著者
背戸 博史
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

日本近代化過程における民衆統合のメカニズムは、「伝統」の擬制的創造の過程であり、その実質化をすすめてきたのは、明治以降に創設された近代学校による「伝統」の擬制化であった。早急な近代化をすすめる過程において、近代学校は、旧来からの民衆的慣習を巧みにアレンジすることで、進行する近代社会の進展に「自然性」を付与し、民衆による受容を促進してきたのである。しかし、「琉球処分」により、旧来からの支配機構を温存させたまま、日本近代社会に編入された沖縄にあっては、近代学校の果たす役割は「本土」のそれとは対照的なものであった。そこでは、急速な近代化を「自然」に装う戦略は選ばれず、近代学校は、極めて抑圧的に、新たな言語・文化・思想を注入する場として機能したのである。ただし、本研究においてその過程をいくつかの事例によって検証した結果、抑圧的な沖縄型近代学校も、一義的に「抑圧的」であったとは結論し得ないことが明らかになった。本研究が事例としたのは伊平屋島や伊計島のような離島地域であったが、沖縄の中心地から隔たる地域にあっては、むしろ積極的に近代学校を受容し本土化することで、沖縄圏内におけるそれまでの(離島的)後進性を払拭しようとする傾向も少なからず見られるのである。その際注目されるのは、沖縄においても展開された報徳会運動であった。沖縄における報徳会運動には、本土のそれとは異なる論理が貫かれていたと考えられるが、沖縄近代化過程の特異性は、沖縄において展開された報徳会運動の特異性を検証することでより明確になるという仮説を得ることができた。
著者
大桃 敏行 宮腰 英一 小川 佳万 藤田 晃之 柳田 雅明 背戸 博史 荒井 克弘 藤井 佐知子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、生涯学習の推進に伴っていち早く学習機会の供給主体の多様化が進んだ成人学習の領域を対象とし、国内外の調査を通じて公共管理システムの転換の動態と課題を明らかにすることであった。おもな成果は次の通りである。1.指定管理者制度の導入は、行政と地方公共団体の出資財団との関係、行政と住民やNPOとの関係、そして財団と住民やNPOとの関係に変化をもたらしていること。この変化は、行政に対して、その守備範囲の再検討とともに、供給主体間の新たな関係設定の構築を求めるものとなっていること。2.住民ボランティアの主導で行政が支援する活気ある生涯学習事業が生まれる一方で、住民主導の事業は、事業拡大に伴い、異なるセクター間のコーディネート機能をどう確保するのかが課題となっていること。3.イギリスにおいては、伝統的に私的イニシアチブを国が追認する方式がとられてきたが、サッチャー政権以降、アウトプット評価に基づく管理が進められてきていること。4.アメリカにおいては、リテラシー教育や職業技能訓練など公的機関の責務とされているが、この領域でも民間の営利・非営利組織が参入し、契約と成果の評価に基づく管理システムが組み立てられてきていること。5.一方、日本の地方公共団体の生涯学習施策においては、学習成果の評価について問題が指摘される一方で、学習者の組織化による共同性の創出が進められていること(学会誌掲載論文)。
著者
背戸 博史 大桃 敏行 泉山 靖人 後藤 武俊 柴田 聡史 申 育成 高橋 文平 安住 真紀子 大迫 章史 高橋 望 下村 一彦 岡 敬一郎 高橋 哲 松井 一麿
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、市町村合併や緊縮財政によって行政手法の再考を求められた地方行政機構にあって、その変動の影響を最も強く受けている生涯学習(成人教育)の分野に生じた転換の動態を明らかにした。主な転換は、体制としては首長部局への補助執行や定管理者制度の導入、多様な主体のネットワーク化などである。また、事業目的の転換では自治体による個別化が進み、地域の拠点づくり、地域人材育成、就業支援などが多様化していることを明らかにした。