著者
岡本 芳晴 菅波 晃子 田村 裕
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1042-1046, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
4

我々は,患者(ヒト,コンパニオンアニマル等)に安全・安心な医療技術として,ナノテクノロジーによる高機能性医薬品と光テクノロジーによる医療機器を融合した非侵襲性医療システムを構築すべく研究開発を進めている.具体的には,インドシアニングリーン(ICG)の基本骨格にアルキル鎖またはリン脂質を修飾したICG誘導体を脂質二重膜に組み込んだリポソーム製剤,インドシアニングリーン修飾リポソーム(ICG-Lipo)を開発するとともに,ICG-Lipoによるドラッグデリバリーシステム(DDS)と近赤外線診断治療装置を併用することにより,乳がんの早期発見を可能にする「非侵襲性同定法」,外科手術が不可能な症例に対する「非侵襲性治療法」,末期がん患者に対する「質の高い緩和医療」等の創生に取り組んでいる.ICGを用いたがん治療に関しては,獣医領域において,鳥取大・岡本らによる先駆的な試みがある.具体的には,表在性がんを対象にがん組織に少量の抗がん剤を含有するICG溶液を局注後,光照射(光線温熱化学療法)を行ってきた.一方ICGを血管内に投与した場合,血漿タンパク質と速やかに結合し,肝実質細胞に取り込まれて胆汁に排泄される.そのため,センチネルリンパ節や腫瘍組織を特異的かつ長時間にわたって同定することが困難であり,深部のがんに対しては有効な診断・治療法には至らなかった.千葉大・田村らは,ICGの血中半減期を改善するとともに,センチネルリンパ節や腫瘍組織への特異的集積と長期間繋留を可能とするリポソーム製剤としてICG-Lipoを開発した.さらに,医薬品としてのICG-Lipoと医療機器としての近赤外線診断治療装置を併用した非侵襲性医療システムとして,非侵襲性同定法ならびに光線力学温熱療法を構築してきた.しかしながら,ヒト医療への承認段階において高い壁に行く手を阻まれていた.その後,鳥取大・岡本らは,千葉大・田村らからICG-Lipoの供給を受けることにより,近赤外線治療装置を併用したがん治療に関する検討を実験動物を用いて2011年1月より開始し,その安全性と有効性を確認した.また,「産学連携コンソーシアム:鳥取大・千葉大・民間動物病院・飛鳥メディカル・東京医研・立山マシン」を2013年9月に形成し,コンパニオンアニマルを対象とした獣医師主導型臨床試験による診断・治療を実施するに至っている.
著者
岡本 芳晴 大﨑 智弘 東 和生 伊藤 典彦 柄 武志 今川 智敬 菅波 晃子 田村 裕
出版者
Japan Society for Laser Surgery and Medicine
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.46-50, 2014-05-15 (Released:2015-09-09)
参考文献数
9
被引用文献数
1

我々はインドシアニングリーン(ICG)をリン脂質成分に結合させたICG修飾リポソーム(ICG-lipo)を開発した.今回は深部腫瘍15例に対し,ICG-lipo(抗がん剤等内包)を点滴投与後,近赤外線光源装置または半導体レーザーを用いて患部に20-60分間光照射した.照射間隔は毎日~週3日で実施した.Response Evaluation Criteria in Solid Tumors (RECIST)に基づく判定結果はCR:1 例,PR:8例,SD:5例,PD:1例であった.PR,SD症例は全例QOLの改善がみられた.15例いずれも重篤な副作用は確認されなかった.
著者
岡本 芳晴 山下 真路 大﨑 智弘 東 和生 伊藤 典彦 村端 悠 柄 武志 今川 智敬 菅波 晃子 田村 裕
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.408-412, 2020-01-15 (Released:2020-01-16)
参考文献数
12
被引用文献数
1

2010年,我々はインドシアニングリーン(ICG)をリン脂質成分に結合させたICG修飾リポソーム(ICG-lipo)を開発した.今回,動物の自然発症腫瘍38症例に対して治療成績を評価した.治療はICG-lipo(抗がん剤等内包)を点滴投与後,半導体レーザー装置を用いて患部に10~20分間光照射した.照射間隔は毎日~週3日で実施した.Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)に基づく判定結果は,CR(Complete response):3例,PR(Partial response):13例,SD(Stable disease):18例,PD(Progressive disease):4例,だった.奏効率(CRおよびPRの割合)および有効率(CR,PR,SDの割合)は,42.1%および89.5%だった.特にリンパ腫の奏功率は85.7%と高値を示した.2症例以上ある腫瘍で,リンパ腫,血管肉腫以外は有効率が100.0%を示した.本治療を実施することにより,約半数の獣医師が一般状態の改善を認めた.このことは本治療法の有効性を示すものと思われる.