著者
徳井 淑子 小山 直子 西浦 麻美子 新實 五穂
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

男女の性が服装によって明確に二分化されたのは、洋の東西を問わず近代社会においてである。日本では、それが国家および知識階級の要請によって行われ、政治的な意味をもったが、一方でヨーロッパでは資本主義社会への転換のなかでブルジョア倫理として要請され、社会・経済的な意味を帯びている。近代社会では男女の服装の乖離が顕著であるのに対し、中・近世社会では服装による男女の分化は必ずしも鮮明ではない。現代社会では同化、接近、越境はさまざまなレヴェルで絶え間なく行われ、それによってファッションの多様化が進み、二元論的な性では捉えられない複雑な性のあり方を示している。男女の服装の同化・接近・越境は新たな感性により新たな性の表象として現出するが、同時にジェンダー表象としてつくられた新たな服飾が、新たなジェンダー感性を育んでいくことも確かである。
著者
増永 良文 舘 かおる 小山 直子 喜連川 優 藤代 一成
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今や,Web空間は茫漠たる量の情報が発信され,数十億ページを有する地球規模のデータベースと化している.このWeb空間には,社会の実態が姿を変えた形で映し込まれていると言える,一見しただけでは混沌として様子がつかめないが,それを巧みに分析すれば,現実を俯瞰できる地図や興味ある事実が浮かび上がってくるであろうことは十分予想される.そのための分析手法が「Webマイニング」である.中でも,Webページ間のリンク構造に着目してWeb上のコミュニティ(Webコミュニティ)を発見するWebマイニングツールは,1990年代後半から急激に発展してきた.ここで,Webコミュニティとは,基本的に同じトピックに関心を持つ人々や組織によって形成された「Webページの集合体」を指す.本研究では,お茶の水女子大学ジェンダー研究センター(舘かおる教授・小山直子研究員),東京大学生産技術研究所(喜連川優教授・豊田正史特任助教授),および東北大学流体科学研究所(藤代一成教授)と共同して,Webマイニングによるジェンダー(社会的な意味での性別)関連のWebコミュニティの発展過程を徹底的に分析した.その結果,1999年6月の「男女共同参画社会基本法(英訳:The Basic Law for a Gender-Equal Society)」,この法律は性別(gender)によって不利益をこうむることがない平等(gender-equal)な社会の実現を目指すためのもの,の施行に伴って日本各地で発生した女性センター関連コミュニティの発展過程を的確に捉え,かつWebマイニングが隠れた事実を浮き彫りにしたという大きな成果を得た.これらの結果はキーワード「ジェンダー」をWebマイニングツールCompanion-(喜連川研究室が開発)に日本語で入力して抽出した結果を,ドメイン知識,つまり特定分野の専門知識を持つ者(上述,舘教授,小山研究員)が徹底的に読み解いて得たものであり,Webマイニングツールの有用性を明らかにするとともに,Webマイニングがジェンダー学(gender studies)を含む社会科学の新しい研究方法論となり得ることを実証してみせた.本研究では,さらにこの結果に基づいて,ジェンダー関連ポータルサイトの構築法を明らかにし,それをお茶の水女子大学ジェンダー研究センターのホームページ作成に役立てた.12611
著者
徳井 淑子 小山 直子 伊藤 亜紀
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

情報が伝達され、流行・流儀として定着したことは、そこに一つの文化が成立したことを意味する。ゆえに情報伝達のしくみを追究することは文化の形成過程を追究することに等しい。本研究は、服飾流行における情報媒体について、特に日本の近代、およびヨーロッパの中世・近代において考察し、それぞれの文明における情報伝達の特質と相違を明らかにしたものである。1 近代日本の愛用した「天平風俗」という文化的表象は、文化的概念「東亜」の将来が予告的に可視化されたものであった。つまり、近代日本における「可視化された情報」としての服飾は、文化的表象あるいは趣味(=taste)として感覚的な媒体でありながらも、それ以上に政治的概念を無意識のうちに浸透させる媒体でもあったと考えられる。2 中世ヨーロッパでは婚姻、祝祭、文芸活動を通した宮廷間交流が、16世紀以後はエンブレム・ブックの刊行が、涙模様など紋章に基付いた服飾意匠の汎ヨーロッパ的な伝播に貢献した。一方、ロマン主義時代のパリにおける歴史服の流行が、演劇と文芸とファッションの情報の相互媒介によることは、19世紀の情報伝達の特徴とされる。3 チェーザレ・リーパの『イコノロジーア』(初版1593年)における色彩シンボリズムは、15-16世紀のイタリアとフランスで書かれた複数の色彩論に典拠をもつ。これらの色彩論は、文芸作品における人物の服飾描写に大きな影響を与えたばかりか、近代初期のヨーロッパ人の服飾における色彩流行に影響を与え、ファッション情報のメディアとしての機能を果たした。
著者
徳井 淑子 小山 直子 内村 理奈 角田 奈歩 新實 五穂
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

服飾流行における模倣論の構築には、時代と地域による多様な流行現象の構造分析を集積する必要がある。模倣を生む媒体とシステムは、時代と地域に固有の社会構造や経済の様態、あるいは政治文化によって異なるからである。ヨーロッパ中世では、祝祭や文芸の宮廷間交流が媒介となって服飾文様の伝播が行われる例があり、身体表象が社会秩序に組み込まれた17 世紀フランスでは、大量の作法書が流行を支えている。18 世紀後半に誕生するモード商は、オートクチュールのデザイナーの前身とも、大規模小売りの百貨店の前身ともいえる二重の意味において近世の流行を牽引している。男女の服装の乖離を生んだ19 世紀には、逆説的ではあるが、ゆえに異性装を助長し、ここには初期のフェミニズムの思潮背景がある。一方、近代日本では、西洋文化の受容としての洋装礼装の普及が、近代国家の成立過程に連動した政治性をもっている。芸術とファッションの近接が促された20 世紀は、デザイン・ソースとしての模倣と引用が創造性を獲得するに至っている。
著者
小山 直子 増永 良文
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DE, データ工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.177, pp.153-158, 2004-07-07

我が国は男女共同参画社会の実現に向けて大きく動き出しているが,それに呼応して社会のジェンダー意識が急速に高まっている.また1960年代に始まったジェンダー研究も次代の流れに呼応して,その姿をめまぐるしく変えながら発展している,我々は,このような現象がインターネット上に展開するジェンダー関連Webサイトがなすコミュニティを分析することにより,的確に捉えることができるのではないかと考えた.そこで,本研究では,東京大学生産技術研究所喜連川研究室で開発されたWebリンク解析アルゴリズムCompanion-を用いて,ジェンダー研究関連Webコミュニティの抽出と分析を行い,そのコミュニティが時代の流れと共にどのように変遷しているか,そして,ジェンダーが社会的・文化的な所産であるがゆえに,ジェンダー概念が社会的・文化的なさまざまな事象により受けるインパクトのもと,どのように揺れ動き,その活動を社会に還元させようとしてきたかを明らかにすることを試みた.一方,Webリンク解析アルゴリズムはHITS法,リンクの強連結性に基づく方法,Max-Flow法などさまざまな手法が提案されているが,いずれも,アルゴリズムをリアルな応用分野に適用した場合に,その分野の専門家がそれらを分析ツールとして使用に耐えうるものと評価するか否かに,非常に関心がある.本報告では,ジェンダー関連Webコミュニティの分析にHITS法に基づいたCompanion-を選択したことでいくつか有益な分析が行えたと評価すると同時に,Webコミュニティの発展過程を読むにあたっては,コミュニティ発展過程ビューアの特性を熟知しておくことが必要であることを明らかにした.