- 著者
-
菊地 剛正
高橋 大志
- 出版者
- 一般社団法人 経営情報学会
- 雑誌
- 経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.2, pp.105-119, 2021-09-15 (Released:2021-09-29)
- 参考文献数
- 30
本邦では,社会の高齢化・長寿化の進展に伴い,老後の資産形成と取り崩しの問題に関心が高まっている.しかし,資産の枯渇に係る論点については,それを防ぐための方策を含め,必ずしも議論が深まっている状況とは言えない.本稿では,退職後の資産形成・取り崩しに係る本邦での今日的な議論に対して,実データを用いたシミュレーション分析による接近を試みる.個人の属性やリスク資産による運用を勘案した上で,外生的に与える各種シナリオにおいて,各種施策が資産の枯渇に与える影響を分析する.主な結果は以下のとおり:1)資産階級やリスク量,想定する余命に応じて資産の枯渇割合は異なること,2)資産階級の上昇に応じ枯渇率が単調に減少するわけではなく,資産残高と収支のバランスによること,3)枯渇割合を低下させるためには,個人の属性に応じたリスクテイクが必要なこと,4)公的年金給付水準の引き下げによる枯渇割合の上昇に対しては,退職年齢の引き上げや支出抑制により,当該上昇をある程度抑制しうること.