- 著者
-
笹月 健彦
石川 冬木
野田 哲生
鎌滝 哲也
伊東 恭悟
丹羽 太貫
中村 祐輔
- 出版者
- 国立国際医療センター(研究所)
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 1999
本領域は、発がんの分子機構の解明を第一の目標とし、第二に細胞のがん化防御およびがん化した細胞の排除機構の解明を目指し、併せてがん研究の最終目標であるがん克服のための道を拓くことを目的とした。発がんの分子機能の解明のために、研究対象を分子・細胞レベル、臓器・個体レベル、家系・集団レベルにそれぞれ設定し、遺伝子および染色体の構造の安定性と機能発現のダイナミクスに関する恒常性維持機構、内的外的発がん要因によるこれらのゲノム維持機構の破綻と細胞のがん化の関連、新しい発がん関連遺伝子の同定および既知遺伝子も含めたこれら遺伝子群の変異に引き続く多段階発がんの分子細胞生物学的機構、を解明することを目指した。一方、発がん防御の分子機構の解明に当たっては、生体が備え持つ数々の恒常性維持機構によるがん化の防御、免疫系によるがん細胞の排除機構を分子レベルで解明することを目指した。DNA二本鎖切断によるチェックポイントの活性化、二本鎖切断の相同組換え機構と、それらの破綻と発がんの関係が明らかにされた。ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんとの関係が確立され、そのがん化機構の鍵となる分子が発見された。動物個体を用いてのがん関連遺伝子の機能解析により、Wntシグナル、Shhシグナル、PI3-Akt経路といったシグナル伝達系が生体内において果たしている役割と発がんにおけるこれらの活性化の重要性も明らかとなった。胃がん発症に関与する遺伝子の候補領域が同定され、21番染色体候補領域から胃がん感受性遺伝子が同定された。多数の癌関連抗原を同定すると同時に、NK細胞活性制御に関与する分子同定の分野やTヘルパー細胞の癌排除における役割、NK細胞やマクロファージなどの自然免疫系の特異免疫誘導における役割の分子レベルの解明も行われ、これら基礎研究成果の臨床応用のための探索的臨床研究の進展もみられた。