著者
金子 周司
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.49-59, 2017 (Released:2017-07-27)
参考文献数
20

From 2012 to 2014 in Japan, a total of 214 cases of motor vehicle collisions were attributed to the use of illegal drugs by drivers. In 93 out of 96 investigated cases, the causative agents were 22 kinds of synthetic cannabinoids (SCs). Those SCs can be grouped into three groups according to the timeline of use and their chemical structures. The first generation SC naphtoyl indole derivatives, such as MAM-2201, were used in 2012 and disappeared by governmental overall regulations in Spring, 2013. Instead, quinolinyl ester indoles (second generation SC, such as 5F-PB-22) and indazole carboxamides (third generation SC, such as 5F-AB-PINACA) appeared thereafter with much stronger potencies. An outbreak of SC occurred in Summer, 2014 with one of the strongest SCs, 5F-ADB. The common signs observed in the SC-abused drivers are impaired consciousness, anterograde amnesia, catalepsy with muscle rigidity, tachycardia, and vomiting or drooling. Since the third generation SCs are extremely potent CB1 agonists (only a small amount is required) and instable in blood, it is very difficult to detect SCs in biological samples. Actually, only in one third of the cases, SC could be detected in blood or urine.
著者
植田 弘師 塚原 完 金子 周司 崔 翼龍 酒井 佑宜 藤田 和歌子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では慢性疼痛における「痛みメモリー」のフィードフォワード機構がCentralized Pain(可塑的上位脳性疼痛)を形成するという新しい概念を提唱し、その検証研究を行うことが目的である。しかも最も重要な視点は、研究代表者が2004年に発見したリゾホスファチジン酸(LPA)とその受容体シグナルが全てに共通しているという事実にある。本研究ではこの目的を遂行するために、より多くの異なる種類の慢性疼痛動物モデルを開発・利用することから始めている。2017年度では独創的慢性疼痛病態としてEmpathy誘発型の線維筋痛症モデルと安定した脳卒中後性慢性疼痛モデルの作成に成功し、前者は論文報告とし、後者は投稿中である。LPAシグナルがこうした多くの慢性疼痛モデルの形成に関与する事は遺伝子改変マウスを用いて明らかにできているが、これに加えていったん形成した慢性疼痛に対して受容体拮抗薬などが「痛みメモリー」を消去できることも見出し、慢性疼痛の維持期にも鍵としての役割を有することが解明された。こうした「痛みメモリー」は脳のみならず末梢免疫系ともリンクしていることが次第に明らかとなりつつある。脳における責任領域と各種脳組織や末梢組織における責任細胞や責任分子の同定にはRNA解析を基礎とした遺伝子解析から上流と下流シグナルを同定する研究準備を行っている。特に脳における責任領域の同定のために、Imaging-MS解析とPET解析、光遺伝学を用いた分子レベルでの機能検証研究を実施している。
著者
金子 周司
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.24-35, 2006 (Released:2006-04-01)
参考文献数
5
被引用文献数
5 4

ライフサイエンス辞書(LSD)とは,筆者が主宰するLSDプロジェクトが1993年以来作り上げてきた生命科学領域の電子辞書である。この辞書の最大の特徴は,英語および日本語のいずれも大量の学術テキストを計量的に解析した独自のデータに基づいていることである。本稿では現在,公開している辞書サービスの概要とLSDデータベースの構築法を紹介し,併せて現在取り組んでいる対訳オントロジーの構築作業から見えてきた英語と日本語の学術用語の相違点について述べたい。
著者
金子 周司 大武 博
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.473-479, 2010 (Released:2010-12-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

生命科学領域の研究報告で用いられる英語,日本語の専門用語を各々10万語規模で収集して対訳づけを行い,類義語と階層構造の整理を行った対訳シソーラスを完成させた。続いてこれを利用して,テキスト中での特徴的な用語の共起頻度に基づく関連性を求めることで専門知識の検索に有用な連想検索を試作し,これらをWeb辞書として公開した。また,新たに読解支援ツールとして複合語に対応したマウスオーバー辞書を開発,公開した。さらに,医療文書からの知識発見に資することを目的として,米国FDAが公開する有害事象データベースから医薬品名の名前解決に取り組んだ。これらの試みについて紹介する。
著者
金子 周司 長島 卓也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集 第92回日本薬理学会年会 (ISSN:24354953)
巻号頁・発行日
pp.2-AS1-2, 2019 (Released:2020-03-20)

FAERS is a public database that accumulates more than 9 million self-reports of adverse events. In nearly half of the cases, multiple drugs are prescribed, so that potential drug-drug interactions are to be analyzed. Focusing on adverse reactions relating to diabetes mellitus (DM) caused by an anti-schizophrenic quetiapine, we found that concomitant use of vitamin D analogs significantly suppresses the occurrence of quetiapine-induced DM in FAERS. Experimental validation revealed that quetiapine acutely caused insulin resistance, which was mitigated by dietary supplementation with cholecalciferol. In an expression database, several genes downstream of insulin receptor were downregulated by quetiapine. Further experiments clarified that a PI3K regulatory protein gene, pik3r1, was downregulated by quetiapine, which was reversed by cholecalciferol in mouse skeletal muscle. In addition, insulin-stimulated glucose uptake into cultured myotubes was inhibited by quetiapine, which was reversed by pretreatment with calcitriol. These results suggest that vitamin D prevents the atypical antipsychotic-induced hyperglycemia and insulin resistance by upregulation of PI3KR1. Until now, we have obtained several combinations of concomitant medications to reduce specific adverse events by FAERS analysis. This new strategy will pave the way for drug repositioning and clarifying unknown disease mechanisms.
著者
金子 周司
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年、危険ドラッグとして我が国で蔓延した合成カンナビノイドの一種5F-ADBはカンナビノイドCB1受容体に対する強い親和性を示す一方、パニックなどの精神神経症状、頻脈などの心血管系症状を起こす。本研究では5F-ADB がドパミン・セロトニン神経機構に与える影響について検討した。急性単離中脳冠状切片において5F-ADB(1μM) はドパミン神経の自発発火頻度を有意に増加させCB1受容体遮断薬の存在下ではその増加作用は消失した。一方で縫線核セロトニン神経の自発発火頻度に関しては5F-ADBは影響を与えなかった。以上より5F-ADBはセロトニン神経活動に対して直接的な影響を示さないことが示唆された。
著者
金子 周司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.5, pp.306-310, 2005 (Released:2006-01-01)
参考文献数
24

イオンチャネル分子を標的とする薬物はその数こそ少ないが,これまでも優れた薬物が創出されている.しかしそれらは薬理作用の研究で作用点がたまたまイオンチャネルであることが分かってきたに過ぎず,先にイオンチャネルを標的と定めて薬物を創出してきた例は数少ない.イオンチャネルをコードする遺伝子の数の予測は,多数の薬物標的となりうるチャネル分子の存在を示唆しているが,ゲノム創薬的な手法が創薬の潮流を占めている現在においても,イオンチャネルを創薬標的とする機運は盛り上がらない.この原因として,内在性リガンドが存在しないことによる薬物設計の困難さ,細胞を用いた薬効評価が必要なためにスループットが高い評価系の開発が遅れたこと,さらに基礎研究においてイオンチャネルの機能解明が遅れてきたことを指摘することができる.しかし一方,イオンチャネルに対する薬効を詳細に検討すると,ヘテロマーやバリアントを含めた遺伝子表現型の多様性,アロステリック調節部位や細胞内調節ドメインの多様性,細胞の状態に依存した薬効強度の変化など,病態特異的に作用し,かつ多様な化学構造の薬物を設計するのに好都合な材料も見つけることができる.さらに,生細胞を用いたハイスループット評価系の中には,機能評価精度の高い電気生理学的な手法を応用する例が生まれてきており,ようやくイオンチャネル創薬を実行に移すためのインフラが整備されてきた.一例として神経薬理学領域で新しい薬理作用に基づく創薬が期待されている難治性疼痛や神経変性疾患を対象に考えてみると,最近では非常に多くの新しいイオンチャネルが創薬対象として十分な可能性を持っていることがわかってきた.薬理学研究者のもつ優れた研究手法によってイオンチャネルの創薬標的としてのバリデーションを推進する一方,製薬企業によって生み出される新しい低分子リガンドの発見によって,近い将来にイオンチャネルを標的とした多数の新薬の創出を期待したい. (注)NMDA受容体やP2X受容体のような明らかに内在性リガンドの存在するイオンチャネル共役型受容体は,ここではイオンチャネルに含めず受容体に含めているが,薬物作用点としてはチャネルポアも考えられるので各論においては含めている.また,イオンチャネルとトランスポータを合わせて膜輸送タンパク質と称しているが,イオンチャネルとトランスポータの境界も必ずしも明確でないので,ここではイオンチャネルという名称を象徴的に用いることにする.