著者
植田 弘師 松永 隼人 永井 潤 水田 賢志 田中 義正 水谷 龍明 内田 仁司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

LPAシグナルは神経障害性疼痛、線維筋痛症モデルの形成と維持機構の共通鍵分子である事を明らかにし、創薬標的分子に対する阻害剤探索やin slico解析、最適化合成を行った。慢性疼痛は免疫系を含む複数のフィードフォワード機構により構成されることを見出したので、特異的薬剤処置やLPAプライミングした培養アストロサイト、iPS細胞、T細胞をin vivo疼痛機構に再構成する研究を実施した。その結果、ミクログリアLPA3受容体-サイトカインによる形成・維持機構、アストロサイトLPA1受容体-ケモカインによる維持機構が主な仕組みであることが明らかになった。
著者
植田 弘師 塚原 完 金子 周司 崔 翼龍 酒井 佑宜 藤田 和歌子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では慢性疼痛における「痛みメモリー」のフィードフォワード機構がCentralized Pain(可塑的上位脳性疼痛)を形成するという新しい概念を提唱し、その検証研究を行うことが目的である。しかも最も重要な視点は、研究代表者が2004年に発見したリゾホスファチジン酸(LPA)とその受容体シグナルが全てに共通しているという事実にある。本研究ではこの目的を遂行するために、より多くの異なる種類の慢性疼痛動物モデルを開発・利用することから始めている。2017年度では独創的慢性疼痛病態としてEmpathy誘発型の線維筋痛症モデルと安定した脳卒中後性慢性疼痛モデルの作成に成功し、前者は論文報告とし、後者は投稿中である。LPAシグナルがこうした多くの慢性疼痛モデルの形成に関与する事は遺伝子改変マウスを用いて明らかにできているが、これに加えていったん形成した慢性疼痛に対して受容体拮抗薬などが「痛みメモリー」を消去できることも見出し、慢性疼痛の維持期にも鍵としての役割を有することが解明された。こうした「痛みメモリー」は脳のみならず末梢免疫系ともリンクしていることが次第に明らかとなりつつある。脳における責任領域と各種脳組織や末梢組織における責任細胞や責任分子の同定にはRNA解析を基礎とした遺伝子解析から上流と下流シグナルを同定する研究準備を行っている。特に脳における責任領域の同定のために、Imaging-MS解析とPET解析、光遺伝学を用いた分子レベルでの機能検証研究を実施している。
著者
植田 弘師 澄川 耕二 井上 誠 藤田 亮介 内田 仁司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2005

神経損傷に伴う難治性の神経因性疼痛の分子機構解明において、リゾホスファチジン酸(LPA)をめぐる治療標的分子の同定に成功した。主たる働きは知覚神経と脊髄後角におけるLPAの逆行性シグナルとしての脱髄や遺伝子発現制御とLPA合成を介する疼痛増強する機構である。脊髄内におけるLPA誘発性のミクログリア活性化、上位脳における同様なフィードフォワード機構、疼痛制御遺伝子発現のエピジェネティクス性増幅制御の存在など、新しい視点に立った創薬基礎を築いた。
著者
植田 弘師
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.161-165, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
12

神経傷害に伴い誘導される慢性疼痛は難治性神経因性疼痛と呼ばれ,抗炎症薬や強力な鎮痛作用を有するモルヒネによって除痛されにくい.従って,急性の痛みとは仕組みが全く異なり,末梢神経傷害に伴う一次知覚神経と脊髄での可塑的機能変調がその基盤となると考えられる.著者らは近年,神経傷害後,長期に認められる痛覚過敏・アロディニア現象を誘導する初発原因分子として脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)を同定した.このLPAは後根神経節や脊髄後角における疼痛伝達分子の発現増加や一次知覚神経の脱髄現象を誘導し,これらがそれぞれ痛覚過敏やアロディニア現象の分子基盤となることが明らかになった.
著者
植田 弘師
出版者
日本疼痛学会
雑誌
PAIN RESEARCH (ISSN:09158588)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.239-245, 2017-12-20 (Released:2018-05-31)
参考文献数
30

We have firstly demonstrated that LPA1 receptor signaling initiates the neuropathic pain and underlying mechanisms including dorsal root (DR) demyelination and up–regulation of Cavα2δ1 in dorsal root ganglion (DRG), which are supposedly related to allodynia and hyperalgesia, respectively. Since this report, we have accumulated the findings supporting this discovery. They are the findings that LPA is produced in the spinal dorsal root upon the partial ligation of sciatic nerves of mice, the LPA production is self–amplified through activations of LPA1 ⁄ 3 receptors and microglia. Thus produced LPA may go back to DR and DRG and cause abnormal pain behavior. All these mechanisms may develop the feed–forward amplification of abnormal pain mechanisms, or pain memory. On the analogy of this neuropathic pain, we tested the involvement of LPA1 receptor signaling in experimental fibromyalgia–like mouse models, such as intermittent psychological stress (IPS)–, intermittent cold stress– and repeated intramuscular injection of acid saline–induced models. The deficiency of LPA1 receptor completely lost the hyperalgesia in all these models. The repeated treatments with LPA1 antagonist AM966 completely cured the established pain in the IPS model. All these findings demonstrate that LPA1 signaling plays key roles in the development and maintenance of chronic pain.
著者
植田 弘師 吉田 明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.51-59, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
47

1976年にシグマ受容体はオピオイド受容体のファミリーに属するものとして明らかにされたが,その後分類のいきさつや生理機能が充分解明されなかった為,あまり注目されてこなかった.ところが最近,シグマ1受容体が学習記憶障害改善作用や抗うつ作用,さらには神経細胞保護作用など高次脳神経機能に関連していることが多数報告されるようになり選択的シグマ1受容体アゴニストが新しい治療薬として注目されるようになってきた.これと並行して,膜1回貫通型シグマリガンド結合タンパク質のアミノ酸配列が報告され,また一方で脳シナプス膜におけるGタンパク質連関型シグマ受容体存在の証明などを機にこれまで未知な点が多かったシグマ受容体研究が急速な発展を遂げつつある.さらに,神経ステロイドの即時型反応(non-genomic action)にこのシグマ受容体が関連することが明らかになり,様々な行動薬理,神経化学的性質をシグマ化合物と共有することが明らかになってきた.神経ステロイドの血中濃度と高次脳機能との関連が報告されはじめ,今後,シグマ受容体関連化合物が神経ステロイド機能調整薬として応用されることが期待されるであろう.
著者
植田 弘師 井上 誠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.114, no.6, pp.347-356, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
28

最近,オピオイド受容体のホモロジースクリーニングからオピオイドペプチドに感受性を示さない新たな遺伝子がクローニングされた.このorphan受容体(ORL1)を哺乳動物細胞に発現させたものを利用して,脳から内在性ペプチドリガンド,ノシセプチンが発見された.このノシセプチンはオピオイドペプチドと非常に類似したアミノ酸配列を示すにも関わらず,オピオイドペプチドとは逆に痛覚過敏や抗オピオイド作用を示したことで大変注目された.しかしながら,その後の研究により,このペプチドは投与経路や用量によって侵害作用並びに抗侵害作用を示すことが明らかとなった.著者らも新しい末梢性疼痛試験法を用い,末梢におけるノシセプチンの痺痛機構における役割を検討した.その結果,低用量のノシセプチンは侵害受容器からのサブスタンスP遊離を介して侵害反応を示し,一方,高用量では侵害性物質によるホスホリパーゼCの活性化の阻害を介して抗侵害作用を示すことを見出した.末梢神経系において見出されたこの概念は,中枢神経系におけるノシセプチンの二相性作用のメカニズムに関しても適用できるものと考えられる.最近,ノシセプチンの生理的役割がその受容体の遺伝子欠損マウスを用い検討されており,聴覚機能における関与が見出され,次いでモルヒネ耐性形成機構における関与が見出された.本稿では疼痛機構や記憶学習などにおけるノシセプチンおよびその受容体の生理的役割について,ノシセプチン受容体の遺伝子欠損マウスを用いた結果をもとに検討する.
著者
井上 誠 植田 弘師
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

全身性慢性疼痛疾患である線維筋痛症や視床痛に対する動物モデルを開発するため、本研究者が以前に見出した坐骨神経傷害性慢性疼痛の原因分子であるリゾホスファチジン酸(LPA)を、末梢知覚神経からの痛み情報の二次中継核である視床領域へ投与し、熱刺激誘発性並びに機械触覚刺激誘発性疼痛への影響を検討した。その結果、熱刺激誘発性疼痛閾値の著しい低下、すなわち痛覚過敏現象が用量依存的に観察された。さらに、機械触覚刺激応答閾値の低下、アロディニア現象も観察された。これらの現象は、投与後数日にわたって観察された。さらに、片側視床内への適用にも関わらず、両側性に過敏現象が観察され、全身性の慢性疼痛を示すことが判明した。新たに開発した電気刺激誘発性鳴啼反応試験法を用いると、線維筋痛症患者の診断基準に関連するトリガーポイントの数カ所への電気刺激により侵害性の鳴啼反応が観察されるが、この反応閾値はLPA投与後に低下した。従って、LPAの視床投与は視床痛の動物モデルになりうる可能性と線維筋痛症の動物モデルになりうる可能性が明らかになった。さらに、LPAの一つの作用点であるグリア細胞の活性化を評価し、その活性化抑制による疼痛閾値変調への関与を検討したとごろ、LPAの視床投与後、投与側でミクログリアの活性化を用量依存的に観察された。さらに、活性化グリア細胞除去剤の適用により、これらの過敏現象が著明に抑制された。従って、グリア細胞の活性化が全身性の慢性疼痛誘発の一端を担い、これを標的とした薬物の適用はその治療戦略の一つとなりうることが明らかとなった。