著者
三井 誠 大澤 裕 酒巻 匡 長沼 範良 井上 正仁 松尾 浩也
出版者
神戸大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本研究の目的は、犯罪の捜査および立証の両面における科学技術の利用の実態を明らかにするとともに、比較法的・理論的分析を踏まえて、その適正な限界や条件を検討し、刑事訴訟法上の解釈論的・立法論的提言をおこなおうとするものである。3年間の研究期間を終了し、本年度においては、以下のような成果を得ることができた。1.2回の研究会を開催し、研究分担者が検討中のテーマならびに既に論文を執筆ないし公刊したテーマにつき、報告を行い、全員で討議した。 従前の研究状況を総賢して、刑事手続法上の問題点を抽出して検討を加えた個別テーマとして、次のものがある。「毛髪鑑定とその証拠能力」「強制的な体液の採取に附随する刑事手続法上の問題点」「筆跡鑑定とその証拠能力」「検証としての写真撮影とこれに対する不服申立の可否」「情報の押収」2.内外の関係文献・識料の収集・整理の作業を継続した。内外ともに関係資料・論文の増加が著しいため、文献目録の追補・改訂作業を開始し、進行中である。3.各研究分担者が、担当テーマにつき研究論文を執筆ないし執筆準備作業中である。主要なテーマについては、既に公刊されたものも含め、平成5年度中に発表(大学紀要・法律雑誌等)が完了する予定である。4.研究進行中の最大の問題は、進歩の著しい科学的捜査・立証手段それじたいの正確な理解を得ることに相当の時間を必要とする点であった(例えばDNAによる個人識別法の原理と手法)。現在までの具体的成果は、主として個別的な捜査・立証手段の問題点の分析となっているが、今後は、それらに共通する法律上の問題点の抽出と統一的な視角からの分伏が課題となると思われる。
著者
塩見 淳 中森 喜彦 酒巻 匡 高山 佳奈子 安田 拓人 堀江 慎司 塩見 淳 中森 喜彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

組織犯罪の刑事的規制に特殊な配慮が必要であるとしても、伝統的な刑法の枠組を越えて犯罪の成立を早期化したり、国際協調の名の下に国内の人権保障の水準を切り下げたりするのは大きな問題であり、また、犯罪収益の剥奪といっても無原則に行われるべきではない。組織犯罪を捜査、起訴、審理する際の手続についても、制度趣旨等の根本理解に立ち返って慎重にその内容を確定すべきである。これらのことが明らかになった。
著者
三井 誠 酒巻 匡 橋爪 隆 上嶌 一高
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本件研究の目的は、組織的犯罪対策に関する諸問題について、刑事実体法的観点、手続法的観点から包括的な考察を加えつつ、望ましい対策のありかたを提唱する点にあった。とりわけ平成一一年八月に、いわゆる組織犯罪対策関連三法が国会で成立したのを受けて、従来の法制度と改正法制度との比較分析、組織犯罪対策関連三法案の立法過程の調査・分析、ドイツ法・アメリカ法をはじめとする諸外国の法制度との比較法的研究など、多角的な視点のもと、分析作業を進めた。その具体的な内容としては、(1)「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」の規定と、憲法が要請している令状主義と適正手続保障との関連についての研究、(2)いわゆるロッキード事件に関する最高裁判例における刑事免責に関する判断の趣旨・射程範囲の分析、(3)刑事免責制度の導入の可能性に関する立法論・比較法的考察、(4)マネー・ロンダリング処罰を拡大することに関する理論的問題点の検討、(5)組織犯罪における刑の加重と違法要素・責任要素への関連づけの検討、(6)ドイツにおける最近の財産刑制度に関する議論の状況などの諸点である。さらに、刑事実体法的かつ刑事学的関心から、暴力団構成員を中心とする近時の執行妨害事犯の現況に関する調査を行いつつ、競売入札妨害罪をめぐる最近の最高裁判例の当否についても分析を加えることができた。結論として、組織犯罪対策関連三法は基本的に適切な方向にあることが確認されたが、対策として不十分な点や、理論的な正当化が不十分な点など、なお問題点が残されている。もっとも、これらの研究は基礎理論的な考察に多くを費やしたこともあり、その具体的な諸問題への適用については、その研究成果はなお不十分なものである。今後は、具体的な法運用までを視野に入れつつ、さらに継続的に研究を進める必要が残されている。
著者
三井 誠 大澤 裕 田中 開 酒巻 匡 長沼 範良 井上 正仁
出版者
神戸大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

本研究は「1984年警察・刑事証拠法」および「1985年犯罪訴追法」の制定によってもたらされた、イギリスにおける刑事司法制度の大改革の全体像を分析するものである。両法典の制定前の状況、法改革の提言、圧力団体の動向、イギリス議会・委員会での審議過程、法律制定後の実務上の変化などの調査結果は、わが国刑事司法のあり方を再考するための重要な素材となろう。1.第1年度には、両法典を翻訳したうえこれを出版するとともに、上記の関連基礎資料・文献の収集・分析をひとわたり終えることができた。2.第2年度には、前年度の基礎作業をふまえて、両法典を6分野に別けて各担当者を定め、各担当者が、担当部分について従前の法と実務法改革の提案、同辺圧力団体・マスコミの動向、1984年法律審議過程と法律成文との関係、法律制定後の実務の様相、新しい判例の動きをふまえたうえで、その調査・分析結果を報告し、それを素材に全員で討議するという方法を数回繰り返した。3.また、両法典成立後、「刑事裁判法」の全面改正はじめ、いぜん刑事司法をめぐるイギリスの状況は流動的であるので、英国の諸機関や滞英中の研究者をとおして最新情報を逐次入手した。4.報告と全体討議が終了した部分については、担当者が論文を作成し、順次、法律雑誌『ジュリスト』に提起連載の形式で発表することとし、937号(1989年7月1日号)より隔号に連載予定である。5.わが国刑事司法制度への影響についてはなお検討を要するが、イギリスにおける捜査、訴追活動の改革は質量ともに重要な意義を有するだけに、日本刑事司法の改善に、制度面でも運用面でも、いくつかの貴重な示唆を与えるであろうことは疑いないといえる。