著者
佐藤 司郎 鈴木 牧 谷脇 徹 田村 淳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.5, pp.141-148, 2018-10-01 (Released:2018-12-01)
参考文献数
40
被引用文献数
2

丹沢山地において,シカの増加に伴う林床植生の減少がオサムシ科甲虫に与える間接的な影響を検討するため,シカの影響程度(林床植物量)の異なる5地点においてオサムシ科甲虫相を調査し比較した。併せて,植生保護のため8年前に設置された防鹿柵によるオサムシ科甲虫への保全効果を検証するため,防鹿柵内外の6カ所でも調査を行った。GLMとモデル選択の結果,調査区の林床植物量が,最優占種であるヨリトモナガゴミムシの捕獲数には負の,体の大きいクロナガオサムシの捕獲数に正の影響を与えたことが示唆された。この結果は,シカの影響による植被の減少に伴い,小型のオサムシ科甲虫種は増加し大型種は減少するという一般的な傾向と一致した。優占種5種を対象とした冗長性分析(RDA)でも林床植物量はRDA1軸に強い相関を示した。以上の結果から,丹沢山地のオサムシ科甲虫群集にシカが強い間接的影響を与えることが示された。また,シカが増加する前に設置された加入道山の防鹿柵内では林床植生が多く残存し,大型のクロナガオサムシが多数出現しており,防鹿柵の早期設置は大型のオサムシ科甲虫種の保全に効果があったことが示唆された。
著者
谷脇 徹 興津 真行 岸 洋一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.158-163, 2004-05-16
被引用文献数
1

マツノマダラカミキリの羽化脱出頭数を野外網室と25°C恒温条件の恒温室で0,4,8,12,16,20時の4時間ごとに調査した。環境条件が変動しない恒温室では,羽化脱出のピーク時間帯はみられなかった。野外網室では8〜12時と16〜20時にピークがみられた。羽化脱出頭数を目的変数,気温,降水量,日照時間を説明変数とした重回帰分析により,8〜12時の羽化脱出は過度に高い気温,過度に多い日照,降水に抑制され,16〜20時の羽化脱出は日中から日没頃にかけての気温が高いと促進されると考えられた。気温は羽化脱出の日周期性に最も影響する気象要因であると推察された。羽化脱出頭数の最多時間帯と次に多い時間帯の組み合わせには5パターンがみられ,気温条件により異なった。野外における羽化脱出の日周期性には,内的要因である羽化脱出リズムの寄与程度は小さく,外的要因である気温を主とする気象要因の寄与程度が大きいと考えられた。
著者
谷脇 徹 興津 真行 細田 浩司 阿部 豊
出版者
東京農工大学
雑誌
フィールドサイエンス (ISSN:13473948)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.25-30, 2003-03-25
被引用文献数
2 1

マツノマダラカミキリの羽化脱出消長を,東京都府中市では供試丸太をビニールシートで被ったビニ区で1999〜2002年に,林内区で2001年と2002年に,林外区と25℃恒温条件の恒温区で2002年に,茨城県那珂郡那珂町の林内区と茨城県下館市の林外区で1999〜2002年に調査した。供試丸太の網室搬入時期は,那珂町と下館市では冬期の伐倒直後であったが,府中市では5月下旬〜6月上旬であった。すべての調査区を設けた2002年の府中市では,脱出初日は林外区,50%羽化日は恒温区が最も早く,脱出初日から最終日までの日数は林外区で最も多く,ビニ区で最も少なくなり,同一地域でも環境や処理方法を変えると羽化脱出の傾向が異なることが確認された。4年間調査を行った府中市のビニ区,那珂町の林内区,下館市の林外区を比較すると,50%羽化日の平均は下館市が最も早く,有効積算温量が最も小さかった。林外では直射日光の影響でカミキリが実際に得る温量が多くなり,羽化脱出時期も早くなると考えられた。性比は高温少雨の年には小さくなった。また,府中市のビニ区と下館市の林外区では2000年から2002年にかけて同様の傾向を示した。
著者
越地 正 谷脇 徹 田村 淳
出版者
神奈川県自然環境保全センター
雑誌
神奈川県自然環境保全センター報告 (ISSN:13492500)
巻号頁・発行日
no.5, pp.3-9, 2008-03
被引用文献数
1

神奈川県丹沢山地一帯において2007年に大発生したブナハバチによるブナの被害調査を行った。ブナハバチ被害の中心は西丹沢の檜洞丸から加入道山にかけての標高1400m以上の地域であった。これらの地域一帯ではブナの葉が丸坊主になり残った葉脈が褐色に変わる異常な景観がみられた。葉の大部分を食害する「激害型」被害は80%を超える地点もあり、今までにない激しい規模の被害を受けたことがわかった。今回発生したブナハバチ被害により激害を受けたブナは、さらに衰弱枯死が加速する恐れがある。また、繰り返しブナハバチの大発生がみられる檜洞丸においてブナの衰弱枯死過程を調査したところ、ブナ枯れ跡地のギャップを中心に衰弱枯死が拡大していることがわかった。これらのブナの衰弱枯死原因を観察した結果、1997年以降はほとんどがブナハバチの繰り返しの食害によるものであった。
著者
谷脇 徹 笹川 裕史 藤澤 示弘
出版者
神奈川県自然環境保全センター
雑誌
神奈川県自然環境保全センター報告 (ISSN:13492500)
巻号頁・発行日
no.4, pp.41-45, 2007-03

スギノアカネトラカミキリによる材質劣化被害の実態把握のため、平成18年度にアンケート法による広域被害実態調査を実施した。得られた最新の調査結果と昭和54年度、昭和60年度、平成元年度および平成17年度の被害実態調査結果とあわせて、27年間に渡る被害発生の経年変化について検討した。調査箇所数の最も多い昭和60年度〜平成元年度における各市町村の被害状況について、被害状況や位置関係から7つの地域区分(複数市町村からなる地域)に分類した。その結果、激害地域から無被害地域まで段階的に認められ、激害地域から離れるほど被害程度が小さくなる傾向にあった。また、広域レベルでは被害の顕著な経年変化はみられなかったが、各地域内の詳細な被害経年変化については不明であり、今後の課題として残された。この課題について、GISによる新たな被害解析手法を導入することで、地況や林況データを含めた詳細な被害要因解析が可能になると期待される。
著者
谷脇 徹
出版者
東京農工大学
雑誌
フィールドサイエンス (ISSN:13473948)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.9-15, 2006-03-31

アカマツ丸太におけるクロタマムシ(以下クロタマ)および穿孔虫類4種の直径階別および樹皮厚別の脱出孔分布を調査した。脱出孔密度はマツノマダラカミキリ(以下マダラ)では細くて樹皮の薄い部分,ムナクポカミキリ(以下ムナクボ)およびオオゾウムシでは太くて樹皮の厚い部分,クロタマではこれらの中間的な部分で高かった。ウバタマムシの脱出孔密度が高かったのは,太くて中間的な樹皮厚の部分であった。丸太単木ごとにみるとクロタマとムナクボの脱出孔はほとんど混在しなかった。一方,クロタマとマダラの脱出孔には混在が認められ,幼虫期における生息域の重なりが推察された。タロタマの脱出孔分布は,基本的には親成虫の産卵様式に依存すると考えられるが,マダラとの脱出孔の最大混在密度が直線回帰されたことから,種間関係によってクロタマ本来の脱出孔の分布型が変化した可能性がある。