著者
青山 薫
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.19-36, 2016-10-20 (Released:2017-11-10)
参考文献数
59

昨年、全米で法制化されるなどして話題になった「同性婚」1 。日本では、その法制化が現実味を帯びないうちに賛否両論が出揃った感がある。本稿は、この議論をふまえ、「同性婚」やこれに準ずる「同性パートナーシップ」を想定することが、現在の世界と日本社会でどのような意味をもつのかを考察する。そのために本稿は、まず、世界で初めて同性カップルの「登録パートナーシップ」を法制化したデンマーク、やはり初めて同性同士の法律婚を可能にしたオランダ、特徴的な「市民パートナーシップ」制度を創設したイギリス、そして「婚姻の平等」化で世界に影響を与えたアメリカにおける、「同性婚」制度の現代史を概観する。そしてこれら各国の経験に基づいて、「同性婚」が何を変え、何を温存するのかを考察する。そこでは、「同性婚」が近代産業資本主義社会の基礎としての異性婚に倣い、カップル主義規範を温存させることを指摘する。また、「同性婚」が、異性婚の必然であった性別役割分業・性と生殖の一致・「男同士の絆」(セジウィック)を変化させる可能性についても論じる。次に本稿は、近年の日本における「同性婚」に関する賛否両論を概観する。そこでは、賛成論が、同性婚の1)自由・平等の制度的保証面、2)国際法的正当性、3)象徴的意義、4)実生活の必要性に依拠していること、反対論が、同性婚の1) 性的少数者の中のマイノリティ排除、2)経済的弱者の排除、3)社会規範・国家法制度への包摂、4)新自由主義経済政策との親和性を問題視していることを指摘する。そのうえで本稿は、異性愛規範が脆くなってきた今、抗し難い「愛」の言説を通じて「LGBT」が結婚できる「善き市民」として社会に包摂されるとき、他のマイノリティを排除していること、さらに、日本における包摂には、欧米の「同性婚」議論では「愛」と同様に重要視されてきた自由と平等の権利さえ伴っていないことに注意を注ぐよう、読者に呼びかける。
著者
青山 薫
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.224-238, 2014

本稿は, 公序良俗を守り, 「健康な成人向け娯楽」を提供し, 「女性と子ども」をこの産業から保護する法が, 男女を分け, 女性を, 公序良俗の内部にいる「善い女性」と商業的性行為によって無垢さを失った「悪い女性」に分断する性の二重基準にもとづいていることを批判的に検証する. そして, この法によってセックスワーカー (SW) が社会的に排除され, あるいは保護更生の対象とされることを問題視する. さらに本稿は, 法の二重基準に内包された階級とエスニシティにかかわるバイアスが, グローバル化が広げる格差と不安定さによって鮮明になったことを指摘する. そして, このような二重基準が, 近年, 移住SWをつねに人身取引にかかわる犠牲者あるいは犯罪者と位置づけ, とくに逸脱化・無力化する法とその運用にもあらわれていると議論する.<br>以上の目的をもって, 本稿では, SW支援団体と行ったアウトリーチにもとづいて, 人身取引対策と連動した性産業の取り締まり強化が, SW全体の脆弱性を高めていることを明らかにする. そして, 脆弱な立場におかれたSWの被害を真に軽減するためには, 従来の性の二重基準に替えて, 当事者の経験にねざしたエイジェンシーを中心に性産業を理解し, 法とその社会への影響を当事者中心のものに変化させようと提案する. それは, これもまたグローバル化によって広がっているSWの当事者運動に学ぶことでもある.
著者
青山 薫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.224-238, 2014 (Released:2015-09-30)
参考文献数
42

本稿は, 公序良俗を守り, 「健康な成人向け娯楽」を提供し, 「女性と子ども」をこの産業から保護する法が, 男女を分け, 女性を, 公序良俗の内部にいる「善い女性」と商業的性行為によって無垢さを失った「悪い女性」に分断する性の二重基準にもとづいていることを批判的に検証する. そして, この法によってセックスワーカー (SW) が社会的に排除され, あるいは保護更生の対象とされることを問題視する. さらに本稿は, 法の二重基準に内包された階級とエスニシティにかかわるバイアスが, グローバル化が広げる格差と不安定さによって鮮明になったことを指摘する. そして, このような二重基準が, 近年, 移住SWをつねに人身取引にかかわる犠牲者あるいは犯罪者と位置づけ, とくに逸脱化・無力化する法とその運用にもあらわれていると議論する.以上の目的をもって, 本稿では, SW支援団体と行ったアウトリーチにもとづいて, 人身取引対策と連動した性産業の取り締まり強化が, SW全体の脆弱性を高めていることを明らかにする. そして, 脆弱な立場におかれたSWの被害を真に軽減するためには, 従来の性の二重基準に替えて, 当事者の経験にねざしたエイジェンシーを中心に性産業を理解し, 法とその社会への影響を当事者中心のものに変化させようと提案する. それは, これもまたグローバル化によって広がっているSWの当事者運動に学ぶことでもある.
著者
宮地 尚子 後藤 弘子 青山 薫 ケン クリアウォーター ガルヴァス イシャ 紀平 省悟 菊池 美名子 栗林 美知子 松村 美穂 嶺 輝子 宮下 美穂 中島 啓之 仁科 由紀 坂上 香 田辺 肇 田中 麻子 ヴァーナー チャン リル ウィルス 吉岡 礼美
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

トラウマとジェンダーの相互作用を、(1)精神病理的側面から、(2)犯罪行為や逸脱現象の側面から、(3)文化創造的な側面から探り、明らかにした。(1)では海外研究協力者との共同研究や、臨床家、脳科学やジェンダー学等の専門家らによる共同研究会議を実施、トラウマの臨床的課題について検討した。(2)では刑事司法におけるストーカーや性犯罪事件の取り扱い、女性薬物依存症者のトラウマと社会復帰、性労働従事者への暴力について分析した。(3)では参加型アートプロジェクトの実施、参与観察を行い、トラウマからの創造性について考察した。(1)~(3)を統合し、成果を著作やウェブサイト等の形にまとめ、国内外で発表した。
著者
日下 渉 初鹿野 直美 伊賀 司 小島 敬裕 宮脇 聡史 今村 真央 日向 伸介 北村 由美 新ヶ江 章友 青山 薫 小田 なら 田村 慶子 岡本 正明
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

世界各地の国家と市民社会は、性的マイノリティに対して「黙認」「抑圧」「矯正」「支援」など多様な対応をとってきた。なぜ国家と市民社会による性的マイノリティへの対応は、かくも多様なのか。一般に西洋では、民主主義と自由な市民社会が性的マイノリティの権利拡大に寄与するとされる。しかし東南アジアでは、性的マイノリティの権利要求は、民主主義体制のもとで何十年も放置されたり(フィリピン)、暴力的な弾圧されたり(インドネシア)、一党独裁制や軍政の下で進展を見せたり(ベトナム、タイ)、権威主義体制下で限定的に認められることもある(シンガポール)。このように、性的マイノリティの権利拡大の異なる程度は、政治体制の違いや市民社会の自由度からでは説明できない。本研究では、諸国家と市民社会による性的マイノリティへの異なる対応は、国民国家の正統性を支える「象徴」として、彼女/彼らがどのように利用されているかによって説明できるのではないかと仮説を立てて研究してきた。本年度は、6月にアジア政経学会において「アジアにおける性的マイノリティの政治:家族・宗教・国家」と題したパネルを開き、田村慶子が台湾とシンガポールについて、伊賀司がマレーシアについて、宮脇聡史がフィリピンについて、それぞれの事例を報告した。10月中旬には合宿を行い、2日間にわたってメンバー全員が報告を行い、共通の課題について徹底的に議論した。10月末には、マレーシアからPang Khee Teik氏 、インドネシアからAbdul Muiz氏を招いて、国際ワークショップを開催した。翌年2月にも、マレーシアからtan beng hui氏、フィリピンからJohn Andrew G. Evangelista氏、オーストラリアからPeter A. Jackson氏、タイからAnjana Suvarananda氏を招聘して、国際ワークショップを開催した。
著者
青山 薫
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.224-238, 2014

本稿は, 公序良俗を守り, 「健康な成人向け娯楽」を提供し, 「女性と子ども」をこの産業から保護する法が, 男女を分け, 女性を, 公序良俗の内部にいる「善い女性」と商業的性行為によって無垢さを失った「悪い女性」に分断する性の二重基準にもとづいていることを批判的に検証する. そして, この法によってセックスワーカー (SW) が社会的に排除され, あるいは保護更生の対象とされることを問題視する. さらに本稿は, 法の二重基準に内包された階級とエスニシティにかかわるバイアスが, グローバル化が広げる格差と不安定さによって鮮明になったことを指摘する. そして, このような二重基準が, 近年, 移住SWをつねに人身取引にかかわる犠牲者あるいは犯罪者と位置づけ, とくに逸脱化・無力化する法とその運用にもあらわれていると議論する.<br>以上の目的をもって, 本稿では, SW支援団体と行ったアウトリーチにもとづいて, 人身取引対策と連動した性産業の取り締まり強化が, SW全体の脆弱性を高めていることを明らかにする. そして, 脆弱な立場におかれたSWの被害を真に軽減するためには, 従来の性の二重基準に替えて, 当事者の経験にねざしたエイジェンシーを中心に性産業を理解し, 法とその社会への影響を当事者中心のものに変化させようと提案する. それは, これもまたグローバル化によって広がっているSWの当事者運動に学ぶことでもある.
著者
青山 薫
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.19-36, 2016

<p>昨年、全米で法制化されるなどして話題になった「同性婚」<sup>1 </sup>。日本では、その法制化が現実味を帯びないうちに賛否両論が出揃った感がある。本稿は、この議論をふまえ、「同性婚」やこれに準ずる「同性パートナーシップ」を想定することが、現在の世界と日本社会でどのような意味をもつのかを考察する。</p><p>そのために本稿は、まず、世界で初めて同性カップルの「登録パートナーシップ」を法制化したデンマーク、やはり初めて同性同士の法律婚を可能にしたオランダ、特徴的な「市民パートナーシップ」制度を創設したイギリス、そして「婚姻の平等」化で世界に影響を与えたアメリカにおける、「同性婚」制度の現代史を概観する。そしてこれら各国の経験に基づいて、「同性婚」が何を変え、何を温存するのかを考察する。そこでは、「同性婚」が近代産業資本主義社会の基礎としての異性婚に倣い、カップル主義規範を温存させることを指摘する。また、「同性婚」が、異性婚の必然であった性別役割分業・性と生殖の一致・「男同士の絆」(セジウィック)を変化させる可能性についても論じる。次に本稿は、近年の日本における「同性婚」に関する賛否両論を概観する。そこでは、賛成論が、同性婚の1)自由・平等の制度的保証面、2)国際法的正当性、3)象徴的意義、4)実生活の必要性に依拠していること、反対論が、同性婚の1) 性的少数者の中のマイノリティ排除、2)経済的弱者の排除、3)社会規範・国家法制度への包摂、4)新自由主義経済政策との親和性を問題視していることを指摘する。</p><p>そのうえで本稿は、異性愛規範が脆くなってきた今、抗し難い「愛」の言説を通じて「LGBT」が結婚できる「善き市民」として社会に包摂されるとき、他のマイノリティを排除していること、さらに、日本における包摂には、欧米の「同性婚」議論では「愛」と同様に重要視されてきた自由と平等の権利さえ伴っていないことに注意を注ぐよう、読者に呼びかける。</p>
著者
落合 恵美子 伊藤 公雄 岩井 八郎 押川 文子 太郎丸 博 大和 礼子 安里 和晃 上野 加代子 青山 薫 姫岡 とし子 川野 英二 ポンサピタックサンティ ピヤ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

アジアの家族は多様であり、東アジアと東南アジアの違いというような地理的違いにも還元し尽くせないことが、統計的に明らかになった。一枚岩の「アジアの家族主義」の伝統も現実も存在しない。しかし圧縮近代という共通の条件により、国家よりも市場の役割の大きい福祉レジームが形成され、そのもとでは家族の経済負担は大きく、移民家事労働者の雇用と労働市場の性質によりジェンダーが固定され、近代的規範の再強化も見られる。