著者
辻 斉
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

人物の集合写真に中から知人の姿を見つけられなくて困ったり、逆にテレビの画面の端にちらりと映った自分の姿にすぐに気がついた経験は誰にもある。自分に関する聴覚刺激の閾値は他より低いことはカクテルパーティ効果現象という名でよく知られているが、視覚刺激については明らかでなかった。日常場面では、自分を見つける手がかりとして、集合写真での自分のいる位置や自分の服装といった外的で一時的な特徴を利用している可能性もある。本研究では、自分の姿が本当に見つけやすいのかどうかを、数名の大学生の顔写真を同時にコンピュータのディスプレイに提示し、その中にあらかじめ指示された顔が有るか無いかを判断させるという視覚的探索(Visual Search)手続きを用いて検討した。同時提示する顔写真の数を1、2、4、6と変化させたがそのいずれにおいても、自分の顔は他者の顔よりも統計的に有意に速く見つけることができた。また、顔の探索に要する時間は同時に提示された探索対象でない人物の人数が増えるにつれて探索時間は加算的に増加し、線分の傾きのような単純な刺激を探索するときに一つだけ異質のものが浮き出してみえる現象(pop out)は、見出されなかった。自分の顔か他者の顔かという要因と刺激の数の要因との間で有意な交互作用はなかった。この実験の結果、服装や位置のような外的で一時的な要因を取り除いても、被験者自身の顔は他者の顔よりも認知しやすいことが明らかになった。この実験で視覚的なカクテルパーティ効果の存在が実証された。これは日本心理学会で発表され、高く評価された。視覚的カクテルパーティ効果の説明として顔刺激に対する親近性を考えることができる。今後は妨害刺激としての他者と被験者との親近性を変数としてさらに研究を続ける必要性がある。
著者
辻 平治郎 辻 斉
出版者
甲南女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

近年特性論の主流となった5因子モデルは特性語を網羅的に収集し分類する「語彙アプローチ」から生れてきた。しかし日本では、これを輸入・翻訳した、研究はあるが、5因子との関連を見た語彙研究はほとんどない。そこで本研究では、日本語で語彙アプローチを試み、5因子が確認されるかどうかを研究してみた。まず、23名の研究者が特性語および特性語化できそうな語を広辞苑から抽出したところ、13,198語となった。次に、18名の研究者がこれらの語が「通じるか」どうかを1〜3の3段階で評定し、現代人にはほとんど通じない語(評定平均値1.5未満)を削除したところ、11,145語が残った。内訳は、名詞8,134語、動詞1,099語、形容詞646語、副詞77語、連体詞4語、慣用句1,185である。さらに18名の研究協力者がこの11,145語の「意味が分かるか」「使うか」の評定を行い、上記の「通じる」評定を加えた3種類の評定平均値が2.5以上のものを、日常的に使われる特性語として選出したところ、3,779語となった。また、この3種類の評定すべてが3となった語が400であったので、これらを尺度化して、自己評定データ(有効回答490名)をとり、因子分析を行ったところ、11因子が抽出された。これらは適切なまとまりを示していたが、欧米の5因子とはかなり異なっていた。このような結果になったのは、(1)日本語に特有の因子構造があるから、(2)400語のリストに真の特性語以外のものが含まれていたから等の理由が考えられる。実際、第2次データベースを特性語化して文法を基礎として整理してみると、(1)人物のタイプを表す名詞、(2)永続的な特徴を表す形容語(形容詞および名詞や動詞を形容語化したもの)、(3)動作的特徴を示す動詞(名詞+動詞を含む)に分化するので、真の特性語に限定すれば、5因子に近いものが抽出されたかもしれない。