著者
池中 良徳 宮原 裕一 一瀬 貴大 八木橋 美緒 中山 翔太 水川 葉月 平 久美子 有薗 幸司 高橋 圭介 加藤 恵介 遠山 千春 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-20, 2017 (Released:2018-03-29)

ネオニコチノイド系殺虫剤は、哺乳類における体内蓄積性は短く、昆虫とヒトのニコチン受容体に対する親和性の違いから、ヒトに対する毒性は相対的に低いため、一定の基準以下であれば、日常生活においてその毒性は無視できると考えられている。しかし、日本では諸外国と比べ数倍~数十倍と果物や野菜、茶葉における食品残留基準値が高く設定されていること、また、記憶・学習などの脳機能に及ぼす影響をはじめ、発達神経毒性には不明な点が多いことなどから、健康に及ぼす懸念が払拭できていない。とりわけ、感受性が高いこどもたちや化学物質に過敏な人々の健康へのリスクを評価するためには、ネオニコチノイドが体内にどの程度取り込まれているかを把握することがまず必要である。そこで本調査では、長野県上田市の松くい虫防除が行われている地域の住民のうち、感受性が高いと考えられる小児(3歳~6歳)から尿を採取し、尿中のネオニコチノイドおよびその代謝物を測定することで、曝露評価を行う事を目的とした。当該調査では、松枯れ防止事業に用いる薬剤(エコワン3フロワブル、主要成分:Thiacloprid)の散布時期の前後に、46人の幼児から提供された尿試料中のネオニコチノイドとその代謝産物を測定した。また、同時に大気サンプルもエアーサンプラーを用いて採取し、分析に供した。分析した結果、Thiaclopridは検出頻度が30%程度であり、濃度は<LOD ~ 0.13 µg/Lであった。この頻度と濃度は、Dinotefuran(頻度、48~56%;濃度、<LOD ~ 72 µg/L)やN-dm-Acetamiprid(頻度、83~94%;濃度<LOD~18.7 µg/L)など今回検出された他のネオニコチノイドに比べて低い値であった。次に、尿中濃度からThiaclopridの曝露量を推定した結果、幼児一人当たり最大で1720 ng/日(平均160 ng/日)と計算された。また、分析対象とした全ネオニコチノイドの曝露量は最大640 µg/日であり、中でもDinotefuranの曝露量は最大450 µg/dayに達した。一方、これらの曝露量はADIに比べThiaclopridで1%未満(ADI;180 µg/日)、Dinotefuranで10%程度(ADI;3300 µg/日)であった。
著者
小山 洋 鬼頭 英明 佐藤 雅彦 遠山 千春
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.547-555, 2002-09-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
69
被引用文献数
10 12

We reviewed studies on genotoxicity and carcinogenicity of cadmium (Cd). Salmonella typhimurium and Escherichia coli exposed to Cd did not show mutagenicity, whereas cultured mammalian cells exposed to Cd showed mutation, DNA strand breaks, and chromosomal aberrations. Carcinogenicity tests showed that exposure to Cd increased the occurrence of tumors in testis, lung, prostate, hematopoietic tissues, and injection sites. On the other hand, recent epidemiologic studies are not supportive of earlier observations on the association between Cd and prostate cancer. The US NIOSH data on a possible association between Cd and lung cancer may need reevaluation. No studies which show a positive relationship between oral Cd exposure and carcinogenesis have been reported. All available data suggest that Cd should be reassigned to IARC Group 2A (probably carcinogenic to humans) from the current Group 1.
著者
遠山 千春
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.423, 2007 (Released:2007-06-23)

1990年代はじめに米国においてダイオキシンの職業曝露により耐糖能低下の報告がなされ、その後、ダイオキシン曝露と糖尿病発症との関係を示唆する疫学調査が報告された。それらは、ベトナム戦争における枯葉剤散布(Ranch Hand)作戦に関わった退役軍人を対象としたコホート、工場における職業性曝露集団、イタリア・セベソにおける一般住民コホート、廃棄物汚染地区近隣の住民に関する研究である。 In vivo実験研究では、2,3,7,8-四塩素化ジベンゾ-p-ジオキシン(TCDD)による消耗性症候群の発症条件下において、小腸におけるグルコースのトランスポーター発現上昇(SLGT1及びGLUT2)と血糖値の上昇、あるいは妊娠ラットへのTCDD曝露における胎仔死亡と胎盤におけるGLUT3発現異常が報告された。また、TCDDの低用量曝露を受けたモルモットで、脂肪組織や膵臓へのグルコース取り込みが用量依存的に減少すること、ならびに脂肪細胞(3T3-L1)ではGLUT4による糖の細胞内輸送がTCDDにより抑制されることが報告されている。また、2型糖尿病患者の膵島では、ダイオキシン受容体AhRとヘテロダイマーを形成するARNTの発現レベルの顕著に低下すること、ならびにβ細胞特異的ARNTノックアウトマウスではインスリン分泌能阻害や耐糖能異常が示されている。 他方、妊娠マウス(C57BL/6系)にTCDDを一回経口投与し、生まれた仔を通常食または高カロリー食で飼育した場合、生後26週目までの間に、TCDDによる耐糖能やインスリン分泌能への影響は観察されていない。 本講演では、これらの知見を元にダイオキシンと糖尿病発症との関係を考察する。
著者
小山 洋 佐藤 雅彦 遠山 千春
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.624-635, 2003-01-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
90
被引用文献数
2 1

As the last manuscript in our series of review articles on cadmium (Cd) and health effects, we reviewed research articles on epidemiologic and experimental studies on exposure levels of Cd in occupational and environmental settings in various countries, disposition and body burden of Cd, critical concentrations of Cd in the kidney of humans and animals with a focus on biomarkers for renal dysfunction, and life expectancy in Cd-polluted areas and reference areas. After this manuscript was compiled, cadmium levels in rice crops received significant attention, since the risk assessment of cadmium is now under review and discussion by the Joint Expert Committee of Food Additives and Contaminants organized by the Food Agricultural Organization and World Health Organization in 2003. We hope that the information compiled in this review may provide directions for future studies on the health risk assessment of Cd.