著者
劉 建 辺 嘉賓 塩津 文隆 GHOSH Subhash Chandra 豊田 正範 楠谷 彰人
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.326-332, 2008-07-05
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

日本型水稲4品種の幼植物を50mMのNaClストレス下で16日間水耕栽培し, 品種の耐塩性を調査した. 生育にはグロースポーチを使用し, 画像解析を用いて根の直径別の根長と根表面積を測定し, 根系形態と耐塩性との関係を解析した. 対照に対する塩処理の全重と相対成長率の低下程度から, 農林18号の耐塩性が最も高いと判断された. 処理別, 両処理込みにかかわらず相対成長率は葉面積比ではなく純同化率に一義的に規定されていた. 純同化率は個体当たり根長および根表面積と正の, 茎葉部Na含有率および葉面積/根表面積比(LA/RA比)と負の相関関係にあった. 茎葉部のNa含有率は個体当たり根長や根表面積が増加するほど指数関数的に減少し, LA/RA比とは正の相関関係にあった. 塩ストレス下において農林18号は直径0.169mm以下の2次根や3次根, および直径0.5mm程度の冠根の減少程度が少なかったため, 個体当たり根長と根表面積は他品種よりも多かった. 塩ストレス下において農林18号の根系の減少程度が小さく, LA/RA比が低いことは他の品種より吸水能力に優れていることを示唆している. このことから, 農林18号は塩ストレス下でも蒸散速度が高く, 蒸散流中のNa排除機構が効率的に作用したために茎葉部のNa含有率が低く抑えられたと推察される. また, 体内の水分含有率の低下を抑えたことにより高いNARを維持し, その結果高いRGRを達成したと推察された.
著者
趙 仁貴 劉 建 塩津 文隆 豊田 正範 楠谷 彰人 武田 真 一井 眞比古
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.148-152, 2006-04-05
参考文献数
22
被引用文献数
3

水稲品種オオチカラとその短根性準同質遺伝子系統IL-sr1を供試し、出穂期における地上部と根の形質、出液速度および止葉の光合成関連特性を比較した。IL-sr1の草丈はオオチカラより有意に低く、株当たり茎数と地上部乾物重も有意に少なかったが、茎当たり地上部乾物重に有意差はみられなかった。株当たりの出液速度はIL-sr1の方がオオチカラよりも有意に低く、IL-sr1/オオチカラ比は56%であった。そこで、この差を根量と根量当たり出液速度に分けて検討した。その結果、総根長と総根重のIL-sr1/オオチカラ比は30%と35%、総根長および総根重当たり出液速度の同比はそれぞれ188%と163%であり、いずれにも有意差が認められた。すなわち、根量はオオチカラの方が多く、根量当たり出液速度はIL-sr1の方が高かった。これらより、IL-ssr1は根の量が少ないために根全体の生理機能はオオチカラより低くなったが、個々の根の生理活性はオオチカラを上回っていると推測された。また、光合成関連特性に関してはIL-sr1とオオチカラとの間に有意差は認められず、短根遺伝子sr1は光合成に影響しないと考えられた。
著者
森田 茂紀 豊田 正範
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.217-223, 2000-06-05
参考文献数
28
被引用文献数
3

メキシコ合衆国バハ・カリフォルニア州のゲレロ・ネグロで, 日本政府とメキシコ政府の共同事業として, メキシコ沙漠地域農業開発プロジェクト(以下, プロジェクト)が実施された.プロジェクトの目的は, 沙漠地域で野菜と果樹を点滴灌漑栽培するための技術を開発し, 移転することであった.プロジェクトの圃場の土壌と, そこで用いられる灌漑水は, いずれもpHと塩類濃度が高いという問題を持っているため, 作物の耐塩性に関する問題は重要な課題である.そこで本研究では, 耐塩性の問題を研究していくための基礎的なデータを得るために, 根から吸収されて茎葉部へ転流される様々なイオンについて検討した.すなわち, プロジェクトで重要な作物であるトウガラシとメロンについて, 成熟期の出液中に含まれているイオンの分析を行なうとともに, 出液速度を測定した.露地栽培したトウガラシでは出液中のイオン濃度に昼夜で差があったが, 出液速度も昼頃にピークを持つ山型の日変化パターンを示した.一方, 畝立マルチ栽培のメロンでは, イオン濃度も出液速度も昼夜に関係なくほぼ同じレベルであった.そこで, 出液速度を考慮して検討したところ, 耐塩性に関係しているナトリウムイオンの濃度は出液速度が大きいと低く, 出液速度が小さいと高いことが明らかとなった.なお, 土壌のイオン濃度も場所によって異なっていたため, バックグラウンドとして土壌成分を基準にした比較も行なった.以上のように, 出液成分に着目したアプローチによって, 作物の耐塩性を研究するために基礎的データが得られるが, 出液速度や土壌条件を考慮して解析する必要があることが明らかとなった.
著者
崔 晶 趙 居生 楠谷 彰人 諸隅 正裕 豊田 正範 浅沼 興一郎 丹野 久
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.314-319, 2000-09-05
被引用文献数
2

中国華北地域における良食味品種育成のための基礎的知見を得るために, 天津市近辺で栽培されている品種10(天津品種)と日本の新旧品種10(日本品種)を供試し, 食味特性を比較した.官能検査における総合評価は日本品種コシヒカリが最も高く, 天津品種津優9701が最も低かった.総合評価の平均値は, 天津品種は-0.42, 日本品種は-0.04であった.総合評価の判定値によって, 供試品種を+0.35以上の食味良品種群(H群), +0.35〜-0.35の食味並品種群(M群), -0.35以下の食味不良品種群(L群)に分類した.日本品種では, コシヒカリ, キヌヒカリ, おくひかりがH群, 神力, 愛国, 農林18号がL群に属し, 他はM群に属した.天津品種では唯一花育13がH群に属し, 金珠1, 津稲779および津優29はM群, 他の品種は全てL群に分類された.理化学的特性のアミロース含有率, タンパク質含有率および最高粘度に有意な品種群間差は認められなかった.津稲779と花育13のアミロース含有率とタンパク質含有率はコシヒカリやキヌヒカリに近い水準にあった.以上より, 天津品種の理化学的特性はそれ程悪くないものの, 官能検査では劣ることが知られた.この理由は, 天津品種には低アミロース含有率, 低タンパク質含有率, 高最高粘度を兼備した品種が少ないためと考えられた.しかし, これらの中にあって, 津稲779と花育13は総合的に優れた食味特性を備えており, 今後の華北地域における良食味品種育成のための有用な育種素材になると期待される.