著者
菅 靖子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.11-20, 2004-09-30

本稿は19世紀から20世紀にかけて日本の「美術製造品」のイギリスヘの輸出に関わっていた商社の相互関係や本国での活動に着目し,後期ヴィクトリア朝からエドワード朝にかけて同国における日本趣味を支えたインフラストラクチャの一端を解明することを目的とする。そのためにイギリス・日本の両国に活動拠点をもっていた3つの人脈,マリアンズ,ストロームとロットマン,そしてホームとセールを中心に築かれた諸商会の経営体制を検証する。彼らが縁戚関係あるいはパートナーシップを通して経営していた諸商会は,名称変更こそあったが,しばしば数年で消えてゆく当時の外国商会の高い破産率を乗り越えて比較的継続した活動を展開した。その要因のひとつには,これらの同業者達のあいだに代理店制度など直接の相互関係があったことがあげられる。雇用主や従業員の繋がりや店舗や在庫の引き継ぎからなるこうした横のネットワークは、イギリスの日本趣味の流通を支えた一要素であった。
著者
眞嶋 史叙 草光 俊雄 新井 潤美 大橋 里見 菅 靖子 大石 和欣 冨山 太佳夫 見市 雅俊 新 広記 田中 裕介
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究プロジェクトでは,「消費文化史研究会」開催を通じて,この新領域に関する共通認識を培いつつ,構成員をそれぞれ単独執筆者とする著作シリーズ発刊の準備を進めてきた.成果の一部は, 2009年社会経済史学会のパネル報告「消費社会における教養を考える」で公表された.また, 2011年度末に開催された国際シンポジウムでは,国内外の研究者25名の講演・発表を通じて,研究成果を集約するとともに,今後の学問的課題を確認した.
著者
菅 靖子 山崎 晶子 山崎 敬一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.1-10, 2003
参考文献数
14
被引用文献数
1

本稿は,ミュージアム研究の展示空間における観客の相互行為に焦点を当てた鑑賞の「質」的分析を行うことにより,観客同士がつくりだす共有空間の形成の重要性および鑑賞行為における観客の相互関係を明らかにしたものである。特に,本研究では,これまで着目されていなかった共有空間に参与する「傍観者(bystander)」の役割に注目して,鑑賞行為を分析した。傍観者(bystander)と実践者との基本的な関係について,個別的なケースからより基本的な構造を分析し解明した結果,ミュージアムの展示において,傍観者(bystander)の動きは,共有空間の形成に参与するだけではなく,鑑賞行為全般を導くものである。なぜなら,傍観者(bystander)は実践者に対して,発話と共に指さしなどの非言語的なコミュニケーションを行い,情報・知識の伝達を行いやすい身体配置を取る,ということが明らかになった。
著者
菅 靖子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.B02-B02, 2007

イギリスでは早くから広告の視覚的効果が認識され、1871年のフレドリック・ウォーカーによる劇場ポスター『白い服の女』の登場以降、芸術性の高いポスターが大いに注目された。しかし、その結果「絵画的(pictorial)」なデザインが主流となったために、写真の広告への導入は、大陸ヨーロッパの動向と比較するとやや遅れ気味であった。 こうした状況を徐々に変えていったのは、1930年代初頭にイギリスを訪れたり移住あるいは帰化したりした越境のデザイナーたちの存在、そしてデザイナーの活躍の場を与えた企業や団体である。本発表では、グラフィックデザイナーのエドワード・マクナイト・コーファーとハンス・シュレーガーが逓信省のために行ったポスターの仕事を事例として、イギリスにおけるモダン・グラフィックデザインがどのように写真を取り込んで展開したのか、その一側面を検証する。
著者
菅 靖子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.37-46, 2000-07-31

19世紀からポスターの芸術的要素は大衆の趣味向上に役立つことが指摘されてきたが, 両大戦間期イギリスの特徴はこれが実際に教育計画の一端を担ったことである。背景には, モダニズムこそが「良い趣味」, 「良いデサイン」であり, これを解する人が一般大衆の趣味を改善するよう働きかけなければならないとする, 芸術家やエリート層の理想主義的な文化二元論が存在した。当時のポスター芸術のパトロン達も, これと無関係ではなかった。本稿ではまずポスター芸術と趣味論, モダニズム論が当時どのように関連づけられていたかを明らかにし, 次にポスター芸術が児童, 社会を対象に趣味教育の道具として機能した例を具体的に検証する。これを通して, モダンからポストモダンへの過渡期を特徴づけるポスター芸術の存在意義を考察する。