- 著者
-
要 友紀子
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.2, pp.233-246, 2020 (Released:2021-09-30)
- 参考文献数
- 13
本稿は,筆者の23 年間にわたるセックスワーカー運動について自身の経験と考察を中心に論じることで,セックスワーカー運動が遭遇した困難とそれが示す社会の実情について明らかにしたものである.セックスワーカー運動はHIV/AIDS の影響もあって1980 年代半ばに国際的に広まり,日本では1999年にSWASH(Sex Work and Sexual Health)が設立された.しかしその運動の軌跡は,セックスワーカーを囲む社会の壁の厚さを実感させるものであった.それらは,調査結果を事実として受け入れてもらえない壁,政治家や研究者,メディアが自分たちの思い描く枠組の中でセックスワーカーに役割を演じさせようとする壁,セックスワーカーが遭遇する困難の実際をみないようにする壁,自分たちの経験を示す言葉がないという壁である.その一方で,この運動は国際的な出会いを通して,自分たちが被抑圧者でありながらも抑圧者となる可能性を基礎とし,属性に関係なく差別や排除に対抗した「セックスワークは労働である」をスローガンに続けられてきた.こんにち,それらの壁を乗り越えるために必要なのは,代弁者ではなく,当事者の経験や困難の通訳者であることを指摘した.