著者
牧野 亜友美 森本 淳子 柴田 昌三 大澤 直哉 中西 麻美
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.286-289, 2002-08-31
参考文献数
10
被引用文献数
2 6 3

京都市近郊のヒノキ二次林において合計0.21 haの施業区を設置し, 生物多様性を回復させることを目的として針葉樹11本と落葉広葉樹26本を残しすべての植生を伐採した。伐採後の木本植生の多様性の変化を, 萠芽更新と実生更新に着目して調査を行った結果, どの斜面位置においても伐採前に比べて伐採後に種数が増加した。新たに出現した種は28種であり, それらは主に鳥類によって散布された種子と埋土種子からの発芽であると考えられた。保残木施業による天然更新を促す手法を用いた小面積伐採は, 木本植生の多様性を回復させるのに一定の効果があることが示された。また, 遷移が進行した都市近郊二次林では, 林相の種組成が単純であるため周囲からの新しい種の供給は小さく, 新しい種の供給源として埋土種子の役割が重要であると考えられた。
著者
重藤 大地 中島 敦司 山本 将功
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.118-121, 2006-08-31
参考文献数
11

本研究では,ヒガンバナの開花と温度の関係について検討することを目的として,人工気象室で育成実験を行った。人工気象室の温度条件は,常に外気に追従した条件,常に外気に対してそれぞれ1.0,2.0,3.0℃ 高い条件の4 種類とした。そして,加温処理を開始した日はそれぞれ6月6日,6月28日,7月15日,8月4日,8月26日,9月5日とした。その結果,供試植物は夏期から秋口である開花期まで継続して外気より高温条件下におかれると開花期に外気より高温条件下でも開花可能となった。特に6月6日から7月15日までに1.0℃ から3.0℃ の加温条件下におかれた個体は,より高温条件下でも開花した。このことから,夏期の気温上昇によってヒガンバナの開花可能温度は上昇すると考えられた。一方,夏期における1.0℃ から3.0℃ までの平均気温の上昇は花の形態には影響を及ぼさないことも明らかになった。
著者
松本 雅道 田金 秀一郎
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.355-360, 2006-11-30
参考文献数
44

絶滅危惧植物であるキスミレの自生地における緑化に際して,配慮すべき点を検討するために,阿蘇山での生育環境の特性と日本における自生地の土壌型を調査した。キスミレは春植物の生活環をもち,春先に充分な光が得られる環境を要求するため,野焼きによる草地の管理は必要である。キスミレの生育環境は土壌が深く,ススキの生育の良い,多様な種組成の群落が成立する環境である。斜面崩壊の発生して3 年経過したすべり面にはキスミレは生育していないが,14 年経過したすべり面の一部には生育を始めており,崩壊地でキスミレが群生する草地が回復するにはさらに時間がかかると推定された。日本におけるキスミレの自生地の土壌型は,草原性の環境において生成した黒ボク土の分布域に遺存することが多い。崩壊によって失われた黒ボク土を再生することにより,ススキ草原を再生することが,緑化に際して配慮すべき点と考えられる。
著者
木下 尚子 嶋 一徹 廣野 正樹
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.336-339, 2004-08-31
参考文献数
5
被引用文献数
1

瀬戸内沿岸の山火事跡地斜面に分布する先駆木本類6樹種について埋土深と土壌加熱が種子発芽に及ぼす影響を調査した。その結果,山火事により土壌表層では短時間高温に晒されるが,深さ4 cm程度の土壌では50 ℃以下の温度が長時間継続することが判明し,この深さに埋土されたアカメガシワ,クサギは加熱で発芽促進が認められた。これに対してアカマツは埋土すると発芽できず,耐熱性が低いため火事後の種子供給が必須なことが明らかになった。
著者
近藤 哲也 高橋 朋身 下村 孝
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.28-35, 2000-08-31
参考文献数
20
被引用文献数
5 10

海浜地域におけるハマヒルガオの景観形成素材としての利用および本種の保全を目的として, いくつかの休眠打破処理を試み, 硬実種子であることを確認した。そして硬実性解除のための適切な硫酸処理時間とその機作を明らかにした。ハマヒルガオの種子をシャーレに播種して恒温器内に置き, 発芽の過程を観察した。その結果ハマヒルガオの無処理種子は, 発芽時の温度や光条件そして採取場所, 採取時期, 貯蔵期間にかかわらず, 吸水して発芽できる種子は数%にとどまる硬実種子であった。しかし種皮への針による穿孔, 紙ヤスリによる傷付け, 濃硫酸への浸漬処理によって吸水し発芽が可能になった。それらの処理の中でも硫酸処理がもっとも効率的であった。濃硫酸処理の効果は, 種子採取の場所や時期によって異なったが, 60分から120分の浸漬処理で80%程度の発芽率を得ることができた。濃硫酸に浸漬すると, 初期にはへそ周辺部に, 浸漬時間が長くなると種皮にも亀裂や穴を生じた。この亀裂や穴から吸水し, 発芽が可能になったと考えられた。
著者
辻 盛生 軍司 俊道 江 東 平塚 明
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.179-182, 2006-08-31
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

多自然型川づくりにおいて,植生ブロックと覆土によって緑化が行われる事例が多く見られる。岩手県遠野市 (旧宮守村) を流れる宮守川における植生ブロックと覆土による事例を調査した。その結果,水際部の覆土は失われ,定着する植物は陸生の外来種が多い傾向が見られた。水際部の植物群落は,水辺エコトーンとして多様な機能の発揮が期待できるが,そのためには水域に進出し,水との接触が可能な種の定着が必要である。水辺エコトーンの早期形成と,陸生の外来植物優占の回避とのために,現地周辺に自生する水域に進出可能な植物の植栽が一手法として有効であることが明らかになった。
著者
〓 徳泉 増田 拓朗 守屋 均
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.292-295, 2001-08-31
参考文献数
10
被引用文献数
1

高松市中央通りの中央分離帯に植栽されているクスノキ並木をめぐって, 市のシンボルとしての緑豊かな樹冠を望む一般市民と, 見通しのよい圧迫感のない車道空間を望む運転者の論争が20年以上にわたって繰り広げられている。車道上に張り出した車道建築限界 (4.5m) よりも低い枝が問題になっているわけだが, 現在, このクスノキ並木の平均樹高は10.4mで, ほぼ樹高成長の上限に達しており, 現状で下枝を切除すると極めて貧弱な樹冠にならざるを得ない。4個体を選んで土壌断面調査を行ったところ, 有効土層は浅い所では40cm, 深い所でも80~90cmであり, 固結土層が樹高成長を制限している可能性が示唆された。固結土層を膨軟化して, 有効土層を深さ1.5m以上確保してやれば更なる樹高成長が期待でき, 緑豊かな樹冠と見通しのよい圧迫感の少ない車道空間の両立が可能になるものと考えられる。
著者
吉田 正典 養父 志乃夫 山田 宏之
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.183-186, 2006-08-31
被引用文献数
1 3 1

新潟県上越市,和歌山県かつらぎ町,香川県満濃町において,産卵と幼生生息地の地形と水深,水質,植生条件,ならびに,幼生の成長経過を調査した。その結果,産卵前の1月から変態時期である6月までの期間,少なくとも5~10cmの水位を維持する必要があること,また,水域のpH は,5~7,溶存酸素(mg/l)は, 5.00~5.99,電気伝導度(μs/m)は,7.00~10.00の水準に維持する必要があること,さらに,水域内の植生については,定期的に除草や刈払によって,植被率と群落高を低い状態に抑制する必要のあることが判明した。
著者
久米 昌彦 日置 佳之 多田 泰之
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.15-20, 2007-08-31
被引用文献数
1

緑化樹木の根系の分布や状態は,移植や樹木の治療等,樹木の保護管理を行う上で最も重要かつ基礎的な情報である。しかし,従来現場で個別の樹木の根系を調べるには,掘り起しや水圧利用による根系の洗い出しといった手法以外に有効な方法はなかった。そこで,根系の水平的分布を非破壊かつ簡易に推定する全く新しい方法を開発するために,測定対象木の樹幹に振動を与え,土中及び根系を伝播する振動の伝播速度を,対象木周辺の複数個所で測定した。その結果,伝播速度の測定から樹幹を中心とする半径2.5mの円内における1 ) 主根の横走する方向,2 ) 根系の水平的分布の概要を推定することができた。特に,周囲に他の樹木がなく,地下に測定対象木のみの根系が存在するような土壌では高精度で根系の水平的分布の概要を推定することができた。
著者
田中 崇之 菅本 裕介 宮崎 郁美 伊藤 裕太 浜口 昌巳 野田 泰一 小林 達明
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.193-198, 2004-08-31
被引用文献数
1 1

東京湾の人工渚におけるアサリの個体群動態と生残規定要因について2002年から2003年にかけ調査した。春に産卵された浮遊幼生は秋には生殖が可能になり,翌年の春には産卵を行っていると見られた。葛西海浜公園では2002年, 2003年ともに着底後のアサリの個体数減少が見られ,大雨時の河川水の流入に伴う塩分濃度の低下が主な生残規定要因として考えられた。また,幕張の浜では浮遊幼生は供給されているにもかかわらず,稚貝が見られなかったことから,波浪の影響, 青潮の影響が考えられた。これに対し,金沢海の公園,小櫃川河口干潟はアサリの個体数は安定していた。これらのことから,東京湾におけるアサリの生息条件は多様であり,生息地を再生するためには,その場に応じた対処が必要と考えられた。