著者
芹田 透 工藤 宏幸 坂井 建雄
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.675-681, 2017 (Released:2017-10-23)
参考文献数
41

〔目的〕肩関節の臨床症状評価の一助とするため,肉眼解剖手法により棘下筋に分布する動脈を観察した.〔対象と方法〕解剖実習遺体17体19側の棘下筋に分布する動脈の走行および分布領域を調査した.〔結果〕棘下筋に分布する主な動脈は肩甲上動脈と肩甲回旋動脈で,どちらも筋の内面を走行していた.肩甲上動脈が,上肩甲横靱帯と肩甲切痕で形成されるトンネル内を走行して棘下筋に達する例もあった.2動脈の分布領域は標本により異なった.〔結語〕棘下筋に分布する動脈には,深層を走行し,トンネル内を通過するなど,圧迫を受けやすい特徴がみられた.また,動脈分布形態は多様であり,臨床症状の個人差への影響が示唆された.
著者
豊田 輝 高田 治実 菅沼 一男 芹田 透
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Gc1040, 2012

【はじめに】 理学療法評価において歩行分析は,重要な手段として位置づけられ,特に義足歩行分析は切断者の残存機能を最大限に活かすためになくてはならない評価項目である.しかしながら,この義足歩行分析を的確に実施するために必要な情報の多くは,その現象の説明に留まっているのが現状である. そこで,義足歩行分析を熟練者はどのような方法で観察評価しているかを明らかにし,経験の浅い者の義足歩行評価技能向上の一助となる情報を提供することを目的とした.【方法】 切断者のリハビリテーションに5年以上従事している理学療法士10名(男性9名,女性1名,平均経験年数9.5±3.3年,以下熟練群)と同リハビリテーション従事年数が1年未満の理学療法士10名(男性7名,女性3名,平均経験年数0.1±0.2年,以下初心群)を対象とした. まず,筆者が作製した片側大腿切断者の10m直線歩行における正常歩行映像(ソケット不適合やアライメント異常がない状態の歩行映像)をスクリーンに投影させ観察させた.次に,2つの異常歩行映像(あるアライメント異常を筆者が意図的に設定した状態での異常歩行映像,課題1外側ホイップ,課題2側傾歩行)を分析し,3設問のアンケート(設問1.異常歩行の名称,設問2.その原因となる義足アライメント異常,設問3.その修正方法について)に回答することを事前に説明した.また,その義足歩行映像は対象者自身が課題ごとに「アンケート内容に回答できる」と判断するまで繰り返し流すことも説明した.その後の手順は,課題ごとに異常歩行映像をスクリーンに投影し,歩行分析させた.この際対象者は,眼球運動計測装置(モバイル型アイマークレコーダEMR-9,NAC社製,以下EMR-9)を装着した状態で,この映像をスクリーンから3m離れた位置で静止立位にて歩行分析を行った.また,歩行分析終了までの時間を評価所要時間として計測した.尚,アンケートには,歩行分析終了後に対象者自身で記入させた. 得られたデータの解析方法は,EMR-9によって歩行観察時の視野映像に注視点を表示させるとともに,解析ソフト(EMR-dFactory)によって視線軌跡及び停留点(0.1秒以上)の定量解析を行った.統計的手法としては,アンケート設問1の異常歩行名称正答率にはχ2検定を用い,評価所要時間にはMann-WhitneyのU検定を用いて検討した.また,いずれも危険率5%未満を有意水準とし,全ての分析にはPASW Statistics18を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,本研究の趣旨を説明し同意を得た.また,本研究結果を個人が特定できる形で公表しないことも説明した.その他,映像作製に協力頂いた切断者にも本研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】 評価所要時間では,課題1で初心群が平均63,1±38.8秒,熟練群が6,2±1,3秒,課題2で初心群が平均65,0±34.9秒,熟練群が6,8±0,6秒であり,いずれも優位に熟練群が短時間で分析を終了していた.また,アンケート設問1の正答率は,初心群で10%,熟練群で100%であり,優位に熟練群が高い正答率であった.その他,EMR-dFactoryによる注視項目分析と停留点分析より,アンケート設問1を正答した者には,特定の異常歩行ごとに遊脚期,立脚期において共通した注視点,停留点及び注視順があることが明らかとなった.具体的には課題1では,遊脚初期において義足側足部と膝継手を注視及び停留しながら観察し,課題2では,遊脚期には義足側股関節周囲,膝継手及び足部を,立脚期には義足側肩関節周囲に注視及び停留しながら観察していた.一方,この設問に誤答した者は,異常歩行の種類,遊脚期,立脚期を問わず身体のあらゆる部位を無作為に観察しており,注視点,停留点及び注視順の全てにおいて分散した状態であった.【考察】 熟練群は初心群に比較し歩行分析に要する所要時間が優位に短く,正答率も優位に高かった.また,アンケート設問1に正答した者の注視点,停留点及び注視順は,共通したものであった.これらのことから,経験年数を重ねることで適切な分析が可能になる反面,初心者は,切断者に大きな負担をかけながら歩行分析を実施する可能性が高いことが示唆された.これでは,理学療法士全体の質が低下することに成りかねない. この問題解決のために,本研究の成果を教育方法のひとつとして活用できると考える.設問1で正答した者全てに共通する注視点,停留点及び注視順を抽出し,外側ホイップもしくは側傾歩行に対する歩行観察手順として示すことにより,理学療法士の卒前・後教育の資料として活用できると考える.【理学療法学研究としての意義】 義足歩行分析の教育的なひとつの方法論として,今回の研究成果は活用できると考える.これにより,初心者が外側ホイップもしくは側傾歩行の義足歩行分析を実施する際の有益な情報になることが示唆された.
著者
榊原 僚子 加藤 宗規 菅沼 一男 芹田 透 知念 紗嘉
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.473-479, 2010 (Released:2010-07-28)
参考文献数
12

〔目的〕股関節痛と歩行困難を呈していた症例に対して,応用行動分析学に基づいた介入を行った結果について検討すること。〔対象〕両側変形性股関節症による股関節痛の増強により歩行不可能となり他院での4ヶ月の入院後,当院での外来通院を開始した52歳女性であった。〔方法〕1日で歩行した歩数(歩行量),歩行時痛についてベースライン測定後に行動分析を行い,規定した目標歩行量の遵守と自己記録を行動とした介入を設定した。介入の有効性について,1セッションが約3ヶ月間の7セッションの経過における歩行量,歩行時痛,使用する歩行補助具から検討した。〔結果〕行動は継続され,歩行量のばらつきと歩行時痛が減少し,歩行補助具は両松葉杖からT字杖に変化した。[結語]応用行動分析学を用いた今回の介入は,変形性股関節症で慢性的な強い歩行時痛を有していた症例に対して,理学療法士による1日の歩数を制限する指導を長期にわたり遵守させ,痛みと歩行能力の改善に影響したと考えられた。