著者
Kazumasa Kotake Akihiro Tahira Yasuhiro Kawakami
出版者
Japanese Society for Clinical Toxicology
雑誌
中毒研究 (ISSN:09143777)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.195-198, 2022-09-10 (Released:2023-01-26)
参考文献数
12

絶食時にジスチグミン臭化物を服用したためコリン作動性クリーゼを発症した1例を報告する。症例は89歳,男性。入院1週間前より血便が続いており,血圧低下および意識障害をきたしたため,当院へ緊急搬送された。大腸憩室出血を内視鏡的に止血し,絶食下にてジスチグミン臭化物2.5 mg/dayが再開された。その結果,入院第8病日に意識障害が認められた。薬剤師はジスチグミン臭化物によるコリン作動性クリーゼを疑い,採血結果および身体所見を確認した。その結果,コリンエステラーゼの低値(17 IU/L)および縮瞳(瞳孔径1.5 mm/1.5 mm)が認められたため,主治医にジスチグミン臭化物の中止を提案した。その後は状態が改善し,第20病日退院となった。絶食時のジスチグミン臭化物の服用により,ジスチグミン臭化物の血中濃度が上昇し,コリン作動性クリーゼを発症する可能性があることを念頭に置くべきである。
著者
中塚 峻 武田 健一郎 森野 一真
出版者
一般社団法人 日本中毒学会
雑誌
中毒研究 (ISSN:09143777)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.48-50, 2023-03-10 (Released:2023-03-30)
参考文献数
5

An 18-year-old male who abused several over-the-counter (OTC) drugs, mainly diphenhydramine, was admitted to the emergency department. He presented with tachycardia, delirium, tremor, and tonic convulsions. He was treated with diazepam, tracheal intubation, and activated charcoal. His symptoms appeared to be caused by diphenhydramine poisoning. In addition, we suspected that the combined use of diphenhydramine, alcohol, and an anticholinergic agent exacerbated the poisoning symptoms. His symptoms improved with time and he was discharged on day 6.In recent years, the routes for obtaining drugs and information are becoming more diverse. While OTC drugs are often readily available, we need to be aware that certain types of medication can cause serious symptoms.
著者
平松 俊紀 小糸 理紗 幸田 太
出版者
一般社団法人 日本中毒学会
雑誌
中毒研究 (ISSN:09143777)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.307-312, 2022-12-10 (Released:2023-01-26)
参考文献数
32

ニホンマムシ(Gloydius blomhoffii)による咬症受傷翌日に複視症状をきたした症例に乾燥まむしウマ抗毒素(乾燥まむし抗毒素「KMB」®,以下,抗毒素)を投与した1例を経験した。症例は87歳女性,マムシに左第3指を咬まれて受傷した。複視症状が出現したため受傷から約26時間後に医療機関を受診し,約30時間後に抗毒素を投与された。複視症状は軽快し,入院4日目に退院した。マムシ毒に含まれている酵素により出血や壊死をきたすとともに少量ながら含まれる神経毒が外眼筋の運動障害などの眼症状を呈することがある。本症例は眼症状から重症と考え,治療に抗毒素を投与したが,その理由は抗毒素の投与が重症例,かつ蛇毒咬症受傷後早期に投与が望まれるためである。しかしながら受傷に際して毒蛇の認識は困難な場合も多く,受傷後の症状経過から毒蛇咬症が判明することがある。抗毒素投与は投与前に十分な対応を行いつつ血清病発症に注意することで安全な治療が可能となる。
著者
山本 理絵 金指 秀明 坪内 陽平 櫻井 馨士 秋枝 一基
出版者
一般社団法人 日本中毒学会
雑誌
中毒研究 (ISSN:09143777)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.233-239, 2023-09-10 (Released:2023-11-08)
参考文献数
13

急性薬毒物中毒の基本は全身管理であるが,起因物質をある程度推測できる幅広い知識と適切な対処を行う技術が必要である。救急医療に携わる医療従事者からは「中毒は苦手」との印象を受けることが多いが,中毒に対する認識の実態調査はほとんど行われていない。そこで,中毒に対する認識の実態を明らかにするため,1施設の医療機関と同院にもっとも搬送件数の多い消防機関に対して,2018年に救急部に所属する看護師,2019年に臨床研修医,2020年に救急救命士を対象に薬毒物中毒に対する意識調査を実施した。中毒の得意度を5段階で自己評価(1:苦手,2:やや苦手,3:どちらでもない,4:やや得意,5:得意)したところ,1と2が半数以上で,5はいなかった。中毒を苦手とする理由は,「種類が多い」「経験不足」のほか,「精神科対応が困難」や「二次被害・危険性」,看護師では「かかわり方」などであった。3つの意識調査から,3職種とも中毒は苦手であることがわかり,中毒が苦手な理由は職種により多彩であることがわかった。中毒に対する自己評価を数値化したことは,今後の教育による理解度の指標として活用できることが推察された。
著者
稲葉 大地 杉本 龍史 安武 祐貴 上村 吉生 芳澤 朋大 花澤 朋樹 吉原 秀明
出版者
一般社団法人 日本中毒学会
雑誌
中毒研究 (ISSN:09143777)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.319-324, 2022-12-10 (Released:2023-01-26)
参考文献数
11

コルヒチンはグロリオサなどの植物に含有され,痛風などの治療薬として使用されている。グロリオサはイヌサフラン科植物で観葉植物として市販されている。今回,グロリオサの球根を誤食し,中毒症状を生じた症例を経験した。症例は84歳の男性で嘔吐や下痢の症状を生じ,翌日に当院受診し急性腸炎の疑いで入院となった。入院翌日,意識障害と乳酸アシドーシスを認め,全身管理を行ったが入院3日目に死亡した。死亡後に,家族への追加聴取で消化器症状出現前にグロリオサの球根を誤食したことが判明し,尿および血液からコルヒチンが検出され,グロリオサ誤食によるコルヒチン中毒と診断した。コルヒチン中毒は,摂取量によっては急激に多臓器障害を生じ,致死的な経過をたどり得る。中毒症状は非特異的であり,またコルヒチン濃度測定には時間を要するため,診断には詳細な問診がきわめて重要である。
著者
金子 唯 池尻 薫 家城 洋平 横山 和人 川本 英嗣 石倉 健 今井 寛
出版者
一般社団法人 日本中毒学会
雑誌
中毒研究 (ISSN:09143777)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.325-328, 2022-12-10 (Released:2023-01-26)
参考文献数
4

Acetaminophen overdose results in acute liver damage. Measurement of the plasma concentration and a nomogram identify patients who require hepatoprotective treatments. The patient was a 28-year-old woman who ingested 100-200 pills of 200-mg acetaminophen and was found unconscious at home. She was brought to the emergency room and subsequently referred to our hospital 4 days later. The plasma concentration of acetaminophen could not be measured. However, she showed signs of acute liver failure and hepatic encephalopathy, and was treated with N-acetylcysteine (NAC) to treat liver failure. She also required plasma exchange with continuous hemodiafiltration. Treatments were successful in improving her consciousness impairment, and she was discharged on day 9. Although the plasma concentration of acetaminophen could not be measured, it was not necessary for determining the diagnosis and treatment plans.