著者
水川 葉月 池中 良徳 筧 麻友 中山 翔太 石塚 真由美
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.257-263, 2017 (Released:2017-03-01)
参考文献数
17
被引用文献数
3

The ability to metabolize xenobiotics in organisms has a wide degree of variation among organisms. This is caused by differences in the pattern of xenobiotic bioaccumulation among organisms, which affects their tolerance. It has been reported in the veterinary field that glucuronidation (UGT) activity in cats, acetylation activity in dogs and sulfation (SULT) activity in pigs are sub-vital in these species, respectively, and require close attention when prescribing the medicine. On the other hand, information about species differences in xenobiotics metabolism remains insufficient, especially in non-experimental animals. In the present study, we tried to elucidate xenobiotic metabolism ability, especially in phase II UGT conjugation of various non-experimental animals, by using newly constructed in vivo, in vitro and genomic techniques. The results indicated that marine mammals (Steller sea lion, northern fur seal, and Caspian seal) showed UGT activity as low as that in cats, which was significantly lower than in rats and dogs. Furthermore, UGT1A6 pseudogenes were found in the Steller sea lion and Northern fur seal; all Otariidae species are thought to have the UGT1A6 pseudogene as well. Environmental pollutants and drugs conjugated by UGT are increasing dramatically in the modern world, and their dispersal into the environment can be of great consequence to Carnivora species, whose low xenobiotic glucuronidation capacity makes them highly sensitive to these compounds.
著者
池中 良徳 宮原 裕一 一瀬 貴大 八木橋 美緒 中山 翔太 水川 葉月 平 久美子 有薗 幸司 高橋 圭介 加藤 恵介 遠山 千春 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-20, 2017 (Released:2018-03-29)

ネオニコチノイド系殺虫剤は、哺乳類における体内蓄積性は短く、昆虫とヒトのニコチン受容体に対する親和性の違いから、ヒトに対する毒性は相対的に低いため、一定の基準以下であれば、日常生活においてその毒性は無視できると考えられている。しかし、日本では諸外国と比べ数倍~数十倍と果物や野菜、茶葉における食品残留基準値が高く設定されていること、また、記憶・学習などの脳機能に及ぼす影響をはじめ、発達神経毒性には不明な点が多いことなどから、健康に及ぼす懸念が払拭できていない。とりわけ、感受性が高いこどもたちや化学物質に過敏な人々の健康へのリスクを評価するためには、ネオニコチノイドが体内にどの程度取り込まれているかを把握することがまず必要である。そこで本調査では、長野県上田市の松くい虫防除が行われている地域の住民のうち、感受性が高いと考えられる小児(3歳~6歳)から尿を採取し、尿中のネオニコチノイドおよびその代謝物を測定することで、曝露評価を行う事を目的とした。当該調査では、松枯れ防止事業に用いる薬剤(エコワン3フロワブル、主要成分:Thiacloprid)の散布時期の前後に、46人の幼児から提供された尿試料中のネオニコチノイドとその代謝産物を測定した。また、同時に大気サンプルもエアーサンプラーを用いて採取し、分析に供した。分析した結果、Thiaclopridは検出頻度が30%程度であり、濃度は<LOD ~ 0.13 µg/Lであった。この頻度と濃度は、Dinotefuran(頻度、48~56%;濃度、<LOD ~ 72 µg/L)やN-dm-Acetamiprid(頻度、83~94%;濃度<LOD~18.7 µg/L)など今回検出された他のネオニコチノイドに比べて低い値であった。次に、尿中濃度からThiaclopridの曝露量を推定した結果、幼児一人当たり最大で1720 ng/日(平均160 ng/日)と計算された。また、分析対象とした全ネオニコチノイドの曝露量は最大640 µg/日であり、中でもDinotefuranの曝露量は最大450 µg/dayに達した。一方、これらの曝露量はADIに比べThiaclopridで1%未満(ADI;180 µg/日)、Dinotefuranで10%程度(ADI;3300 µg/日)であった。
著者
池中 良徳 水川 葉月 中山 翔太
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

当該研究では、比較生物学・系統解析により、脊椎動物におけるグルクロン酸抱合酵素(UGT)の種差を明らかにする事で、その生体内での役割と分子メカニズムについて解明することを試みた。その結果、UGT1A6活性が低いと報告されていたネコ以外にも、鰭脚類で極めてその活性が低い事が明らかになった。更に、ネコやアザラシではUGT1Aに加えUGT2B活性が低く、偽遺伝子化している事が示唆された。この結果から、グルクロン酸抱合は哺乳動物にとって極めて重要な解毒反応であると共に、欠損している動物では化学物質にとってのハイリスクアニマルであることが示唆された。
著者
水川 葉月 前原 美咲 横山 望 市居 修 滝口 満喜 野見山 桂 西川 博之 池中 良徳 中山 翔太 高口 倖暉 田辺 信介 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-6, 2016

ポリ塩化ビフェニル(PCBs)の水酸化代謝物であるOH-PCBsは、肝臓内で薬物代謝酵素より生成され、その後体外へ排泄される。しかしながら、一部の水酸化代謝物は甲状腺ホルモン(TH)と類似の構造をもつため、THの恒常性を撹乱することが危惧されている。これまでに、多様な陸棲哺乳類の血中OH-PCBsを分析したところ、種間でOH-PCBsの組成に差異が認められ、中でも、ネコのOH-PCBs残留パターンは他種と大きく異なることから、本種は特異な代謝機能を有することが示唆された。しかし、ネコの異物代謝能の研究は僅かであり、化学物質暴露による毒性影響も不明な点が多い。本研究では、ネコにおけるPCBs <i>in vivo</i>暴露試験を実施し、体内動態および代謝に関与する酵素活性や遺伝子を解析するとともに、化学物質の暴露評価に繋がる基盤的情報の収集を目的とした。<br>コーン油に溶解した12異性体のPCBsを腹腔内投与し、経時採血した血清中PCBsおよびOH-PCBs濃度について同条件で実施したイヌの<i>in vivo</i>試験と比較した結果、異性体の残留パターンや体内動態にイヌとネコで種差が観察された。とくにネコでは低塩素化体の残留が顕著であった。また、代謝酵素活性および遺伝子解析の結果、PCBs暴露によりEROD、MROD、PROD活性は上昇するものの、第2相抱合酵素(UGTやSULT)活性は変化せず、PCBs暴露による抱合酵素活性への影響もみられなかった。また、<i>CYP1A1</i>および<i>CYP1A2</i>遺伝子の発現量の上昇も認められた。<br> 本研究により、ネコのPCBs吸収・代謝・排泄能はイヌと異なることが示唆され、とくに低塩素化OH-PCBsの毒性リスクは高いことが予想された。低塩素化OH-PCBsは血中でTH輸送タンパクとの競合結合や、THの硫酸抱合排泄の阻害、TH起因性遺伝子の転写抑制などが報告されており、ネコの甲状腺機能障害が懸念される。
著者
内田 雅也 石橋 弘志 平野 将司 水川 葉月
出版者
有明工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

近年、分子内にフッ素原子・官能基が導入されたフッ素系農薬が盛んに研究開発され、殺虫剤の開発品の70%以上が「新世代の殺虫剤」と呼ばれる「フッ素系殺虫剤」である。フッ素系殺虫剤は、使用量も年々増加しており、おもに河川等を通じて海洋に流出し、海洋生態系への影響が懸念されるが、淡水生物を用いた影響評価しか実施されてなく、海産生物での影響評価例は少ないことから海域における環境リスクは不明である。本申請課題ではフッ素系殺虫剤の海域におけるモニタリング、海産甲殻類アミを用いた生態毒性試験およびトランスクリプトーム解析を実施し、海域におけるフッ素系殺虫剤の汚染実態と環境リスク評価を実施する。
著者
近藤 誉充 池中 良徳 中山 翔太 水川 葉月 三谷 曜子 野見山 桂 田辺 信介 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.P-60, 2018

<p>アザラシやネコ科を含む食肉目動物は生態系高次栄養段階に位置し、食物連鎖を介した生物濃縮により残留性の高い有機化合物が高濃度で生体内に蓄積している。化学物質代謝酵素はこれら化学物質の解毒を担う酵素である。その中でも特に第II相抱合酵素はCytochrome P450等の代謝を受けた化学物質をさらに代謝する酵素であり、発がん性物質を含む多くの化学物質がP450の代謝を受けた後に代謝的活性化を示すため、第II相酵素は特に解毒に重要な酵素である。しかし多くの食肉目動物で第II相抱合酵素の情報は皆無であり、特に基本的情報である遺伝的性状や酵素活性の種差の情報が欠如している。そこで本研究は主要な第II相抱合酵素であるグルクロン酸転移酵素(UGT)および硫酸転移酵素(SULT)の遺伝子性状およびin vitro酵素活性の解明を目的とした。遺伝的性状解析では遺伝子データベースやシークエンス解析による遺伝子情報から系統解析、および遺伝子コード領域の種差を解明した。In vitro活性解析ではネコ、イヌ、ラット、および鰭脚類(カスピカイアザラシ、ゼニガタアザラシ、トド、キタオットセイ)の肝ミクロソームおよびサイトゾルを用いて種々の分子種特異的な基質(Lorazepam:UGT2B分子種, Estradiol:SULT1E1等)に対する酵素活性を測定した。UGTに関して、系統解析の結果から食肉目で特に重要と推定される2B31分子種の存在が明らかとなった。また、食肉目の中でもイヌでは3つのUGT2B31を持つのに対して、ネコ科動物では2B分子種が存在せず、鰭脚類でも1つの分子種しか持たないことが明らかとなった。さらにin vitro活性もイヌと比較してネコ及びアザラシ科で非常に低い活性が確認された。SULTに関しては、鰭脚類でエストロゲン代謝に重要なSULT1E1分子種が遺伝的に欠損しており、in vitro活性も低いことが解明された。これらの結果から食肉目動物の中でもとくに鰭脚類やネコ科動物では第II相抱合酵素による解毒能が弱く、種々の化学物質に対して感受性が強い可能性が示唆された。</p>
著者
中田 北斗 中山 翔太 水川 葉月 池中 良徳 石井 千尋 Yared B. YOHANNES 今内 覚 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-187, 2014

ケニア共和国の首都ナイロビ市内の大規模ゴミ集積場・ダンドラ地域は、世界第二位の巨大・高密度スラム街であり、地域内の子供の半数はWHO基準(100 μg/kg)以上の血中Pb濃度であることが報告されているが、家畜の汚染や生体への曝露源に関する報告はない。本研究では、ダンドラおよび対照区として同国・ナクル地域に生息するヤギ、ヒツジ、ブタおよびウシの血中金属類(10元素)濃度およびPb安定同位体比をICP-MSにより、PCBsおよび有機塩素系農薬(OCPs)濃度をGC-MSとGC-ECDにより測定した。<br> その結果、全てのサンプルでCr, Mn, Ni, Cu, Zn, As, Mo, Agの高濃度蓄積は認められず、PCBsおよびOCPsは検出限界以下であった。Pb濃度はナクルに比べてダンドラで高い蓄積傾向を示し、ヤギおよびヒツジでは有意差が認められた。ブタの平均Pb濃度はダンドラ(2600 μg/kg, dry wt:dw)がナクル(73 μg/kg, dw)の約35倍の高値を示した。ダンドラのウシからは、ヘム合成に関与するアミノレブリン酸脱水酵素活性が低下するとされる値(100μg/kg)と同程度のPb濃度(91 μg/kg以上)が検出され、血液毒性等の中毒症状の蔓延が示唆された。Cd濃度の地域差および種差は認められなかったが、総じて高値(570±460 ng/kg, dw)を示し、ウシの摂食によるヒトのCd曝露が示唆された。Pb安定同位体比は地域および動物種により異なる傾向を示し、地域内に複数の曝露源があること、動物種により主要な曝露源が異なることが示唆された。<br> 本研究より、両地域に生息する家畜には高濃度のPb, Cdが蓄積し、特にPb汚染はダンドラで深刻なレベルであり、その曝露源が複数存在することが示唆された。家畜と生活環境を共にするヒトへの同様の汚染も強く示唆された。
著者
筧 麻友 中山 翔太 水川 葉月 池中 良徳 渡邊 研右 坂本 健太郎 和田 昭彦 服部 薫 田辺 信介 野見山 桂 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-78, 2014

【目的】グルクロン酸抱合酵素(UGT)は、生体外異物代謝の第Ⅱ相抱合反応を担い、各動物の化学物質感受性決定に関与することが報告されている。食肉目ネコ亜目(Feliformia)では環境化学物質や薬物等の代謝に関与するUGT1A6の偽遺伝子化が報告されており、この偽遺伝子化に伴いアセトアミノフェン等の薬物の毒性作用が強いことが知られている。一方、食肉目に属する鰭脚類(Pinnipedia)では、環境化学物質の高濃度蓄積が報告されているが、感受性に関与するUGTについての研究はほとんど行われていない。そこで、鰭脚類を中心とした食肉目において、肝臓でのUGT活性の測定と系統解析を行った。<br>【方法】食肉目に属するネコ(<i>Felis catus</i>)、イヌ(<i>Canis familiaris</i>)、鰭脚類であるトド(<i>Eumetopias jubatus</i>)、キタオットセイ(<i>Callorhinus ursinus</i>)、カスピカイアザラシ(<i>Phoca caspica</i>)及び対照としてラット(<i>Rattus norvegicus</i>)の肝臓ミクロソームを作成し、1-ヒドロキシピレン(UGT1A6、UGT1A7、UGT1A9)、アセトアミノフェン(UGT1A1、UGT1A6、UGT1A9)、セロトニン(UGT1A6)を基質としてUGT活性を測定した。また、NCBIのデータベースからUGT1A領域の系統解析およびシンテニー解析を行った。<br>【結果及び考察】1-ヒドロキシピレン、アセトアミノフェン、セロトニンに対するUGT抱合活性を測定した結果、ラットに比べ食肉目では極めて低い活性を示した。また、系統解析及びシンテニー解析より、解析した全ての食肉目において、UGT1A分子種は特徴的な2遺伝子であるUSP40 とMROH2の間に保存されていることが明らかになった。さらに、食肉目は齧歯目に比べUGT1A領域が短く、UGT1A分子種数が少ないことが確認された。以上の結果から、鰭脚類を含めた食肉目はUGTによる異物代謝能が低く、環境化学物質に対する感受性が高い可能性が考えられた。