著者
菊池 啓一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.61-72, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
16

ジェンダー・クオータの一種である法律型候補者クオータがラテンアメリカに導入されて久しいが、2000~10年代にみられた後発国による導入と以前からの導入国による改革の動き、また、2000年代終わり頃からみられ始めているパリティ(男女同数)をめざす動きは、実際の女性議員の比率にどのような影響を与えているのであろうか。この問いについて考察するため、本稿ではラテンアメリカにおける法律型候補者クオータと女性下院議員比率との関係、ならびに、女性閣僚比率と女性下院議員比率との関係を中心に検討した。そして、パリティをめざすべくクオータを引き上げた場合や候補者擁立・順位規定を厳格にしている場合には、従来は同規定の適用が難しいとされてきた非拘束名簿式比例代表制や小選挙区比例代表並立制・併用制を採用している国でも女性下院議員の比率が高まることと、国によっては議会で政治経験を積んだ女性政治家が閣僚に就任するという新たなパターンが生まれてきていることを指摘した。
著者
菊池 啓一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-12, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
11

本稿はボルソナロ政権下における大統領・議会関係の特徴を検討したものである。2018年総選挙におけるボルソナロの当選や下院選・上院選での社会自由党の躍進、労働者党・ブラジル社会民主党・ブラジル民主運動の議席の減少は既存の政党政治に対する不信の産物であった。そのため、ボルソナロは比例代表制・多党制・大統領制という組み合わせによって生み出される連立政権に特徴づけられる「連合大統領制」を否定して議員連盟との協力による閣僚任命を行ったが、政党連合を基盤としない大統領・議会関係は不安定であり、議会が政権運営の障害となるケースも出てきている。2019年4月頃から政権側による他党との歩み寄りの模索がみられるが、「連合大統領制」への回帰による大統領・議会関係の安定化と政権の一層の支持率の低下というジレンマの中でボルソナロ大統領がどのような選択をしていくのかを、今後注視していく必要がある。
著者
菊池 啓一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.14-25, 2023 (Released:2023-07-31)
参考文献数
13

本稿では、「連合大統領制」を否定して政権の座についたボルソナロ大統領とブラジル国会との関係について検討した。当初ボルソナロ大統領は自身の政策選好に近い議員連盟との協力を重視していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で政治的に孤立した。2020年前半に彼に対する弾劾告発が急増したため、セントロンと呼ばれる中道右派・右派政党グループへの接近が顕著となり、弾劾回避や再選に向けた政策実施などに大きな影響を与えた。ボルソナロとセントロンの関係はポスト分配や報告官修正による予算分配を通じて維持されたが、ボルソナロ政権下における大統領・議会関係は概して安定的なものではなく、立法能力の向上にはつながらなかった。
著者
菊池 啓一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.14-30, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
15

本稿は、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス政権の閣僚構成と政策課題への対応の特徴を検討したものである。マクリ政権下での経済状況に対する市民のネガティブな評価とクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル前大統領の選挙戦略の妙によって誕生した同政権は、いわば正義党「連立政権」である。2020年4月時点では新型コロナウイルス対策に対する評価から高い支持率を得ていたが、債務再編交渉と経済再生については政権内での経済政策をめぐる調整不足が目立っている。有権者はフェルナンデス政権に対する評価を大統領個人に結びつける傾向があるが、今後政権の支持率が低下した場合にキルチネル派を重用するのは得策ではないと考えられる。
著者
伊藤 武 浅羽 祐樹 川村 晃一 菊池 啓一 久保 慶一 中井 遼 成廣 孝 西川 賢
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

米欧アジアにおけるプライマリーの実証的分析を行う本研究は、地域・手法を重層的に横 断した研究体制に基づいて、4カ年 計画で議員サー ベイを含むデータ収集、量的・質的な比較分析を行い、引き出した仮説をサーベイ実験で検証する。データベー ス・成果は国内外の 研究者に 公開して、プライマリー関連研究の進展に貢献する企図である。進捗管理と予測できない事態へ の対応も含めて、メンバー間での研究会を実 施する。計画2年目に当たる2019年度は、初年度に整理した海外調査のデータとそれを基にした分析をまとめて、英語または邦語で論文を執筆した。代表者及び分担者は、国内外の学術誌における査読論文(Party Politics等)、国内外の学会発表等(Council for European Studies, Midwest Political Science Association , International Political Science Associationなど)を通じて、積極的に成果を発信した。また2019年度は在外研究の研究資金処理の関係で分担者を外れざるを得なかった菊池氏についても、研究上の連携を維持し、関連論文の執筆及び次年度のサーベイに向けた研究を実施した。データ収集・調査については、各自の担当地域について、関連資金も利用しながら調査を行った。研究打ち合わせは、国内学会の開催に合わせて随時実施していたが、年度末に予定してた成果取りまとめと論文集作成のための研究会、その前のいくつかの海外調査については、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う移動制限によって断念せざるを得なかった。