著者
花谷 浩
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.6, no.8, pp.117-126, 1999-10-09 (Released:2009-02-16)
参考文献数
18

飛鳥寺南東の谷あいにある飛鳥池遺跡は,7世紀後半から8世紀初めにかけて操業された一大工業団地を中核とする遺跡。3年にわたる調査により,その構造が判明してきた。遺跡南半の工房地区は,人字形の谷の両側に金・銀・ガラスなどの類・銅・鉄・漆などの工房が業種ごとに配置され,いわばコンビナートを形成していた。工房地区中央から東南にかけては,銅・鉄・漆などの工房が操業した。西南部では,金・銀・玉類などの宝飾品が製作された。いずれの工房も,斜面にテラスを作って作業面とし,整地を繰り返しながら炉を築く。みつかった炉跡は,総計300基近くに達する。また,谷の東側では,入唐僧・道昭が創建した,飛鳥寺東南禅院の瓦窯も発見された。谷筋には汚水処理施設がある。陸橋と水溜によって工房からの廃棄物を谷に堆積させ,さらに,北半にある石組み池に導水し,そこで再度沈殿させて遺跡外に排水する。遺跡の北半にはほかに,石敷井戸や掘立柱建物などがある。工房から排出された廃棄物層(炭層)から,多種多様な遺物が膨大にみつかった。各業種の失敗品や道具類,鉱滓などがあり,生産工程が復原できる。様を使った注文生産も確認された。最近,富本銭とその銭笵などが出土し,日本最初の鋳銭が確認された。大量の木簡が出土したことも,飛鳥池遺跡の特色。南半の工房地区からは,その生産に天皇や皇子宮が関わることを示す木簡がみつかった。北半部から多量に出土した木簡は,飛鳥寺あるいは東南禅院に関連する木簡群,「天皇」や「次米」の文言あるいは地方行政組織の変遷を物語る木簡群,さらには工房に関連する木簡群など,豊富な内容をもつ。富本銭鋳造に端的に表現されるように,この遺跡は飛鳥浄御原宮や藤原宮と密接な関係をもつが,一方では飛鳥寺や東南禅院とも深い関わりがある。複数の業種が一カ所に集まって生産を行い,宮殿や皇子宮あるいは寺院へも製品を供給する飛鳥池遺跡の操業形態は,この時代でなくては実現しえなかっただろうし,またそのような遺跡はここしかないだろう。律令国家成立期を研究する上でこの遺跡の解明は大きな意義をもつ。
著者
花谷 浩 宮原 晋一 相原 嘉之 玉田 芳英 村上 隆
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.14, no.23, pp.105-114, 2007-05-20 (Released:2009-02-16)
参考文献数
5

奈良県明日香村にあるキトラ古墳は,高松塚と並ぶ大陸的な壁画古墳であり,慎重な調査と保護が進められてきた。壁画は剥離が進んでおり,石室内で現状保存することは不可能で,取り外しで保存処置を行うこととなった。その前段階の作業を兼ねて2004年に石室内の発掘を行い,石室構造の細部が判明し,最先端の技術を用いた豪華な副葬品が出土する等,多くの成果を上げた。墳丘は版築による二段築成の円墳で,石室の南側には墳丘を開削した墓道が付く。墓道床面に,閉塞石を搬入する時に使用した丸太を敷設したコロのレール痕跡(道板痕跡)を確認した。石室は,二上山産の溶結凝灰岩製の分厚い切石材を組み合わせて構築する。石材には朱の割付線が残っており,精巧な加工方法が推測できる。石室の内面は,閉塞石以外を組み立てたのち,目地を埋め,さらに全面に漆喰を塗り,壁画を描く。石室内の調査は,空調施設等を完備した仮設覆屋内で,壁画の保護に万全の措置をした上で発掘をした。石室内には,盗掘時に破壊された漆塗り木棺の漆片堆積層が一面に広がる。遺物は原位置に残らないと判断され,堆積層をブロックに切り分け,方位と位置を記録し,コンテナにそのまま入れて石室外に搬出した。出土遺物には,金銅製鐶座金具や銅製六花形釘隠といった木棺の金具,琥珀玉等の玉類,銀装大刀,鉄製刀装具,人骨および歯牙などがある。木棺の飾金具は高松塚古墳のものとは意匠に違いがある。また,象嵌のある刀装具は類例がなく,その象嵌技術も注目される。歯牙は咬耗の度合いが著しく,骨と歯は熟年ないしそれ以上の年齢の男性1体分と鑑定された。壁画は,歪みがきわめて少ない合成画像であるフォトマップ作成を行った。これは実測図に代わりえる高精度なものである。また,壁画取り外し作業の過程で十二支午像の壁画を確認した。墓道と石室の基本的なありかたは,他の終末期古墳とほほ同じである。コロのレール痕跡は高松塚古墳や石のカラト古墳にもあり,石室の石積みはマルコ山古墳に似るが相違点もある。底石の石室床面部分は周囲より一段高く削り出しており,石のカラト古墳と類似することがわかった。
著者
井上 寛司 山岸 常人 小林 准士 平 雅行 久留島 典子 関根 俊一 淺湫 毅 松浦 清 大橋 泰夫 小椋 純一 和田 嘉宥 的野 克之 田中 哲雄 松本 岩雄 鳥谷 芳雄 花谷 浩 山内 靖喜 野坂 俊之 石原 聡
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

天台宗の古刹である浮浪山鰐淵寺は、中世出雲国一宮出雲大社の本寺として創建され、極めて重要な役割を果たした。本研究は、鰐淵寺に対する初めての本格的な総合学術調査であり、鰐淵寺の基本骨格や特徴、あるいは歴史的性格などについて、多面的な考察を加え、その全容解明を進めた。