著者
鷲谷 佳宣 高野 研一
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.13-37, 2022-06-15 (Released:2022-06-24)
参考文献数
52

企業組織では,チームワークがチームパフォーマンス(業績,やりがい)を高めると言われている.一方,デザイナー組織では,個人の専門能力の発揮がチームパフォーマンスを高めるが,チームワークが働かずにチームパフォーマンスを阻害する事態が見られる.そこで本研究では,チームワークの先行要因がチームワークを介してチームパフォーマンスに影響を及ぼす一連の関係を検討し,デザイナー組織を対象としたチームパフォーマンスに影響を及ぼす諸要因を解明することが目的である.方法として,デザイナー350人を対象としたアンケート調査を実施し,共分散構造分析を行った.さらに,事務職組織との比較を行った.その結果,チームパフォーマンスモデルによってデザイナー組織のチームパフォーマンスに影響を及ぼす諸要因の関係が示され,リーダーシップ,フォロワーシップに関するトレーニングによりチームパフォーマンスが向上する可能性が示唆された.
著者
最上 雄太
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-11, 2022-06-15 (Released:2022-06-24)
参考文献数
35

本論文の目的は,K. J. Gergenが提唱する社会構成主義(social constructionism)の立場および考え方に依拠したリーダーシップ研究である「関係アプローチ」を批判的に検討し理論的課題を指摘することにある.本論文では,従来的なリーダー中心アプローチに指摘される還元主義的な見方に依拠する方法論的限界を乗り越える立場として,関係アプローチの理論的課題を議論した.関係アプローチには,社会的プロセスを捉えるための研究方法論的な議論が不足しているという理論的課題がある.この理論的課題を解決する研究方法論として,関係アプローチと同じ社会構成主義の理論的前提を共有する組織ディスコース研究に着目し方法論としての可能性を探索した.
著者
貴島 文緒 高野 研一
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.17-38, 2020-06-15 (Released:2020-07-03)
参考文献数
41
被引用文献数
2

本研究の目的は若手ITエンジニアの転職希望意識の形成プロセスをモデル化することに加え,中堅ITエンジニアとの転職意識の比較検討を行い,若手に特有の要因を導き出すことである.このため,若手・中堅ITエンジニアを対象とした延べ600人のインターネットアンケートを実施した.得られた回答に多変量統計分析を適用した結果,若手は「仕事に対する価値観を確立すること」によって「自分の仕事を天職として捉える」ことができ,結果として転職希望意識の低減につながることが示唆された.また上司から与えられるポジティブなフィードバックも自分の仕事を天職として捉える傾向に有意に良好な影響を及ぼすことも併せて示唆された.一方,中堅の場合はこの傾向が当てはまらず,「キャリア確立の可能性を見いだすこと」によって,転職希望意識を抑えられることが可能となり,この傾向は自らの技能(スキル)の向上によって高められることがわかった.
著者
菊地 剛正 高橋 大志
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.105-119, 2021-09-15 (Released:2021-09-29)
参考文献数
30

本邦では,社会の高齢化・長寿化の進展に伴い,老後の資産形成と取り崩しの問題に関心が高まっている.しかし,資産の枯渇に係る論点については,それを防ぐための方策を含め,必ずしも議論が深まっている状況とは言えない.本稿では,退職後の資産形成・取り崩しに係る本邦での今日的な議論に対して,実データを用いたシミュレーション分析による接近を試みる.個人の属性やリスク資産による運用を勘案した上で,外生的に与える各種シナリオにおいて,各種施策が資産の枯渇に与える影響を分析する.主な結果は以下のとおり:1)資産階級やリスク量,想定する余命に応じて資産の枯渇割合は異なること,2)資産階級の上昇に応じ枯渇率が単調に減少するわけではなく,資産残高と収支のバランスによること,3)枯渇割合を低下させるためには,個人の属性に応じたリスクテイクが必要なこと,4)公的年金給付水準の引き下げによる枯渇割合の上昇に対しては,退職年齢の引き上げや支出抑制により,当該上昇をある程度抑制しうること.
著者
真鍋 友則 中川 慧
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.87-104, 2020-09-15 (Released:2020-09-28)
参考文献数
29

本稿では,日本企業におけるブランド価値評価と株価との価値関連性を分析する.特に,ビジネス関係においての企業印象指標と,企業価値の関係を調べるため,ブランド価値評価のプロキシーとして,名刺ネットワーク情報を用いた調査手法で測定された企業ブランド指標BBESを用いる.BBESの特徴としては,調査対象企業の名刺を保有しているユーザー(ビジネス上の関わりのある人物)のみを調査対象集団としていることが挙げられる.この特徴から,一般認知度の低いB2B企業についても,風評や経験に基づくブランド力が測定されていることが期待される.このBBESデータがブランド価値のプロキシーとして,株価との価値関連性を有するかどうかを統計的に検証することが本稿における目的である.日本企業を対象にした実証分析により,財務諸表における純資産と利益の情報を所与として,BBESが株価の形成を追加的に説明することを明らかにした.またその説明力は,特にB2B企業群において高い値を示した.
著者
伊藤 嘉浩
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-16, 2020-06-15 (Released:2020-07-03)
参考文献数
43

本稿では,税制度とそのエコシステムに関する優れたビジネスモデルがどのように創造されるのかというイノベーションのプロセスにおいて,創発的ビジネスモデルが生まれることを,ふるさと納税の事例を調査分析して明らかにした.分析の結果,本稿のふるさと納税とそのエコシステムのビジネスモデルの創造プロセスは,①事前の経緯や背景,②税制度の分析的計画と施行,③当初の施行,④創発的ビジネスモデル,⑤税収入の大幅増加と完成,の5段階プロセスとなっており,④は想定外の東日本大震災での制度利用の段階と,返礼品充実と仲介サイトの起業による好循環の創発の段階の2段階になっていた.考察では,①創発的ビジネスモデルの概念の公制度への拡張,②公制度の創発的ビジネスモデルの論理と実践の知見,③本稿の事例の意義について明らかにした.
著者
後藤 謙太郎 増田 靖
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.151-166, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
46

本稿の目的は,会社αの研究所で27年間にわたって開発され,製品化に至った製品Xの開発プロセスの中で生成された実践知の生成・変容・継承過程を,製品系譜学を用いた調査により明らかにすることである.そのため,調査方法として,実務者が研究者となり,自身の実務現場を調査する,創発的ビジネスフィールドリサーチを採用した.また実践共同体とバウンダリー・オブジェクトの概念を用いて分析を行った.その結果,企業研究所の組織実践における実践知の生成・変容・継承過程を明らかにし,社内に継承された実践知と,実践に埋もれ形式知化できるがされてこなかった実践知との質的な違いを見出した.
著者
木村 誠
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.59-76, 2022-09-15 (Released:2022-09-22)
参考文献数
33

本稿は,AI対応プラットフォームにおけるデータネットワーク効果に焦点を当てた循環モデルを開発する.そのために,プラットフォーム理論の新潮流である統合的アプローチの先行研究とデータネットワーク効果概念間の接続を試みる.先行研究の整理から,ネットワーク効果の4分類を行い,特性の違いを確認する.これらの検討に基づき,データネットワーク効果の循環モデルを,データの規模およびデータの範囲に関わるネットワーク効果を組み合わせた多重ループ構造モデルとして提示する.データネットワーク効果の好循環として,AI対応プラットフォームにおけるデータ対応学習の深化とプラットフォーム境界の拡大が共に進行するメカニズムを指摘する.データネットワーク効果の悪循環として,AI対応プラットフォームが機械学習を通じて提供する顧客経験が既存顧客に過適合し,新規顧客に向けた機械ベース・イノベーションが阻害される危険性を指摘する.
著者
江口 彰 領家 美奈
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.89-104, 2021-09-15 (Released:2021-09-29)
参考文献数
32

許可のない情報の持ち出しを原因とするインシデント事例が多く報告されている.本研究の目的は,不正のトライアングル理論を用いて,ISO/IEC 27001の要求事項のうち,「認識」の向上により,逸脱行動の正当化が抑制できることを実証することである.筆者らは,方針,自らの貢献,逸脱行動による影響の3つの認識に関する潜在変数が,いずれも逸脱行動の正当化を抑制する効果があるものと仮定した.そのうえで仮説の設定および仮説検証モデルを構築し,質問紙調査により収集したデータに対して共分散構造分析ならびにISO/IEC 27001の認証取得組織と未取得組織の構成員集団による多母集団分析をおこなった.その結果,仮説が部分的に検証でき,また認証取得の有無により向上させるべき認識が集団ごとに異なることが明らかになった.
著者
金井 康弘 阿部 圭司 関 庸一
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.167-186, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
23

電子部品の売り手においては,利益最大化を目標とした価格設定業務へシミュレーション導入の実現が期待されている.本論文では,個別製品の販売データから得られる価格–累積販売量分布を生成するメカニズムと整合性の期待できるモデルを提案する.本モデルは,その価格–累積販売量分布が,高粗利率では対数正規分布を生成し,粗利率が低下するにつれてベキ分布に当てはまりの良い分布が生成され,さらにそのベキ分布のベキ指数の絶対値が,新製品のリリース時点の粗利率が小さいほど増大することを示唆している.特定の個別製品のスタート価格や原価を想定しシミュレーションを実行することにより,本モデルは価格-累積販売量分布だけでなく平均価格や分布と粗利率の関係性の将来的な推移も与えてくれる.そのため,新製品設計業務や価格設定業務へのシミュレーション活用を実現するために,本モデルによるアプローチは有効なものと考える.
著者
吉田 和樹
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.211-244, 2022-03-22 (Released:2022-03-23)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本稿では,ビジネスモデル創出のためのプロセス(吉田,2021)において,複数のビジネスモデルパターンを適用する場合に行わなければならないことを,上記プロセスに新たに導入するタスクや規約として提案する.具体的には,概念設計プロセスでは,ビジネスモデルキャンバスの各ブロックの状態を因果関係で結んだ図と,パターン間の相互作用を識別するための図を作成するタスクを提案する.検証プロセスでは,システムダイナミクスモデルの定式化において,一つの要素に対して因果関係や相互作用による効果が与えられる場合に,主効果と促進/抑制効果の区別や,効果の統合についての規約を提案する.さらに,因果関係や相互作用に不確実性を取り込み,シミュレーションを実行するタスクを提案する.そして,複数のビジネスモデルパターンを適用する状況で,検証が適切に行えることを確認した.
著者
岩本 大輝 鈴木 秀男
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.245-258, 2022-03-22 (Released:2022-03-23)
参考文献数
42

世界中で女性の労働参入が進んでいる.日本でも女性活躍は進んでいるが,女性管理的職業従事者割合は世界と比して極めて低い.この課題の要因としてワーク・ライフ・バランス(WLB)問題がある.企業はWLB支援施策を採用,もしくは採用を検討しているが,施策が階級別女性比率に与える影響や施策間の影響関係が不明瞭であり,検討困難な現状がある.本研究はWLB施策の組合せ効果や施策間関係が女性活躍に与える影響に注目し,日本企業604社のWLB支援施策情報にベイジアンネットワーク分析を行った.結果として,従業員女性比率には残業時間の削減策,管理職女性比率には在宅勤務,部長以上職女性比率には在宅勤務と保育設備・手当の採用が有効であるとともに,これらの施策の採用に影響を与える基礎的な施策(例えば,有給休暇取得の奨励策など)から順を追って採用し,労働環境を整えることが施策の有効化につながるという示唆をえた.
著者
西村 文亨
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.161-178, 2020-12-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
25

本研究は,九州電力株式会社配電部門の企業内ネットコミュニティへの投稿データを用いた組織学習プロセスの分析,およびネットコミュニティ利用者への質問票調査結果を用いたネットコミュニティへの参加要因分析を行ったものである.ネットコミュニティを利用した組織学習プロセスにおいては,知識探求を契機として提供された知識を吸収する「問答型」学習,知識提供を契機に提供された知識を偶発的に吸収する「偶発型」学習,複数投稿の文脈から包括的に知識を吸収する「包括型」学習といった現象がみられ,場合によってはそれらが併行的あるいは連鎖的に生起されることが分かった.また,専門知識の蓄積,職場で同じ業務を行う人数,職場特性を先行要因とした個人特性などがネットコミュニティへの参加に影響を与えることを明らかにした.さらに,実際の職場学習とネットコミュニティによる組織学習とが補完関係にあることが示唆された.
著者
中村 雅子
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.179-198, 2020-12-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
20

クラウドファンディングはすでに新しい資金調達手段として多様な実践者および研究者の注目を集めている.本研究ではオンライン調査によってクラウドファンディング利用者の多様性について実証的に検討した.日本の調査会社のオンラインモニターを用いて,支援者または提案者として購入型または寄付型のクラウドファンディングを使ったことがある者を対象に2018年5月に回答を依頼した.本論文の目的は以下の二点である.第一に日本のクラウドファンディング支援者の実態を明らかにした.また支援者の多様性を明らかにすることを第二の目的とした.25項目の変数を用いてクラスター分析を行い,五つの類型を抽出した.これらの類型間では支援理由や今後の利用意向などにも違いが見られた.