著者
浅川 康吉 遠藤 文雄 黒澤 光義
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101338-48101338, 2013

【はじめに、目的】介護予防事業の効果として医療費の伸びの抑制が期待されている。本研究の目的は運動器の機能向上プログラムを中心にした事業における参加者の医療費の変化を、非参加者との比較を通じて明らかにすることである。【方法】群馬県藤岡市は介護予防一般高齢者(一次予防)事業として住民主導型介護予防事業「鬼石モデル」を実施している。「鬼石モデル」は住民が自主グループ活動として公民館等で週に1回、1回1時間弱の「暮らしを拡げる10の筋力トレーニング」に取り組む事業である。本研究のフィールドは平成19年度から平成20年度にかけて事業に参加した同市内の4つの行政区で、対象者は65歳以上の事業参加者70名(鬼石モデル参加群)と、行政区、年齢、性別をマッチさせて選んだ住民140名(対照群)の計210名とした。いずれも国民健康保険、老人医療保険(平成18年度)、後期高齢者医療保険(平成20年度)の加入者で、医療費は事業参加前年度にあたる平成18年度分と事業参加期間の後半にあたる平成20年度分について医科、柔整、歯科、調剤の4項目の合計金額を算出した。分析は以下の通り行った。鬼石モデル参加者と対照群それぞれについて前期高齢者(65歳から74歳まで)と後期高齢者(75歳以上)を区分し4群を構成し、一人あたり医療費として平成18年度分と平成20年度分の単純平均を算出し、金額の変化を明らかにした。その後、医療費のヒストグラムを参考にして医療費25万円以下の低位グループ、25万円超から50万円以下の中位グループ、50万円超の高位グループの3グループを分類し、4群それぞれについて平成18年度医療費と平成20年度医療費を比較した。統計学的解析にはχ²独立性の検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。鬼石モデル参加者については口頭による説明を行い、口頭による同意を得た。対照群については本研究者らが個人情報に接することがないように藤岡市から連結不可能匿名化されたデータの提供を受けた。【結果】一人あたり医療費は前期高齢者・鬼石モデル参加群(n=35、年齢71.3±2.3歳)では平成18年度は281,170円、平成20年度は359,526円であった。前期高齢者・対照群(n=68、年齢71.3±2.3歳)ではそれぞれ271,925円、370,836円であった。後期期高齢者・鬼石モデル参加群(n=35、年齢78.5±3.6歳)では平成18年度は453,246円、平成20年度は414,775円であった。後期期高齢者・対照群(n=72、年齢78.4±3.4歳)ではそれぞれ482,579円、500,136円であった。χ²独立性の検定は4群すべてで有意であった(p<0.01)。各群のヒストグラムと調整済み残差を踏まえて医療費の変化を分析したところ、前期高齢者に関しては、対照群では医療費低位グループと高位グループにおいてそれを維持する者が多く、医療費高位グループから低位グループへと変化する者が少なかった。これに対して、鬼石モデル参加群では医療費低位グループと中位グループを維持する者が多くみられた。後期高齢者に関しては、対照群と鬼石モデル参加群ともに医療費低位グループと高位グループにおいてそれを維持する者が多くみられたが、両群を比較すると、低位グループでは医療費増加の者が対照群に多く、高位グループでは医療費維持・減少の者が鬼石モデル参加群に多い傾向がみられた。【考察】行政の視点からみた地域の医療費は住民数×一人あたり医療費であり、一人あたり医療費は介護予防事業の効果をみるための重要な指標である。本研究の結果は、「鬼石モデル」が一人あたり医療費の伸びを抑制することを示し、特に後期高齢者についてはその効果が高いことを示した。その背景には、前期高齢者では、医療費50万円以内の者に対する医療費維持の効果があり、後期高齢者では医療費25万円以内の者に対する医療費維持の効果があると考えられる。後期高齢者では50万円超の者における医療費の維持・減少効果もあると思われ、一人あたり医療費の伸びの抑制が顕著に表れたと考えられる。本研究ではデータ収集時の制約から運動機能データを得ることができなかった。このため運動機能の変化が医療費にどのように影響するかは検討できなかった。この点は今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】介護予防事業が医療費に与える影響を具体的に示した研究は少ない。本研究は、理学療法士が関わる介護予防事業によって医療費の伸びが抑制できる可能性を示した点で意義が高い。
著者
山路 雄彦 渡邉 純 浅川 康吉 臼田 滋 遠藤 文雄 坂本 雅昭 内山 靖
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.G0540, 2005

【目的】<BR>2002年度より理学療法における客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination)(以下、理学療法版OSCE)を開発・実施し、その有用性を報告してきた。理学療法版OSCEは評価を中心としたものであるが、運動療法、物理療法、ADL指導など治療を含めた内容でのOSCEも必要である。本研究では、治療場面を含めた理学療法版advanced OSCEの基本的構築および学外評価者の試行の妥当性を検討することを目的とする。<BR>【方法】<BR>課題は大腿骨頸部骨折と左片麻痺を有する対象者の4課題とした。課題1は徒手筋力テストと筋力増強運動、課題2はトランスファーと物理療法、課題3は立位評価と平行棒内歩行練習、課題4はトランスファーと更衣動作(上衣)として、評価と治療を組み合わせて構成した。評価者は学内評価者(本専攻教員)8名と学外評価者(本学以外養成校の教員)3名、模擬患者は4名で実施した。学外評価者3名は、ステーション1、ステーション3、ステーション4に配置し、学内評価者と共に同一学生を評価した。対象は、総合臨床実習直前の本専攻4年生23名とし、平成15年7月24日に実施した。運営はマニュアルを用いて行った。なお、学外評価者とは事前の打ち合わせは行わず、当日にマニュアルを配布して簡単な説明を実施して試験に加わった。平均点、課題別一致率、同一ステーション・同一課題における一致率を算出し比較、検討を行った。<BR>【結果および考察】<BR>総合点の平均は、400点満点中300.7点であり、評価を中心とした前年度の313.7点と有意な差は認めなかった。課題別一致率は、課題1:66.6%、課題2:55.7%、課題3:60.9%、課題4:60.2%であった。同一ステーション・同一課題別一致率では3ステーション4課題で59.0%、52.0%、54.9%、55.6%であった。これは理学療法版advanced OSCEの難易度は従来のものと変わらないものの、評価者個人の治療感の相違から評価が一致しない可能性が高いことによるものと考えられる。今後、評価基準の見直しとともに個々の治療感の相違を緩衝することが必要であると考える。また、同一ステーション・同一課題別一致率では学外評価者の配置された3ステーション中2ステーションで、学内評価者、学外評価者に有意な差を認めなかった。このことは、理学療法版advanced OSCEにおいても準備を整えれば学外の複数の評価者でも学生を客観的に評価することができることを示唆していた。
著者
浅川 康吉 遠藤 文雄 山口 晴保 岩本 光一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1129-E1129, 2006

【目的】デイサービス施設は通所リハビリテーション施設のひとつとして介護予防機能を担っている。本研究の目的はデイサービス利用者への簡易運動プログラム提供が利用者の要介護度の維持あるいは改善に与える効果を明らかにすることである。<BR>【対象】群馬県鬼石町デイサービスセンター利用者のうち、簡易運動プログラム参加のためのコミュニケーション能力などを勘案して34名に本研究への参加を呼びかけた。このうちデイサービス利用時にほぼ毎回簡易運動プログラムに参加した者22名を簡易運動プログラム参加群、中断あるいはほとんど参加しなかった者12名を対照群とした。中断や不参加の理由が明確な者は5名で認知症の悪化などであった。簡易運動プログラム参加群の構成は男3名、女19名で、研究開始時における年齢は84.4±8.0歳であった。対照群は男4名、女8名で、年齢は86.3±7.1歳であった。要介護となった主要な原因疾患は両群ともに運動器疾患がおよそ半数を占め、他に脳梗塞や認知症が多くみられた。<BR>【方法】平成14年7月から平成16年5月までの約2年間にわたりデイサービス利用時に簡易運動プログラムを提供した。簡易運動プログラムの内容は坐位での膝伸展と上肢挙上および立位での足底屈(背伸び)と股外転の4つの種目を15分程度かけて行うものであった。運動指導はデイサービススタッフが行い、運動が困難な参加者には適宜介助を行った。簡易運動プログラム提供の効果は提供開始時(平成14年7月)と提供終了時(平成16年5月)との2時点間における要介護度の変化により判定した。統計学的検定にはカイ二乗検定を用い、有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】簡易運動プログラム参加群における提供開始時の要介護度は要支援が8名、要介護度1が11名、要介護2が3名であり、提供終了時はそれぞれ5名、15名、2名であった。要介護度が維持あるいは改善できた者は18名で、悪化は4名であった。対照群における提供開始時の要介護度は要支援が4名、要介護度1が3名、要介護2が2名、要介護3と4が計3名であり、提供終了時には要支援はゼロ、要介護1が5名、要介護2が2名、要介護3と4が計5名であった。要介護度が維持あるいは改善できた者は4名で、悪化は8名であった。カイ二乗検定の結果、運動プログラム参加群は対照群に比べて維持あるいは改善された者が有意に多かった(P=0.01)。<BR>【まとめ】デイサービス利用者に簡易運動プログラムを提供することは、利用者の要介護度を維持あるいは改善する効果があると考えられる。