著者
杉野 守 芦田 馨
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学農学部紀要 (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-11, 1984-03-15

大阪平野の東部に位置する河内地方では生駒山系に接する植く限られた地区の湿田にオオアカウキクサ,Azolla japonica,が残存し,夏季その周辺の水田に他の浮草類と共に繁殖するのが観察されている.そこで八尾市東部地区の水田において7月中旬Azollaの分布を調べたところ,本植物はウキクサ(Spirodela)やアオウキクサ(Lemna)と混生しておよそ20%の水田に分布していた.またこの地区の水田では,これら浮草の中でApirodelaがもっとも広面積に,次いでLemna,Azollaの順に水田表面を覆っていた.3種の浮草をそれぞれポット内の水耕液(市販ミネラップ液)で約1ケ月培養し,それらの葉状体の生長(増殖)速度を見るとLemna>Spirodela>Azollaの関係でそれぞれ3〜4倍の差があった.このような生長・増殖速度の差は葉状体の薄さの差を反映しているが,反面これらの浮草類が接触して増殖する競り合いにおいては,分厚い葉状体をもち密なマット状群落をつくるAzollaがもっとも優位で,次いでSpirodela>Lemnaの順と思われる.Azollaはロングアシュトンの無窒素培養液で他の窒素源を含む場合よりもその初期増殖速度は大であった.この培養実験での最大成長速度植から倍量増加時間を求めると5.3日となったが,この値はなお培養条件の改善で小となることが予想される.Azollaはミネラップ培養液のpH4〜7の範囲で盛んに増殖したが,その至適pHは6前後と思われ,また繁殖期の水田のpHは6.5前後であった.わが国の今日の農業にAzollaを直接的に利用することは現実的に期し難い,しかし,本植物の窒素固定能以外に水溶液からの富栄養物質(例えば,リン酸)吸収能,水面被覆能および周年生育性等に基いて,これを休耕田や輪作,転換作付体系の中の湛水田で"栽培"して,化学肥料や農薬多投を軽減し,水系の水質の浄化への利用も考えられる.
著者
南 基泰 四方 恒生 長谷川 千晃 大江 千里 芦田 馨 杉野 守
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.115, no.10, pp.832-842, 1995-10-25
被引用文献数
6

We studied that the morphological and histological characteristics, and the content (%DW) of saikosaponins on the root of Bupleurum falcatum cultivated in an Ebb & Flood system (E&F), a kind of soilless culture system, by both the direct sowing and the transplanting methods, and that effects of pinching on the root growth and the content (%DW) of saikosaponins in each part of root. Yield of root and content (%DW) of saikosaponins in each part of root, 8-months-old, cultivated in E&F by both methods were at the same level as that cultivated for the same period in soil conditoin by generally standard procedures. Morphological characteristics of the root cultivated by the direct sowing method were the same appearance as that by soil condition, but by the transplanting method main root branched off in all direction and the lateral root were more developed than by the direct sowing method. By pinching lignification in xylem on the main root were inhibited, but the dried weight of total root part and content (%DW) of saikosaponins in each part of the root were not shown to be significantly changed.
著者
平井 源一 稲村 達也 奥村 俊勝 芦田 馨 田中 修 中條 博良 平野 高司
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.196-202, 2003-06-05
被引用文献数
1 1

本研究は水稲と陸稲の栄養生長期の生育に及ぼす大気湿度の影響を相対湿度60%と90%で比較したものである.その結果,低湿度条件は高湿度条件に比較して,水稲の乾物生産を有意に減少させたが,陸稲では乾物生産の減少は認められなかった.低湿度下の水稲では,単位葉面積当たり気孔密度が増大し,気孔装置面積も大となり葉面積に占める気孔装置面積の割合が高湿度に比較して有意に大きかった.また,水稲は低湿度で,気乱闘度の低下が少なく,単位葉面積当たり蒸散量が顕著に大きくなり,葉身の本部水ポテンシャルが大きく低下することが認められた.一方,陸稲では水稲に比し低湿度によって,気孔密度,気孔装置面積が変化せず,葉面積の中で気孔装置面積の占める割合に湿度間で有意差がなかった.また,陸稲では,低湿度によって気乱闘度が低下し,蒸散量を抑制するため,葉身の本部水ポテンシャルが低下しなかった.さらに,低湿度による葉身の本部水ポテンシャルの低下した水稲では,葉面積の相対生長率(LA-RGR)が,高湿度に比して有意に低下した.なお,純同化率(NAR)は低湿度によって低下したが,高湿度との間に有意差は認められなかった.したがって,水稲では低湿度で有意なNARの低下をまねく以前に葉面積の低下を引きおこし,乾物生産は抑制されたが,陸稲では湿度間で葉面積の生長速度に差を生じなかった.この点が水稲と,陸稲の生育,乾物生産において湿度間に差を生じさせたものと考える.要するに,水稲と陸稲との間には大気湿度,特に低湿度に対する形態的生理的反応のことなることが,湿度間で認められた乾物生産の水稲,陸稲間差異を生じた要因と考えられる.