著者
設楽 悦久 安島 華子 奥田 拓也 堀江 利治
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.5011, 2007 (Released:2007-06-23)

【目的】薬剤によるミトコンドリア障害は、細胞障害の引き金となり、有害事象の原因の一つとなりうる。これまでに一部の非ステロイド性抗炎症薬、スタチン系高脂血症治療薬およびtroglitaozoneが、ミトコンドリアにおける透過性遷移(mitochondrial permeability transition; MPT)を引き起こすことが報告されている。一方で、一部の培養細胞株においてP-糖タンパク (P-gp)がミトコンドリアに局在していることが最近報告されており、これが薬剤性ミトコンドリア障害に影響する可能性が考えられる。実際に、troglitazoneによるMPTに対して、P-gp阻害剤であるketoconazoleやverapamilを添加したところ、効果を減弱した(奥田ら, 日本薬学会第127年会)。そこで、各種スタチンによるミトコンドリア障害を観察し、P-糖タンパク阻害剤の影響について検討を行った。【方法】ラット肝および心筋より調製したミトコンドリア画分に薬剤を加えたときの540 nmにおける吸光度の低下により、ミトコンドリア膨潤を評価した。【結果】各種スタチンにより、ラット肝および心筋から調製したミトコンドリアにおいて膨潤が観察された。その効果は、simvastatin, cerivastatinおよびfluvastatinが特に強く、lovastatinがそれに続き、atorvastatin, rosuvastatinおよびpravastatinでは非常に弱かった。この順序は、筋障害の程度の順序と類似していた。Simvastatinによる膨潤に対するP-gp阻害剤の影響を見たところ、MPT阻害剤にもなるcyclosporin Aで抑制されたものの、ketoconazoleやverapamilの効果は小さかった。これはtroglitazoneとは異なる結果であった。
著者
設楽 悦久
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

これまでにシクロスポリンによる有機アニオントランスポーターに対する阻害効果が単なる競合阻害ではなく、阻害剤に曝露することによって、阻害剤除去後も持続的に見られるものであることを見出してきた。この機序を解明するために、シクロスポリン投与後のラットより遊離肝細胞を調製し、細胞表面をビオチン化したのちに、ビオチン化を受けた蛋白を回収し、そこでのトランスポーターOatp1a1発現量を解析することで、細胞表面での発現量の変化について検討を行った。しかしながら、発現量が低いため、十分量の回収をすることができなかった。同様に、培養肝細胞にシクロスポリンを曝露した後、細胞表面のOatp1a1発現量の解析などを試みたものの、結果が得られなかった。一方で、トランスポーター活性に影響を与えると考えられている肝組織中グルタチオン量を測定したところ、シクロスポリン投与による変化は見られなかった。このことから、肝臓内グルタチオン量の変化による現象ではないことが明らかとなった。また、阻害剤がトランスポーターに共有結合している可能性を考慮し、トリチウム標識シクロスポリンをOatp1a1発現細胞およびベクター導入細胞に曝露した後、膜表面を有機溶媒でwashした後で、結合しているシクロスポリン量を測定したものの、結合量に差は見られなかった。ヒトでの有機アニオントランスポーターOATP1B1およびOATP1B3発現細胞の供与を受け、シクロスポリン曝露によるトランスポーター活性の低下を検討したところ、曝露時間および濃度依存的な阻害効果が認められた。ラットOatp1a1発現細胞を構築し、同様の検討を行ったところ、ここでも同様の結果が得られた。以上より、シクロスポリンによる曝露時間および濃度依存的なOATPファミリートランスポーターに対する阻害が明らかとなったものの、機序を解明するには至らなかった。