著者
伊藤 英之 辻 盛生 井村 隆介
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

霧島・えびの高原では2013年12月以降,火山性地震・微動の増加や地殻変動が認められている.2017年4月には熱異常域の拡大や噴気量の増大,5月8日には噴出物も確認されたことから,噴火警戒レベル2への引き上げが行われた.2017年7月~8月にかけては急激な傾斜変動が観測され,それに対応して噴気活動も活発化した. 2018年1月19日には,継続時間約1分の火山性微動が観測されるとともに,傾斜計データの変化,火山性地震の増加など活発な活動が現在も継続中である. これらの活動に付随して,えびの高原周辺では湧水等にも変化が認められている.2017年3月19日には硫黄山南西側で,3月21日には火口南側で,6月4日には韓国岳登山道脇で顕著な熱水活動が確認されている(気象庁噴火予知連資料,2017).これらのことは火山性流体がえびの高原浅部にまで流入していることを示唆しているものと考えられる. 我々はえびの高原の浅部地下水系の理解と火山防災への寄与を目的として,2017年6月3日よりEC,水温の連続モニタリング観測を行うとともに,複数箇所の湧水を採取し,水質分析を継続的に実施している. 連続観測している地点は3カ所で,1カ所は水温のみ(No.1),残り2カ所ではEC・水温(No.2,No.3)を測定している.いずれのサイトでもデータの変動幅が大きい.EC・水温ともに降雨との相関は認められ,降雨時にはEC・水温とも一時的に低下し,特にECは,わずかの降雨にも敏感に反応する.一方,火山活動との相関については不明瞭である.2017年9月25日以降,不動池南西にある湧水ポイント(No.3)が枯渇し,それ以降のデータが回収できなくなった. 湧水湧出地点8カ所のいずれのサンプルでも,時系列変化が認められ,特にデータロガーを設置した3地点における陽イオン・陰イオンの時系列変化は著しい.これらのサンプルでは2017年9月22日以降,Ca+,Na+やSO42-,Cl-など主要イオン濃度の上昇傾向が認められ,特にNo.1における主要イオン濃度の情報が著しい.現在,火山活動や気象条件との相関について検討を行っている.
著者
辻 盛生 丹波 彩佳 鈴木 正貴
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.321-330, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
24

カワシンジュガイは,河川上流域に生息する淡水二枚貝であり,絶滅危惧種である.調査地は湧水が点在する河川源流域の河川幅 1~4 m 程度の小河川であり,流程約 6.5 km に 4 箇所の調査区を設けた.上流の調査区で冬季に日周性のあるCl-,Na+濃度の上昇が確認された.調査期間中の最大値は 453 mg Cl- L-1 であり, EC100 mS m-1に相当する 283 mg Cl- L-1を越える濃度が 2018 年に 12 回,2019 年に 7 回記録された.調査区上流の高速道インターチェンジ付近の自動車洗車場から,車体に付着した凍結防止剤である塩化ナトリウムが流入したと推察された.調査河川上流,中流,下流の 3 箇所で実施した 2 年間に渡る移植調査の結果,洗車場に近い上流の調査区において,本種の成長はほとんど見られなかった.中流,下流の調査区における年間成長量は, 1.5 mm 前後であり,3~5 mm とする既往の知見より少なかった.本種の生息に影響を与える要因について,さらなる調査が必要である.
著者
伊藤 英之 角野 秀一 辻 盛生 市川 星磨 高崎 史彦 成田 晋也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

近年,宇宙線ミュオンを用いた火山体内部の透視技術が確立され,浅間山,薩摩硫黄島などで成果を出している(Tanaka, et.al 2008).我々は,岩手山山頂から約6km東麓に位置している国立岩手山青少年交流の家にミュオン測定機を設置し,2016年10月14日より観測を実施している.合わせて,岩手山起源の湧水の化学組成について連続観測を行い,ミュオグラフィーから得られる山体内部構造のイメージングとあわせ,火山体内部の深部地下水流動系の解明を目指している.現在のデータの取得状況は安定しており,二次元の簡易イメージは得られている状況にある.しかしながら,測定から得られる山の密度長は実際の山の厚さとはかけ離れた値を示しており,電磁シャワーや周囲からの散乱によって入ってきたミュオンによる影響が大きい.一方,数値地図火山標高10mメッシュを用いて,実測密度長と地形データの距離との比を取り,密度分布にすると,北側と南側で濃淡が異なってくることから,今後はバックグラウンドを仮定して,山体の密度分布を把握していく予定である.一方,湧水の化学組成から,岩手山麓の湧水の多くはCa(HCO3)2型であるが,北麓の金沢湧水と北東麓の生出湧水では,Ca(HCO3)2に加えSO42-の濃度が高い.これらの湧水についてトリチウム年代を測定したところ,13.9~23.5年の値が得られた.特に生出,金沢湧水については,それぞれ19.4年,23.5年の測定値が得られ,1998~2003年岩手山噴火危機の頃に涵養された地下水が今後湧出してくる可能性が示唆された.
著者
辻 盛生 軍司 俊道 江 東 平塚 明
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.179-182, 2006-08-31
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

多自然型川づくりにおいて,植生ブロックと覆土によって緑化が行われる事例が多く見られる。岩手県遠野市 (旧宮守村) を流れる宮守川における植生ブロックと覆土による事例を調査した。その結果,水際部の覆土は失われ,定着する植物は陸生の外来種が多い傾向が見られた。水際部の植物群落は,水辺エコトーンとして多様な機能の発揮が期待できるが,そのためには水域に進出し,水との接触が可能な種の定着が必要である。水辺エコトーンの早期形成と,陸生の外来植物優占の回避とのために,現地周辺に自生する水域に進出可能な植物の植栽が一手法として有効であることが明らかになった。