著者
徳井 淑子 小山 直子 西浦 麻美子 新實 五穂
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

男女の性が服装によって明確に二分化されたのは、洋の東西を問わず近代社会においてである。日本では、それが国家および知識階級の要請によって行われ、政治的な意味をもったが、一方でヨーロッパでは資本主義社会への転換のなかでブルジョア倫理として要請され、社会・経済的な意味を帯びている。近代社会では男女の服装の乖離が顕著であるのに対し、中・近世社会では服装による男女の分化は必ずしも鮮明ではない。現代社会では同化、接近、越境はさまざまなレヴェルで絶え間なく行われ、それによってファッションの多様化が進み、二元論的な性では捉えられない複雑な性のあり方を示している。男女の服装の同化・接近・越境は新たな感性により新たな性の表象として現出するが、同時にジェンダー表象としてつくられた新たな服飾が、新たなジェンダー感性を育んでいくことも確かである。
著者
徳井 淑子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.499-506, 2004-06-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
36

A boom in historical literature, which occurred from the activities of Romanticism in Paris during the 1830's made medieval-like attire fashionable among the young. Their medieval style was either copies of attire depicted in paintings of the past or was taken from theatrical costume. And the latter also was created from paintings of the past. This thesis examines the correlation among the historical fashion, theatre and arts in terms of records and fiction of that era in order to clarify the characteristics of the transmission of fashion information during the Romantic era. Going to the theatre was the greatest pleasure for the young of that era, and thus the number of people attending the theatre was equivalent to being number one on the bestseller list. Meanwhile, young painters copied paintings by great masters in museums as part of their training, but this also met the demand of the “petit-bourgeois.” Copied paintings created a market and contributed to the dissemination of knowledge about paintings, and it became a medium of information transmission of good examples of historical costume for the young.
著者
徳井 淑子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

ロマン派の若者の間で流行した懐古趣味の服装について、その発端と背景を回想録・新聞記事・文学作品・風俗版画等から調査し、この流行のロマン主義ににおける意義を考察し、次の知見を得た。1.異装の起因が歴史物の芝居の流行にあることは既に指摘されているが、デュポンシェル制作の舞台衣裳で大成功したデュマ父の戯曲『アンリIII世とその宮廷』の上演が特に大きな影響を与えていること、つまり異装の背景には衣裳の時代考証を重んじるロマン派の新しい演劇思潮のあることが明らかになった。2.異装の流行を促した時代の土壌として、カ-ニヴァルの仮装舞踏会の隆盛と、ボエ-ムの言葉で知られる芸術家の自由奔放な生活態度が指摘されているが、仮装服もヴォ-ドヴィルやオペラ・コミック等の登場人物の扮装に取材され、舞台衣裳の影響の大きいことが具体的に確められ、こうした芝居の世界を日常生活にたやすく取り込む独自の生活感情を芸術家がもっていたことが理解された。異装は生活の中で想像世界に遊ぶ行為であり、これがボエ-ムの生活空間の特質である。3.舞台衣裳であれ仮装服であれ異装であれ、歴史服の知識は巨匠の絵画作品に求められ、従ってル-ヴル美術館や王立図書館版画室に通う画家が、いわば服飾史の専門家として舞台の衣裳係を務め、仮装服のデザイン書を著したこと、そして画学生の異装が過去の肖像画に取材されたことを明らかにした。一方、絵画は歴史小説の服飾描写にも影響を与えており、服飾をめぐって文学と美術と演劇が相互に密接に関わっていることから、服飾を含めた芸術の総合性をロマン主義の特質と見るべきであることを理解した。服飾の歴史に対する強い関心は、世紀後半に服飾史という学問に結実するから、懐古趣味の異装は服飾史学の成立に貢献したといえ、これはロマン主義の成果として位置づけられた。
著者
徳井 淑子 小山 直子 伊藤 亜紀
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

情報が伝達され、流行・流儀として定着したことは、そこに一つの文化が成立したことを意味する。ゆえに情報伝達のしくみを追究することは文化の形成過程を追究することに等しい。本研究は、服飾流行における情報媒体について、特に日本の近代、およびヨーロッパの中世・近代において考察し、それぞれの文明における情報伝達の特質と相違を明らかにしたものである。1 近代日本の愛用した「天平風俗」という文化的表象は、文化的概念「東亜」の将来が予告的に可視化されたものであった。つまり、近代日本における「可視化された情報」としての服飾は、文化的表象あるいは趣味(=taste)として感覚的な媒体でありながらも、それ以上に政治的概念を無意識のうちに浸透させる媒体でもあったと考えられる。2 中世ヨーロッパでは婚姻、祝祭、文芸活動を通した宮廷間交流が、16世紀以後はエンブレム・ブックの刊行が、涙模様など紋章に基付いた服飾意匠の汎ヨーロッパ的な伝播に貢献した。一方、ロマン主義時代のパリにおける歴史服の流行が、演劇と文芸とファッションの情報の相互媒介によることは、19世紀の情報伝達の特徴とされる。3 チェーザレ・リーパの『イコノロジーア』(初版1593年)における色彩シンボリズムは、15-16世紀のイタリアとフランスで書かれた複数の色彩論に典拠をもつ。これらの色彩論は、文芸作品における人物の服飾描写に大きな影響を与えたばかりか、近代初期のヨーロッパ人の服飾における色彩流行に影響を与え、ファッション情報のメディアとしての機能を果たした。
著者
徳井 淑子 小山 直子 内村 理奈 角田 奈歩 新實 五穂
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

服飾流行における模倣論の構築には、時代と地域による多様な流行現象の構造分析を集積する必要がある。模倣を生む媒体とシステムは、時代と地域に固有の社会構造や経済の様態、あるいは政治文化によって異なるからである。ヨーロッパ中世では、祝祭や文芸の宮廷間交流が媒介となって服飾文様の伝播が行われる例があり、身体表象が社会秩序に組み込まれた17 世紀フランスでは、大量の作法書が流行を支えている。18 世紀後半に誕生するモード商は、オートクチュールのデザイナーの前身とも、大規模小売りの百貨店の前身ともいえる二重の意味において近世の流行を牽引している。男女の服装の乖離を生んだ19 世紀には、逆説的ではあるが、ゆえに異性装を助長し、ここには初期のフェミニズムの思潮背景がある。一方、近代日本では、西洋文化の受容としての洋装礼装の普及が、近代国家の成立過程に連動した政治性をもっている。芸術とファッションの近接が促された20 世紀は、デザイン・ソースとしての模倣と引用が創造性を獲得するに至っている。
著者
佐々井 啓 徳井 淑子 横川 公子 柴田 美恵 森 理恵 松尾 量子 村田 仁代
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

各自研究を推進しつつ各年とも3〜4回の研究会で意見の交換を行い報告書にとりまとめた。研究および意見交換は主に西洋と日本のグループに分かれてすすめた。西洋においては19世紀後半のアメリカ、イギリス、日本における「New Women=新しい女」に焦点をあて、New Womenの服飾からジェンダー意識について検討を行った。New Womenの衣服改良運動や、New Womenを扱った演劇・小説に表された服飾表現から、ファッションにあらわれた女性解放について明らかにし、新しい衣装と行動とによって「新しい女」が確立していったことを明らかにした。また、同時代のイギリスの女性のスポーツ服や合理服といった、新たな服飾についての調査を通して、この時代に新たな価値観が提示され、20世紀のジェンダー観に影響を与えていたことが分かった。また、異装については、17世紀前半の英国の女性の異性装、近代フランス文学における男装を取り上げ検討し、17世紀の異装は少年の服飾との相似点から不完全な男装であったことに注目し、当時のジェンダー意識を明らかにした。日本においては、異装については鎌倉期の『とりかえばや』と近世初期の阿国歌舞伎の装いについて中心に検討し、ジェンダーとセクシュアリティーの明証性について考察を進め、装いのジェンダー的な意味を多面的に示すものとの示唆を得、さらに著者である女性の目を通した男女に共通する価値意識についても明らかにした。また、阿国の男装と風流としての男子の女装の検討からは、服飾における両性の接近について明らかにした。また、17世紀初期の風俗について「歌舞伎図巻」から、男性の髪型と服装の関連を明らかにし、流行をリードする社会集団を特定することによって服飾におけるジェンダー観を明らかにした。またその結果をふまえ、近世日本の服装におけるジェンダー観と近代日本の「キモノ」観との関連を明らかにした。