著者
金 光林
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.54, pp.63-70, 2019-10

世界の各国の姓氏について調べてみると、大概は少数の姓氏に人口が集中する現象が見られる。東アジアの場合もこのような現象は明確に現れる。中国おいて人口が少数の有力な姓氏(大姓)への集中する要因は次のように考えられる。(1)まずは、由緒があり、多様であり、広く分布していることに関連がある。(2)大姓は歴史上において国姓であることが多く、国の支配者の姓であるために当該王朝においては勢力を誇り、また王朝の支配者は賜姓という手段を使い、国姓を広めた。(3)門閥氏族制度は有力氏族増加の重要な要因となった。(4)中国の前近代の一夫多妻制により、社会的地位と経済的優越は子孫の生育にも有利に働き、名門氏族の子孫繁盛の土壌を作った。(5)家系を重んじる意識、同姓村落の形成、共同体内部での婚姻などの要因も、社会的に有力な姓氏への偏中を助長したと考えられる。朝鮮(韓国)とベトナムの姓氏における有力な姓氏への集中現象にも中国と近似する要因が見られる。日本の姓氏が中国、朝鮮、ベトナムのように数百程度に集約されず、約30万個もあるといわれるが、これについては次のような要因が考えられる。(1)日本の姓氏は地名、職業名、物象名などに由来したが、その中の多数が地名に由来している。それぞれの地域の多様な地名に由来したために自ずと姓氏の数が多数になったと思われる(2)日本の家族制度は中国、朝鮮、ベトナムの場合に比べて血縁によって続くという意識が濃厚ではなく、そのため姓氏の分化が常に行われ、それが多数の姓氏に発展する素地となった。(3)日本の政治体制が中国、朝鮮、ベトナムのような中央集権型ではなかったので、古代社会の場合を除くと、中央の政治権力による姓氏への影響力(王権により賜姓・改姓)が薄く、これも姓氏が多様化する一因にもなったと考えられる。(4)明治時代に入り、「平民苗字必称義務令」が発布され、江戸時代までに公に苗字(名字)を名乗ることができなかった平民層も苗字を持つことが義務化されたために、極めて短期間に平民たちが馴染みのある地名から多数の苗字を新しく作ったことが日本の姓氏の数を増加させた。
著者
金 光林
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 = Bulletin of Niigata Sangyo University Faculty of Economics (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.54, pp.63-70, 2019-10

世界の各国の姓氏について調べてみると、大概は少数の姓氏に人口が集中する現象が見られる。東アジアの場合もこのような現象は明確に現れる。中国おいて人口が少数の有力な姓氏(大姓)への集中する要因は次のように考えられる。(1)まずは、由緒があり、多様であり、広く分布していることに関連がある。(2)大姓は歴史上において国姓であることが多く、国の支配者の姓であるために当該王朝においては勢力を誇り、また王朝の支配者は賜姓という手段を使い、国姓を広めた。(3)門閥氏族制度は有力氏族増加の重要な要因となった。(4)中国の前近代の一夫多妻制により、社会的地位と経済的優越は子孫の生育にも有利に働き、名門氏族の子孫繁盛の土壌を作った。(5)家系を重んじる意識、同姓村落の形成、共同体内部での婚姻などの要因も、社会的に有力な姓氏への偏中を助長したと考えられる。朝鮮(韓国)とベトナムの姓氏における有力な姓氏への集中現象にも中国と近似する要因が見られる。日本の姓氏が中国、朝鮮、ベトナムのように数百程度に集約されず、約30万個もあるといわれるが、これについては次のような要因が考えられる。(1)日本の姓氏は地名、職業名、物象名などに由来したが、その中の多数が地名に由来している。それぞれの地域の多様な地名に由来したために自ずと姓氏の数が多数になったと思われる(2)日本の家族制度は中国、朝鮮、ベトナムの場合に比べて血縁によって続くという意識が濃厚ではなく、そのため姓氏の分化が常に行われ、それが多数の姓氏に発展する素地となった。(3)日本の政治体制が中国、朝鮮、ベトナムのような中央集権型ではなかったので、古代社会の場合を除くと、中央の政治権力による姓氏への影響力(王権により賜姓・改姓)が薄く、これも姓氏が多様化する一因にもなったと考えられる。(4)明治時代に入り、「平民苗字必称義務令」が発布され、江戸時代までに公に苗字(名字)を名乗ることができなかった平民層も苗字を持つことが義務化されたために、極めて短期間に平民たちが馴染みのある地名から多数の苗字を新しく作ったことが日本の姓氏の数を増加させた。
著者
金 光林
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.56, pp.9-16, 2020-06

筆者は東アジアの姓氏の発生と変遷過程についてこれまで研究を進めてきた。この研究をさらに発展させる形で、今回は東アジアの族譜の形成と発展についてまとめた。 本稿においては、先行研究の成果を踏まえながら、中国・朝鮮・日本の族譜(系図)の形成と発展の過程を辿り、中国族譜の編纂目的・体制(形式)・機能について調べ、中国と韓国・朝鮮の族譜の数と所蔵状況について確認した。そして膨大に残されている族譜が現代の研究資料としてはどういう価値を持ち、そこからどういう学問的成果が期待できるのか、という問題について考えてみた。 族譜は膨大な数の資料を残しながら、従来、この資料を対象にした研究が活発には行われなかった。それは族譜が収録された個々人の家族・宗族関係、出生、死亡などの私的な記録に偏り、膨大の資料の割には社会との関連で活用できる情報が乏しいこと、現存する族譜は中国でも、朝鮮でも近代初期に編纂されたものが多数であり、事実関係に信憑性が足りないものも多く、文献として活用する場合慎重な扱いが必要であり、族譜の編纂目的、それの持つ機能が現代社会の価値観にあまりなじまないということが族譜を対象とした研究が振るわない原因だと考えられる。そのために、族譜は歴史研究においては補助資料として活用されるに留まっていた。しかし、族譜に対して、新しい視点と多様な方法を持ち込むことで新たな学問的成果が期待できるようになった。