著者
藤坂 博一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.423-430, 1999-06-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
20

粗視化は統計力学のもっとも基本的な考え方であり, 複雑な現象から粗視化によって簡明な法則を抜き出すことができる. 対象とする1023個もの大自由度系から圧力, 温度, 体積などの少数個の統計量の間の関係を与える熱力学はその典型的な例である. 熱平衡系に限らず, さまざまな分野で観測されるフラクタルや発達した乱流で観測される相似性は, 粗視化スケールの変化に伴ってみられる統計法則である. このように, 粗視化は熱平衡系に限らず, 非平衡系においても基本的で重要な概念である. また, 非平衡系では間欠性のような平均値からの大きな揺らぎが観測される例が多い. 本稿では, このような揺らぎを扱うための, 時間的粗視化に基づく大偏差統計を用いた新しい解析法について紹介したい
著者
海蔵寺 大成 青山 秀明 田中 美栄子 藤坂 博一 増川 純一 小野崎 保 相馬 亘 高安 秀樹 生天目 章 藤原 義久
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究の課題である統計力学の視点から経済現象を分析しようとする試みは最近、経済物理学と呼ばれ始めている。経済物理学は急速に発展しつつある学際的分野であるが、始まったばかりの研究領域である。本研究の目的は経済データの統計分析を通して経験則を発見し、その観察事実を物理学者と経済学者がお互いの知識を持ち寄り、議論することでこれまでの学問的な枠にとらわれない新しい実証的経済科学を作ることである。この時期にこの分野で研究している研究者が共同して一つの課題に取り組みお互いの知識や考え方を共有する機会が与えられたことは、今後の経済物理学の発展にとって非常に重要な意味があったと考える。本研究における主要な研究対象は次の2つである。I.「資産市場におけるゆらぎ」、II.「企業・個人の所得のゆらぎおよび経済社会ネットワーク」である。すなわち、本研究の課題は経済のストックとフローおよびそれらの相互作用を統計物理学的視点から分析することである。この2つの課題は経済物理学において最も関心をもたれているテーマであると同時に、多くの未解決な問題を含む研究課題でもある。それぞれの研究課題において、まず、徹底したデータマイニングが行われ、多くの統計的法則が発見された。また、発見された経験則を説明する新しい経済理論が統計物理学の視点から構築された。本研究の成果は、多岐に亘っているが、今後、これらの成果を発展、統合してゆくことで、実証的な立場からマクロ経済現象を明らかにする極めて独創的な経済学を作り出すことができると期待している。