症状、構音障害とADLが改善した。発症4ヶ月頃より精神機能の改善と合わせてICARSとFIMは加速的に向上し、全般的な小脳症状が残存したが自宅退院に至り、機能予後は比較的良好であった。発症時の高体温による重度のMOFと48時間を超える遷延性意識障害を来す重症例では、意識レベルや精神機能が改善するまでの廃用予防と、精神機能改善後の集中的なリハビリが必要と考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法においては、これまで小脳症状とADLの程度を示した報告が少なく、稀な疾患であり、症例報告の蓄積によって今後の理学療法学の発展に寄与すると考える。
著者
松浦 康治郎 高木 大輔 影山 昌利 小島 怜士 佐々木 嘉光 宮城 道人
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第27回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.203, 2011 (Released:2011-12-22)

【はじめに】長胸神経麻痺とは、長胸神経が外傷等により損傷を受けることで前鋸筋の筋力低下をきたし、肩関節の屈曲、外転方向の運動が障害され、翼状肩甲骨等の臨床症状を呈す疾患である。一般的に外傷性の神経断裂がなければ2~3ヶ月、遅くとも6ヶ月程度で自然治癒してくるとされ、24~48ヶ月でほぼ回復するとされており、理学療法介入の機会は少ない。<BR>1998年に北村らは、8症例に対し保存的治療後5年間の経過を追ったが、治療成績には個体差がみられ、また、1995年にKuhnは二次的に上肢帯機能不全を呈す症例があると報告している。つまり、長胸神経麻痺症例がたどる経過や治癒成績は一定していないと考えられ、さらに理学療法の介入効果の報告は散見される程度である。今回長胸神経麻痺を呈した後に運動時の疼痛を主とする二次的な上肢帯機能不全の合併が疑われた症例を経験した。約8ヶ月間の理学療法介入を経験する機会を得たため、経過をまとめて報告する。 【症例紹介】症例は10歳代後半の男性で、平成21年5月上旬に左肩周辺に疼痛が出現し、上肢挙上困難となった。8月中旬に当院受診し、長胸神経麻痺と診断。その後、上肢安静、運動制限(良肢位保持)を行い約3ヵ月後より医師の指導で肩周囲の自主訓練を行ったが、機能改善に乏しく、同年12月中旬より理学療法開始となった。尚、今回の報告に際し、本人に口頭および紙面で説明し同意を得た。 【初期評価時現症(平成21年12月中旬)】左肩ROM(Active/Passive)は、屈曲80°P/120°P、外転60°P/70°P。徒手筋力テスト(MMT)は屈曲・外転4。握力(左/右)25/47kg。疼痛(NRS)は、左肩屈曲・外転・外旋の自動運動時に6~8で、翼状肩甲を認めた。筋持久力の評価を目的とし、連続して反復運動可能な回数(左/右)を評価した結果、肩屈曲2/53回、肩外転1/45回であった。 【経過】平成21年12月中旬より理学療法を開始。ホットパック、ストレッチ、マッサージ、他動・自動のROM訓練を40~60分、週4回実施した。理学療法介入より40病日で左肩屈曲・外転筋群の筋力がMMT5となり、59病日には、ROMが左肩自動屈曲120°、外転150°となった。84病日には左肩自動屈曲・外転ROMが150°になり、116病日には左肩自動屈曲・外転ともに170°まで改善した。116病日より前鋸筋を中心に筋力訓練を開始。127病日に明らかな翼状肩甲が消失し、左肩自動運動時痛も減少を認め(NRS 4~6)、左肩反復屈曲は15回、外転は12回まで可能となった。143病日には左肩自動屈曲、外転180°まで改善。189病日には左肩反復屈曲が25回まで可能となり、左肩運動時痛はNRS2~4となった。200病日には左肩反復外転20回となり、228病日に理学療法終了となった。 【最終評価時現症(平成22年7月下旬)】左肩ROM(Active/Passive)は、屈曲180°P/180°、外転180°P/180°。MMTは屈曲・外転5。握力(左/右)32/50kg。疼痛(NRS)は、肩屈曲・外転・外旋時に2~4で、明らかな翼状肩甲は消失。連続して反復運動可能な回数(左/右)は、肩屈曲25/48回、肩外転20/51回であった。 【考察】長胸神経麻痺後の症例に対して、約8ヶ月間の理学療法を実施した結果、MMTが介入後約40病日、ROMが約140病日まで改善を認めた。ROMの改善については、2009年に加古原らは過剰収縮のある筋群を抑制し、前鋸筋訓練を行うことで、長胸神経麻痺症例の肩ROMが大幅に改善したと報告している。本症例も、代償筋群へのリラクセーションや前鋸筋を中心とした訓練により、筋の過緊張が抑制され、ROMが改善したと考える。また、MMTにおいても、代償筋群の過剰収縮の軽減による筋出力の再調整、疼痛の軽減が改善の要因に挙げられるのではないかと考える。疼痛については、1995年にKuhnらは、長胸神経麻痺症例では、上肢帯運動時に代償筋群の過剰な収縮により、二次的に疼痛を起こす場合があると報告している。本症例は上肢帯拳上の際に、努力性の動作を認めたことから、代償筋群の過剰収縮が筋血流量の減少をもたらし、筋の収縮時痛が生じていると考える。また、筋血流量の減少により筋持久力の低下も招いている可能性が推測されるが、今回は客観的評価に乏しかったため、今後検討が必要である。 【まとめ】長胸神経麻痺で二次的な上肢帯機能不全がある症例に対して理学療法を行い、ROMとMMTの改善がみられた。一方で、疼痛や筋持久力低下などのさらなる障害も認めたため、今後は長胸神経麻痺に対してのリハビリテーションによる経過や効果等の検討を積み重ねていく必要がある。
著者
合田 明生 佐々木 嘉光 本田 憲胤 大城 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101989, 2013

【はじめに、目的】近年,運動が認知機能を改善,または低下を予防する効果が報告されている.運動による認知機能への効果を媒介する因子として,脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている.BDNF は神経細胞の分化,成熟,生存の維持を促進する.またBDNFは神経細胞内に貯蔵されており,中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される.さらに血液-脳関門を双方向性に通過可能なため,中枢神経のみではなく末梢血液中にも存在している.運動時のBDNF反応を観察した先行研究から,中強度以上の有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加することが示唆されている.一方で,これらの先行研究は欧米人を対象としたものが多く,日本人を対象とした研究は見つからなかった.そこで本研究では,日本人において中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加すると仮説を立て検証を行った.その結果から,運動による認知症予防のエビデンス構築の一助とすることを目的とする.【方法】健常成人男性40 名(年齢 24.1 ± 2.8 歳; 身長 170.6 ± 6.7cm; 体重 64.8 ± 9.4kg)を対象にした.本研究は,運動負荷試験と本実験からなり,48 時間以上の期間を空けて実施した.運動様式は,運動負荷試験・本実験ともに,自転車エルゴメータを用いた運動負荷(60 回転/分)とした.運動負荷試験では,最高酸素摂取量を測定した.本実験では,30 分間の中強度運動介入を行い,運動前後で採血を実施した.採血は医師によって実施された.採取した血液検体は,血清に分離した後,解析まで-20°で保管した.血液検体の解析は検査機関に委託し,酵素結合免疫吸着法検を用いてBDNF量の測定を行った.以上の結果から,中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加するのかを検討した.正規性の検定にはShapiro wilk検定を用いた.BDNFの運動前後の比較には,対応のあるt検定を用いた.危険率5%未満を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり,聖隷クリストファー大学倫理審査委員会及び近畿大学医学部倫理委員会の承認を得た.また対象者には研究の趣旨を口頭と文章で説明し,書面にて同意を得た.【結果】中強度の有酸素運動介入によって,40 人中22 名で運動前に比べて運動後に血清BDNFが増加した.しかし,運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.21).【考察】運動介入によって末梢血液中のBDNFが増加することは,欧米人を対象とした多くの先行研究で報告されている.健常成人における有酸素運動介入による末梢血液中のBDNFの急性反応を調査した文献は13 本確認され,運動後にBDNFが増加した研究は8 本であり,不変または減少した研究は5 本であった.本研究と同様に,運動後に有意なBDNF 増加が認められなかった先行研究では,急速な中枢神経系への輸送が生じたため,運動後の採血でBDNFの増加が見られなかったのであろうと考察している.本研究では,動脈カテーテルを用いたリアルタイムの採血ではなく,静脈に穿刺して採血を行っている.そのため,被験者により運動終了から採血までの時間が数分程度差異があり,この間の末梢血液中BDNFの脳内取り込みが結果に影響している可能性がある.さらに,本研究で運動によりBDNF増加が生じなかった要因の1 つとして,一塩基多型(Val66Met)によるものも考えられる.これはBDNF遺伝子の196 番目の塩基がGからAに変化した多型のことで,これによってBDNF前駆体であるproBDNFの66 番目のアミノ酸がValからMetに変化する.Met 型の一塩基多型を持つ個体では,Val型に比べ,BDNFの活動依存性分泌が障害されることが報告されている.また日本人における一塩基多型(Val66Met)の保有率は,50.3%〜53.0%と欧米人に比べて高い値が報告されおり,このBDNF分泌を阻害する一塩基多型(Val66Met)の保有により,本研究対象者の運動によるBDNFの調節性分泌が減少していた可能性が考えられる.以上より,健常日本人男性におけるBDNFを増加させることを目的とした30 分間の中強度有酸素運動は,対象者によって適応の有無を検討する必要があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から日本人の特性を考慮した認知機能に対する運動介入が必要であることが示唆される.今後需要が拡大すると予測される認知症予防の分野ではあるが,BDNF増加を目的とした運動介入を行う際には,対象者の適応を検討することでより効率的な介入効果が期待できると考えられる.
著者
合田 明生 佐々木 嘉光 本田 憲胤 大城 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101989, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】近年,運動が認知機能を改善,または低下を予防する効果が報告されている.運動による認知機能への効果を媒介する因子として,脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている.BDNF は神経細胞の分化,成熟,生存の維持を促進する.またBDNFは神経細胞内に貯蔵されており,中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される.さらに血液-脳関門を双方向性に通過可能なため,中枢神経のみではなく末梢血液中にも存在している.運動時のBDNF反応を観察した先行研究から,中強度以上の有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加することが示唆されている.一方で,これらの先行研究は欧米人を対象としたものが多く,日本人を対象とした研究は見つからなかった.そこで本研究では,日本人において中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加すると仮説を立て検証を行った.その結果から,運動による認知症予防のエビデンス構築の一助とすることを目的とする.【方法】健常成人男性40 名(年齢 24.1 ± 2.8 歳; 身長 170.6 ± 6.7cm; 体重 64.8 ± 9.4kg)を対象にした.本研究は,運動負荷試験と本実験からなり,48 時間以上の期間を空けて実施した.運動様式は,運動負荷試験・本実験ともに,自転車エルゴメータを用いた運動負荷(60 回転/分)とした.運動負荷試験では,最高酸素摂取量を測定した.本実験では,30 分間の中強度運動介入を行い,運動前後で採血を実施した.採血は医師によって実施された.採取した血液検体は,血清に分離した後,解析まで-20°で保管した.血液検体の解析は検査機関に委託し,酵素結合免疫吸着法検を用いてBDNF量の測定を行った.以上の結果から,中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加するのかを検討した.正規性の検定にはShapiro wilk検定を用いた.BDNFの運動前後の比較には,対応のあるt検定を用いた.危険率5%未満を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり,聖隷クリストファー大学倫理審査委員会及び近畿大学医学部倫理委員会の承認を得た.また対象者には研究の趣旨を口頭と文章で説明し,書面にて同意を得た.【結果】中強度の有酸素運動介入によって,40 人中22 名で運動前に比べて運動後に血清BDNFが増加した.しかし,運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.21).【考察】運動介入によって末梢血液中のBDNFが増加することは,欧米人を対象とした多くの先行研究で報告されている.健常成人における有酸素運動介入による末梢血液中のBDNFの急性反応を調査した文献は13 本確認され,運動後にBDNFが増加した研究は8 本であり,不変または減少した研究は5 本であった.本研究と同様に,運動後に有意なBDNF 増加が認められなかった先行研究では,急速な中枢神経系への輸送が生じたため,運動後の採血でBDNFの増加が見られなかったのであろうと考察している.本研究では,動脈カテーテルを用いたリアルタイムの採血ではなく,静脈に穿刺して採血を行っている.そのため,被験者により運動終了から採血までの時間が数分程度差異があり,この間の末梢血液中BDNFの脳内取り込みが結果に影響している可能性がある.さらに,本研究で運動によりBDNF増加が生じなかった要因の1 つとして,一塩基多型(Val66Met)によるものも考えられる.これはBDNF遺伝子の196 番目の塩基がGからAに変化した多型のことで,これによってBDNF前駆体であるproBDNFの66 番目のアミノ酸がValからMetに変化する.Met 型の一塩基多型を持つ個体では,Val型に比べ,BDNFの活動依存性分泌が障害されることが報告されている.また日本人における一塩基多型(Val66Met)の保有率は,50.3%〜53.0%と欧米人に比べて高い値が報告されおり,このBDNF分泌を阻害する一塩基多型(Val66Met)の保有により,本研究対象者の運動によるBDNFの調節性分泌が減少していた可能性が考えられる.以上より,健常日本人男性におけるBDNFを増加させることを目的とした30 分間の中強度有酸素運動は,対象者によって適応の有無を検討する必要があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から日本人の特性を考慮した認知機能に対する運動介入が必要であることが示唆される.今後需要が拡大すると予測される認知症予防の分野ではあるが,BDNF増加を目的とした運動介入を行う際には,対象者の適応を検討することでより効率的な介入効果が期待できると考えられる.
著者
合田 明生 佐々木 嘉光 本田 憲胤 大城 昌平
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>近年、運動が認知機能を改善、または低下を予防する効果が報告されている。運動による認知機能への効果を媒介する因子として、脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている。BDNFは、中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される。そこで本研究では、BDNFと交感神経活動の関係に着目し、運動ストレスによる交感神経活動が、神経活動亢進を介して中枢神経系におけるBDNF分泌を増加させる要因であると仮説を立てた。よって本研究の目的は、健常成人男性を対象に、運動の前後でBDNFを測定し、運動が交感神経活動を亢進させることで、中枢神経系の神経活動を引き起こし、末梢血流中のBDNFを増加させるという仮説を検証することである。その結果から、運動によるBDNF分泌メカニズムの解明の一助とすることを最終目標とする。<br><b>【方法】 </b>健常成人男性10名を対象に、30分間の中強度有酸素運動(最高酸素摂取量の60%)を実施した。運動の前後で採血を実施し、末梢血液中のBDNF、ノルアドレナリン(Noradorenaline:NA)を測定した。運動中の交感神経活動指標としてNAを用いた。また運動中の中枢神経活動指標として、前頭前野領域の脳血流量を用いた。以上の結果から、運動前後のBDNF変化量、交感神経活動の変化(NA)、大脳皮質神経活動の変化(脳血流量)の関連性を検討した。各指標の正規性の検定にはShapiro-wilk検定を用いた。血液検体の運動前後の比較には、対応のあるT検定を用いた。各指標の相関の分析には、Pearsonの相関係数を用いた。いずれも危険率5%未満を有意水準とした。<br><b>【結果】 </b>中強度の有酸素運動介入によって、10人中5名では運動後に血清BDNFが増加したが、運動後のBDNFの値はバラつきが大きく、運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.19)。またBDNF変化量と交感神経指標の変化の間(BDNF-NA r=.38, p=.27)、中枢神経活動指標と交感神経指標の変化の間(脳血流量-NA r=-.25, p=.49)、BDNF変化量と中枢神経活動指標の変化の間(BDNF-脳血流量 r=-.16, p=.66)には有意な相関は認められなかった。<br><b>【考察】 </b>本研究では、健常成人男性を対象に、30分間の中強度運動の前後でBDNFを測定し、運動が交感神経活動を亢進させることで、中枢神経系の神経活動を引き起こし、末梢血液中のBDNFを増加させるという仮説の検証を行った。その結果、中強度の運動介入によって、10人中5名は運動後の血清BDNF増加を示したが、運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった。この要因として、刺激依存性のBDNF分泌を障害するSNP保有が考えられた。また、BDNF変化量と交感神経指標の変化の間、交感神経指標と中枢神経活動指標の変化の間、BDNF変化量と中枢神経活動指標の変化の間には、有意な相関は認められなかった。この要因として、交感神経活動が急性BDNF増加に直接的には関与しないことが考えられる。<br><b>【まとめ】 </b>健常成人男性における30分間の中強度有酸素運動は、末梢循環血流中のBDNFを有意に増加させず、運動によるBDNF変化には、交感神経活動や中枢神経活動は関連しないことが示唆された。
著者
佐々木 嘉光 影山 昌利 吉村 由加里 松浦 康治郎 土屋 愛美 小澤 太貴 松本 博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cc0376, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 体外衝撃波療法(ESWT)は、1988年にドイツで初めて偽関節に対する治療が行われてから、1990年代には石灰沈着性腱板炎、上腕骨外上顆炎、足底筋膜炎などの難治性腱付着部症に対する除痛治療として、欧州を中心に整形外科分野で普及してきた。その後2000年に米国 FDA で ESWT が認可され、本邦では難治性足底筋膜炎を適応症として2008年に厚生労働省の認可がおりて臨床使用が可能となり、当院では2011年10月に国内9台目となる整形外科用体外衝撃波疼痛治療装置を設置した。今回当院において体外衝撃波疼痛治療装置設置後に部位の異なる4例の ESWT を経験したので、疼痛に対する即時効果を中心に報告する。【方法】 体外衝撃波疼痛治療装置は、本邦で認可されているドルニエ社製 Epos Ultra を使用した。本装置は電磁誘導方式で照射エネルギー流速密度は0.03~0.36 mj/mm2 と7段階に可変式である。照射方法は基本的に超音波ガイド下に正確に病変部(腱付着部)への照射を行う。Low energy より始めて徐々に出力を上げ、痛みの耐えられる最大エネルギーで照射を行う。当院における ESWT の照射は、整形外科医師の指示と指導のもと、業者による機器の取り扱いの説明を受けた理学療法士が実施している。<症例>症例1は49歳女性で、4年前に右アキレス腱断裂に対して保存的治療を実施している。現在はソフトバレーをしており、2か月ほど前から鈍痛が出現した。鈍痛は以前から時々生じることがあった。ESWT は照射レベル3、総衝撃波数5000発、総照射エネルギー396 mj/mm2 で実施した。症例2は49歳女性で診断名は右足底筋膜炎であった。半年前にジョギングを始め、5日ほど前から足底部の疼痛が出現した。ESWT は照射レベル7、総衝撃波数2970発、総照射エネルギー1000 mj/mm2 で実施した。症例3は75歳男性。診断名は右上腕二頭筋腱炎で、照射の6か月前に右肩を打撲。当院整形外科で保存的治療を実施し、疼痛は改善したものの、4割ほど残存していた。ESWT は照射レベル7、総衝撃波数2486発、総照射エネルギー800 mj/mm2 で実施した。症例4は14歳女性で剣道部に所属している。以前より左手関節の疼痛があって照射の2か月前に当院を受診し、三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷と診断された。ギプス固定による保存的治療を実施後、3日前に矯正装具が完成して装具下に稽古の再開が許可されている。ESWT は照射レベル2、総衝撃波数5000発、総照射エネルギー300 mj/mm2 で実施した。疼痛の評価は、照射前と照射後に Visual Analogue Scale (VAS)を用いて行った。また再評価が可能であった症例については翌日と1週後に再評価を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 ESWT 実施前に治療効果と副作用について説明し、本人の同意を得て実施した。報告にあたっては口頭および書面で説明し、本人と家族の同意を得た。【結果】 症例1(アキレス腱断裂後)の歩行時痛 VAS は、治療前58 mm、治療後44 mm、翌日7 mm 、1週間後5 mm で、最大(1週間後)53 mm 改善した。症例2(足底筋膜炎)の歩行時痛 VAS は、治療前46 mm、治療後0 mm、1週間後30 mm で、最大(治療後)46 mm 改善した。症例3(上腕二頭筋腱炎)の圧痛 VAS は、治療前29 mm、治療後15 mm、翌日0 mm で、最大(翌日)29 mm 改善した。症例4(TFCC損傷)の圧痛 VAS は、治療前42 mm、治療後0 mm、1週間後14 mm で、最大(治療後)42 mm 改善した。【考察】 今回、4症例に対して ESWT を実施し疼痛に対する即時効果が得られた。靭帯および筋腱付着部に対する ESWT の作用機序は、神経終末に対する変性誘導、脊髄後根神経節において疼痛にかかわる神経伝達ペプチドの減少に由来する疼痛の抑制、腱細胞や血管新生を介した組織修復効果、各種炎症サイトカイン抑制に伴う抗炎症効果などが報告されている。除痛効果持続時間は数週間におよび、時に完全寛解に改善する症例もあると報告されている。今回の4症例においても、治療直後または翌日の除痛効果が高く、3例では1週間後まで除痛効果が持続していた。Ohtori らは除痛メカニズムとしてラット足底に体外衝撃波を照射することにより、自由神経終末の破壊が起こると報告し、照射後3週間でコントロール群と差がなくなっており、この自由神経終末の破壊が初期の除痛に関与していると考えられている。今回は ESWT 照射後1週間の即時効果を報告したが、今後は症例数を増やして除痛の長期的な効果を検討するとともに、運動機能とパフォーマンスの変化を含めて治療効果の検討を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本邦の理学療法分野において ESWT に関する報告はない。運動器に対する超音波画像診断の理学療法と合わせて、ESWT は理学療法領域における新たな物理療法機器としての多くの可能性が期待される。
著者
鈴木 健規 佐々木 嘉光 松浦 康治郎 小澤 太貴 榑林 学 高橋 正哲
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.87, 2012 (Released:2013-01-10)

整形外科領域における体外衝撃波療法(ESWT)は、1988年にドイツで初めて偽関節に対する治療が行われ、1990年代には石灰沈着性腱板炎、上腕骨外上顆炎、足底腱膜炎などの難治性腱付着部症に対する除痛治療として、欧州を中心に普及してきた。本邦では難治性足底腱膜炎を適応症として2008年に厚生労働省の認可がおりて臨床使用が可能となり、当院では2011年10月に国内9台目となる整形外科用体外衝撃波疼痛治療装置を設置した。今回、足底腱膜炎に対しESWTを実施した症例を経験したので報告する。【方法】 〈体外衝撃波疼痛治療装置の概要〉 体外衝撃波疼痛治療装置は、ドルニエ社製Epos Ultraを使用した。電磁誘導方式で照射エネルギー流速密度は0.03~0.36 mj/㎜2と7段階に可変式である。照射方法は基本的に超音波ガイド下に正確に病変部(腱付着部)への照射を行う。Low energyより始めて徐々に出力を上げ、痛みの耐えられる最大エネルギーで照射を行う。当院では整形外科医師と理学療法士がチームとなり、Visual analogue scale(VAS)を、照射前、照射直後に測定した。〈症例〉 58歳男性、運動は週3回行っており、平成23年1月にジョギング中に右足底に疼痛出現。同年6月に100キロマラソンに2度出場した結果、疼痛増悪。近医受診し、右足底腱膜炎と診断され、ステロイド注射等の保存的治療を受けた。また、接骨院へも通院したが改善せず、同年11月ESWT希望し当院受診。平成24年3月までに5回実施した。自己管理型質問票により疼痛と活動制限レベルを4段階で示したRoles and Mausdley score(以下RM score)では、最も低い活動レベルのPoorであった。1回目を照射レベル3、総衝撃波数5,000発、総照射エネルギー396mj/㎜2で実施した。2回目以降、総衝撃波数を5,000発、総照射エネルギーを1,300mj/㎜2までとし、2回目を照射レベル5で実施。3~5回目を照射レベル6で実施した。【説明と同意】 ESWT実施前に期待される治療効果と副作用の報告について口頭および書面を用いて説明し、本人の同意を得た。【結果】 歩行時VASは、照射1回目の治療前42㎜、治療後26㎜。2回目は治療前10㎜、治療後9㎜。3回目は治療前10㎜、治療後4㎜、4回目は治療前10㎜、治療後2㎜、5回目は治療前0㎜であった。朝の1歩目のVASは1回目聴取できず、2回目17㎜、3回目10㎜、5回目14㎜であった。また、3回目以降では連続歩行可能となった。4回目以降は15㎞程度のランニングが可能となっている。最終的なRM scoreはGood(時折不快感)であった。【考察】 先行研究によると、足底腱膜炎に対する除痛効果は1回照射より複数回照射の方が除痛効果は持続するとされており、本症例においても同様の結果であった。今回、RM scoreでGoodとなったが、朝の1歩目の疼痛は残存した。足底腱膜へのストレスが増大する要因として下腿三頭筋の疲労による伸張性低下もそのひとつとして考えられるとされており、ESWT実施後、下腿三頭筋のストレッチを行うことで朝の1歩目の疼痛が軽減するか否かが今後の検討課題として挙げられた。【まとめ】 足底腱膜炎に体外衝撃波を行い、ランニング可能となった。
著者
合田 明生 佐々木 嘉光 本田 憲胤 大城 昌平
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.74, 2012 (Released:2013-01-10)

【目的】 近年、運動が認知機能を改善、または低下を予防する効果が報告されている。運動による認知機能への効果を媒介する因子として、脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている。BDNFは、中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される。そこで本研究では、BDNFと交感神経活動の関係に着目し、運動ストレスによる交感神経活動が、神経活動亢進を介して中枢神経系におけるBDNF分泌を増加させる要因であると仮説を立てた。よって本研究の目的は、健常成人男性を対象に、運動の前後でBDNFを測定し、運動が交感神経活動を亢進させることで、中枢神経系の神経活動を引き起こし、末梢血流中のBDNFを増加させるという仮説を検証することである。その結果から、運動によるBDNF分泌メカニズムの解明の一助とすることを最終目標とする。【方法】 健常成人男性10名を対象に、30分間の中強度有酸素運動(最高酸素摂取量の60%)を実施した。運動の前後で採血を実施し、末梢血液中のBDNF、ノルアドレナリン(Noradorenaline:NA)を測定した。運動中の交感神経活動指標としてNAを用いた。また運動中の中枢神経活動指標として、前頭前野領域の脳血流量を用いた。以上の結果から、運動前後のBDNF変化量、交感神経活動の変化(NA)、大脳皮質神経活動の変化(脳血流量)の関連性を検討した。各指標の正規性の検定にはShapiro-wilk検定を用いた。血液検体の運動前後の比較には、対応のあるT検定を用いた。各指標の相関の分析には、Pearsonの相関係数を用いた。いずれも危険率5%未満を有意水準とした。【結果】 中強度の有酸素運動介入によって、10人中5名では運動後に血清BDNFが増加したが、運動後のBDNFの値はバラつきが大きく、運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.19)。またBDNF変化量と交感神経指標の変化の間(BDNF-NA r=.38, p=.27)、中枢神経活動指標と交感神経指標の変化の間(脳血流量-NA r=-.25, p=.49)、BDNF変化量と中枢神経活動指標の変化の間(BDNF-脳血流量 r=-.16, p=.66)には有意な相関は認められなかった。【考察】 本研究では、健常成人男性を対象に、30分間の中強度運動の前後でBDNFを測定し、運動が交感神経活動を亢進させることで、中枢神経系の神経活動を引き起こし、末梢血液中のBDNFを増加させるという仮説の検証を行った。その結果、中強度の運動介入によって、10人中5名は運動後の血清BDNF増加を示したが、運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった。この要因として、刺激依存性のBDNF分泌を障害するSNP保有が考えられた。また、BDNF変化量と交感神経指標の変化の間、交感神経指標と中枢神経活動指標の変化の間、BDNF変化量と中枢神経活動指標の変化の間には、有意な相関は認められなかった。この要因として、交感神経活動が急性BDNF増加に直接的には関与しないことが考えられる。【まとめ】 健常成人男性における30分間の中強度有酸素運動は、末梢循環血流中のBDNFを有意に増加させず、運動によるBDNF変化には、交感神経活動や中枢神経活動は関連しないことが示唆された。
著者
佐々木 嘉光 井場木 祐治 植松 俊太
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.G1282-G1282, 2008

【目的】当院では診療参加型臨床実習(クリニカル・クラークシップ:クリクラ)を導入し他の2施設も同じ方式で臨床実習を行っている。今回、当院の臨床実習形態の効果を検討するため学生に対するアンケート調査を行ったので報告する。<BR>【十全式臨床実習の内容】患者担当制を含むクリクラを臨床実習指導体制として選択し当院を含む3施設で導入した。学生は指導者の監視下で評価・訓練を行い、担当チームの仕事を常に手伝う形で実習に参加した。患者担当制については症例報告を行う症例を1例とし、初期・最終評価レポート・発表用のレジュメ作成を課題とした。その他の担当症例は学生の能力に合わせて徐々に増やし、約2ヶ月の実習で4~5症例の担当を目標とした。<BR>【方法】静岡県内にある3年制専門学校の3年生60名を対象としアンケート調査を行った。患者担当制とクリクラについては理学療法白書(1997年)に記載してある内容を用いて説明した。アンケートは各期の臨床実習終了後(2ヶ月を3期実施、延べ180施設)に行い、実習の判定が不可であった13施設を除く167施設を調査対象とした。アンケートの内容は1.臨床実習の満足度、2.患者担当制の満足度、3.臨床体験の充実度、4.1日の平均見学時間、5.1日の平均睡眠時間、6.精神的苦痛について調査を実施した。調査対象の167施設のうち十全式臨床実習を行った14施設(実施群)と他の153施設(他施設群)について、各アンケート項目の比較と検討を行った。また、アンケートの実施にあたり調査の内容について口頭および紙面で説明し同意を得た。<BR>【結果】1.臨床実習の満足度について「満足」と回答したものは実施群64%、他施設群38%であった。2.患者担当制の満足度について「満足」と回答したものは実施群71%、他施設群38%であった。3.臨床体験の充実度について「充実していた」と回答したものは実施群64%、他施設群41%であった。4.1日の平均見学時間について「2時間以内」と回答したものは実施群86%、他施設群28%であった。5.1日の平均睡眠時間について「4時間以上」と回答したものは実施群86%、非実施群57%であった。6.精神的苦痛について「全く苦痛でない」「苦痛でない」と回答したものは実施群60%、非実施群45%であった。<BR>【考察】今回の調査では、十全式臨床実習の実施群において実習及び患者担当制の満足度が高く、臨床体験が充実し、見学時間が非常に少ない結果となった。また、睡眠時間が長く、精神的苦痛が少ない傾向を示した。今回の結果から、患者担当制を含むクリクラの有用性が示唆されたが、調査を行った養成校と当院が関連施設であるためアンケートの結果に影響を及ぼしている可能性があり、今後さらに実施施設数を増やして検討していく必要があると考えられる。また、睡眠時間の改善が今後の課題と考えており、患者担当制のレポート作成について実施内容を検討する必要があると考えられる。