著者
谷本 涼
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.204-220, 2020-05-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
37
被引用文献数
2

本稿では,大阪府高槻市を対象に,異なる送迎手段による保育施設利用の実態を反映してアクセシビリティの推計方法を改良し,現状分析と将来人口に基づくシナリオ分析を適用した.その結果,2018年時点の対象地域においては,保育施設の需要と施設立地との間に,相当の空間的ミスマッチがある.とりわけ1~2歳では,市内中心部の駅周辺での供給不足が顕著である.また,公立幼稚園の認定こども園化による保育施設の増強は,一定の効果を有するが,現在の需要を完全に満たすには及ばない.一方,地域的な需給格差を緩和する上で,送迎保育は有効な補助的対策である.そして,将来発生しうる児童数の減少と保育需要の増加に対しては,未収容児童数の増加を招かぬよう,保育サービスの柔軟な供給調整が必要である.これらの知見から,本稿で提案したアクセシビリティ指標とシナリオ分析の手法の有効性も確認できた.
著者
谷本 涼 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.249-264, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
34

個人の全体的な生活の質を考察するには,生活におけるさまざまな目的地の利便性を総体的にとらえられる認知的アクセシビリティの指標を用いた議論が必要である.都市政策における自動車依存からの脱却の方向性も踏まえ,本稿の目的は,もし自動車が使えなくても,日常生活で必要あるいは望む活動が十分にできるか否かというアクセシビリティの総体的感覚(Sense of Accessibility: SA)の指標と,客観的なウォーカビリティ指標(WI),および近隣環境・個人の属性との関係を考察することとした.順序ロジスティック回帰分析の結果,WIはほぼ一貫してSAと有意な正の相関を示した.WIの構成要素の中では,人口密度がSAと強い相関を示した.回答者の性別,年齢,世帯類型は,自動車利用頻度の高低でSAとの相関の正負や強さが大きく異なっていた.この結果は,昨今の都市政策の方向性をある程度支持する一方,自動車に依存しない生活への支援を要する個人の存在も示唆している.
著者
谷本 涼
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.425-446, 2017 (Released:2018-02-23)
参考文献数
48
被引用文献数
2 1

日本の都市部では,特に医療・介護サービスへのアクセシビリティの不足と格差が,将来的に問題化することが予想される。本稿では,二段階需給圏浮動分析法によるアクセシビリティ分析と,現在の政策の検討を通じて,都市郊外(大阪都市圏北部)における病床へのアクセシビリティの変容やその問題点を考察した。アクセシビリティの現状分析からは,病床へのアクセシビリティには,供給総量の不足と,移動手段間・地域間での格差という二つの問題が存在することが明らかになった。また,公共交通の改善と病床機能別の病床数調整を想定した2025年のアクセシビリティの将来推計から,「不足と格差」の現実的な解決には,地域の既存の資源を効率的に活用するための,多面的なアプローチが必要となることが明らかになった。加えて,国と都道府県の医療政策による入院患者の削減には,受け皿としての介護施設の容量が大きな問題になる可能性も示された。現在の政策の考察からは,医療・介護へのアクセシビリティの確保には,各自治体の都市計画と専門的・広域的な医療・保健政策の連携の実現が必要であることと,その上で各自治体が自らの都市計画の妥当性を柔軟かつ批判的に検討し続ける必要があることが示された。