著者
高橋 純平 高見 彰淑 若山 佐一
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.731-736, 2012 (Released:2013-01-30)
参考文献数
47
被引用文献数
5 5

〔目的〕文献検索により,脳卒中片麻痺者の歩行自立判定に用いられる方法や,歩行自立との関連する要因を明らかにすることである.〔方法〕データベースから選択された論文から,自立判定に用いられたテストバッテリーと,歩行自立との関連性を分析された指標を抽出した.〔結果〕選択基準に適合した39件が抽出された.自立判定方法はFIMやFAC,医師や理学療法士による判定が多かった.歩行自立との関連要因として,歩行能力,麻痺側下肢機能,加えて,認知障害や注意障害,高次脳機能障害が多く抽出された.しかし,自立判定の基準や関連要因の有意性は一定の見解が得られなかった.〔結語〕脳卒中片麻痺者の歩行自立判定は定性的な判定が多く,包括的な評価バッテリーが必要である.
著者
細田 多穂 菊地 延子 若山 佐一
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.13, no.6, pp.415-420, 1986-10-10 (Released:2018-10-25)

国立大学病院に勤務する理学療法士の身分の実態をアンケート調査し,下記のような結果が得られた。1) 国立大学病院の理学療法士の総数は126人(マッサージ師,他を含むと150名),1施設での平均2.4人,平均年令は33.7人(21〜59才),SD = 9.8才である。2) 臨床実習施設として,最近,2年間では約80%(1〜3年)で学生を受け入れている。3) 理学療法士が格付けされている職務表では,*5等級〜3等級迄の範囲でのみ運用されている。従って,経験年数が長くなると三等級で頭打ちのまま,昇給がストップされる。今回は対象者が9人みられた。4) 理学療法士の管理関係では,主任以上の肩書が認められているのは16大学(約4割)であり,辞令のタイプは部内,院長,学長などである。5) 新設医科大学での定員ポスト増は16大学中,10大学で,理学療法士のポストは9人である。*注 : 昭和60年8月に人事院勧告が出され,国会承認後は医療職俸給表(Ⅱ)の職務表は従来の6等級〜特1等級のランクから,1級〜8級への切替えがなされた。これで旧俸給表の5〜6等級は1級に4等級は2級に,3等級は3級と4級に,2等級は5級に変り,理学療法士の3等級頭打ちは事実上これで解消されたがその反面で最高位が5級どまりに据えおかれている。
著者
丸山 翔 伊藤 千晶 安藤 道晴 若山 佐一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0098, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年,注意の向け方により新しく獲得する運動過程に大きな影響を与える可能性が示唆されている。注意とは「意識の焦点化と集中」と定義され,学習者の能動的な注意をどのような対象に向けるかという注意の焦点をいう。従来,運動学習の過程において,一つ一つの身体部位(以下 身体内部)の動きに注意を払いながら運動を行うことが大事であった。このように意識的に運動を制御する過程が,歩行のような自動的な運動を獲得するために必要な過程だと考えられていた。つまり,言語教示を与える際に,自身の身体内部に対し注意を向けるInternal focus of attention(以下IF)が有効だと考えられていた。しかし,Wulfら(1998)は注意の焦点を自身の身体と接するものなどである身体外部,外部環境に対し向けるExternal focus of attention(以下EF)の方がIFに比べて運動学習の効果が高く,自動性を高めると述べている。これは,従来の考えとは異なる見解である。また,先行研究の多くはスポーツスキルの学習で検証しているものが多く,理学療法分野で検証している先行研究はほとんど見つからなかった。そこで本研究の目的は,理学療法分野において,言語教示により注意の向け方を変えることで動的バランスを獲得していく運動学習の過程にどのような影響があるのか比較・検証することとする。【方法】対象者を若年健常者39名(男17名,女22名,年齢23±1.93歳)とし,ランダムに,control(以下CON)群15名,IF群12名,EF群12名の3群に群分けした。同一の課題を3群で実施し,群によって異なる言語教示を行った。運動課題は,動的バランスを測るY Balance Test(以下YBT)を測定した。指示内容は,対象者に課題を実施してもらう際に,CON群には注意に関する口頭指示は与えず,IF群には身体に注意を向けるような口頭指示を与え,EF群には外部環境に注意を向けるような口頭指示を与えた。測定回数は,初回1回,練習5回,保持テスト1回の計7回とした。YBTとは,立位で下肢を3方向(前方・後方外側・後方内側)にどれくらいリーチできるかを測るバランステストである。方法は,開始肢位を直立姿勢とし,リーチする下肢を浮かせながら目的方向へのばし,浮かせたまま直立姿勢に戻る。その時のリーチ距離を測定する。この動作を3方向各々に実施してもらう。3方向の総合値をYBTの計算式に沿って数値化する。計算式は以下の通りである。{(前方リーチ距離+後方外側リーチ距離+後方内側リーチ距離)/(棘果長×3)}×100初回と保持テストでの変化量を比較した。統計は,群間比較はTukeyの検定で解析し,その後effect sizeを求めrと表記した。有意水準はp<0.05とした。統計ソフトは,SPSS16.0Jを使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理審査規定に基づき,書面および口頭にて説明し,同意を得て行った。【結果】群に対する多重比較法の結果,CON群とEF群で有意差あり(95%CI:5.07-13.52,r=0.75 large effect size)。IF群とEF群で有意差あり(95%CI:0.75-9.65,r=0.68 large effect size)。CON群とIF群では有意差なし(95%CI:-0.13-8.32,r=0.49 medium effect size)。【考察】注意の向け方により,健常者の動的バランスにどのように影響するかCON群,IF群,EF群で比較した。その結果,EFの有利性が示唆された。EFの言語教示により,EF群の方がCON群と比較し有意に学習効果があった。これは,先行研究での,EFは運動の制御過程への意識的な干渉を少なくし,自動的な運動制御を促進するという考えを支持する結果となった。IF群とCON群とでは,結果に有意な差が見られなかった。今回,IF群は言語教示により適切な身体内部の動きを獲得したことによりCON群に比べ学習効果が得られやすいと考えていた。しかし先行研究にて,IFのように運動の制御過程に意識的に介入すると自動的な運動を妨害することが示唆されている。その結果,IF群では自動性が阻害され学習効果が打ち消し合ってしまったと考えられる。CON群に関しては,適切な身体内部の動きを獲得できず,無意識にIFで運動制御をしてしまうため,学習効果が得られにくいと考えられる。今後は,測定日から1ヶ月後に保持テストを実施し,長期でもEFの学習効果が永続されているかも含め,検証していく。【理学療法学研究としての意義】臨床場面では,IFによる言語教示が多いように思える。そこで,先行研究に基づき言語教示をIFからEFに変えることでパフォーマンスが向上するのであれば,理学療法の治療において今までにない切り口になり,臨床的な介入の効果を向上させる可能性がある。