- 著者
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藪 司郎
- 出版者
- 大阪外国語大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1997
当該言語の語彙比較の結果,次のようなことが明らかになった。1)マル=ラシ=アツィ諸語(MLA)の語彙のなかで,(1)チベット=ビルマ祖語(PTB)の祖形に遡りうる語(例:頭,目,鼻),(2)ビルマ語(B)との同源語(例:雨,畑,匂),(3)ロロ語系言語との同源語(例:言葉,塩辛い,ズボン),(4)ビルマ語,ロロ語系言語のいずれにも同源語が見いだせない語(語:太陽,道,人)がある.〔Matisoffによれば,「人」はLahu語の動物の「牡」を表す接尾辞に関連するという.〕2)ビルマ語系言語の数詞(1-10)は,「2」と「4」を除いて,TBの祖形にきれいに対応している。やや来源の違う形式も借用と断定することは避けたい。数詞が借用されるときは,一般に,シリーズとして借用されると考えられるからである。なお,「2」のM.sit,A.?iはカレン語のkhi(スゴー・カレン語)と同源であるかもしれない。L.?aw?はやや特異である.「4」のM.pyitも特異である。3)MLAはBとの同源語を多くもつものの,語彙構造において著しい違いを示す語彙がある(例:色彩名称,親族名称,存在・所有詞)。4)ビルマ語系言語の格助詞の具格(〜ニヨリ)・共格(〜トトモニ)・連格(〜ト〜)がひとつの形式によって表わされる(M.,L.-yo, A.?e?, B.hnang^3>-ne)。5)語形成の特徴:B.NV型名詞(例:人+病んでいる→病人)はMLA.VN型名詞(例:病んでいる+人→病人)に対応する.しかし,一般的には,前者はむしろロロ語系言語優勢な特徴である。ヌ語(怒語,Nu)との比較研究は,残念ながら,期間内にできなかった。