著者
遠藤 久夫
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.4-21, 2005-06-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
39
被引用文献数
1

医療は市場の失敗のケースであるとともにアクセスの公平性という社会規範が強いため,医療システムの行動原理を完全に市場原理に委ねることはできない.その意味で医療には様々な規制が課せられている.最近,この規制を緩和して,医療運営の軸足を市場原理にシフトさせることで医療のコストパフォーマンスが向上するという意見が台頭してきている.本稿では,医療に対する規制の根拠を示し,その上で規制緩和論の是非を検討する.とりわけ規制緩和論の中で関心を呼んでいる混合診療の解禁と株式会社の病院経営については,実証的な視点からの考察を行い,妥当性を吟味する.
著者
遠藤 久夫
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.11-30, 2021-07-08 (Released:2021-07-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1

患者に医療費の自己負担を課すことの主な目的は以下の三つである。1)医療資源を過剰に利用するモラル・ハザードの回避2)医療費の財源を公費や保険料から患者負担にシフトさせるコスト・シフティング3)過度の大病院志向などの不適切な患者の受療行動の適正化わが国の公的医療保険制度では,「法定自己負担率」と「高額療養費制度」により患者の医療費自己負担額をコントロールしている。高額療養費制度とは,患者の自己負担の上限を定めたもので,この制度により患者は高いコストの医療を受けることが可能になり,医療費の支払いにおけるセーフティネットだと言える。医療費は増加し続けているが,医療保険財政は悪化しているため,患者の法定自己負担率は引き上げられてきている。その結果,自己負担額が上限額に達するケースが増え,高額療養費が増加している。医療費に占める高額療養費の割合は2002年の3.2%から2017年には6.4%に上昇している。高額療養費増が増加しているため,公的自己負担率は上昇傾向にあるにもかかわらず,実効自己負担率は低下している。具体的には,2003年の実効自己負担率は74歳以下が22.7%,75歳以上が8.8%であったものが,2017年にはそれぞれ,19.7%,8.0%に低下している。実効自己負担率を外来と入院で比較すると,2017年では外来18.3%,入院6.6%と入院の実効自己負担率が非常に小さい。これは,入院は医療費の額が大きいため高額療養費の支出が大きいためである。75歳以上の患者の法定自己負担は原則1割である。これに対して,高齢者は,医療費に対する保険料や自己負担の割合が,若い世代と比較して低すぎるので,高齢者の自己負担を引き上げるべきという意見が台頭してきた。それに対して,高齢者は所得が少なく医療費が多いので,所得に占める医療費の自己負担の割合が若い世代より高い。したがって,高齢者の医療へのアクセスを担保するためには1割のままでよいという意見が対立した。議論はなかなか決着がつかなかったが,2020年になって,「年収約200万円以上の75歳以上の高齢者は2割負担」にすることが政治決着した。今後も,患者の医療費の自己負担を増加させようという圧力が高まっていくことは間違いない。その中で,高齢者の法定自己負担率のさらなる引き上げと高額療養費制度の見直しがポイントになるだろう。
著者
遠藤 久夫
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.7-19, 1999-03-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
15

マネジドケアの統一した定義は存在しないが,基本的な構造は次の通りである。1)医師-保険者関係:[1] 医療の標準化とモニタリングとインセンティブによる医療への介入,[2]医師・病院のネットワーク化,2)患者-保険者関係:[1] 患者の医療機関選択の制限,[2]患者(保険加入者)の組織化。マネジドケアとは,これらの仕掛けを通じて,医療システムに見られる2種類の非効率性([1]医療需要が社会的に過剰になる非効率,[2] 医療資源を空間的,時間的に最適配分できない非効率)を改善させる制度的イノベーションである。アメリカのマネジドケアのパフォーマンスを見ると,[1] 入院率の低下,[2] 入院期間の低下,[3] 高額な治療や検査の抑制,[4] 予防サービスの増加,[5] 医療の質に対する満足度の低下,[6] 費用に対する満足度の増加,という傾向が見られる。一方,[1] 医療の質の低下,[2] 高リスク者の排除,[3] 良好な医師-患者関係の崩壊という問題点も指摘されている。マネジドケアの概念と手法をわが国の公的医療保険制度に導入することを考える際,[1] エビデンス・べースの標準化を行うための診療情報とコスト情報を有機的に結ぶ情報インフラの整備[2]「標準」のコンセンサス形成のためのシステム作り,[3] 保険者が患者の利益の代理人として行動するための制度的担保の確立,が必要である。これらの課題が解決されないまま拙速な導入が行われれば,マネジドケアの副作用の方が主作用を上回ることも懸念される。