著者
鈴川 芽久美 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 渡辺 修一郎 鈴木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.334-340, 2009 (Released:2009-08-28)
参考文献数
28
被引用文献数
20 16

目的:要介護認定を受けた高齢者を対象として転倒と骨折の発生状況を調査し性·年齢·要介護認定状況(以下,介護度)による影響を検討する.方法:対象は通所介護施設を利用する65歳以上の高齢者8,335名(平均年齢82.2±7.4歳)であった.施設の担当職員が,介護度,過去1年間における転倒の有無,転倒による骨折の有無,骨折部位などの項目について聞き取り調査を実施した.なお認知機能障害により,回答の信頼性が低いと調査者が判断した場合には,家族から転倒や骨折状況を聴取した.また施設利用中の転倒については,その状況を自由記載にて担当職員が回答した.分析は転倒と骨折の発生頻度を性,年齢(前期/後期),介護度(軽度要介護群;要支援1∼要介護2/重度要介護群;要介護3∼5)別に算出し,χ2乗検定にて群間比較した.施設利用中の転倒については,場所,状況,動作,直接原因を集計し軽度と重度要介護群の群間差をχ2乗検定にて比較した.結果:過去1年間の転倒率は,女性(24.6%)よりも男性(26.8%)が有意に高かった.軽·重度要介護群における転倒率の比較では,女性においてのみ重度(26.4%)と比べて軽度(23.4%)要介護群の転倒率が有意に低かった.一方で転倒者のうち骨折した者の割合は,男性(4.5%)よりも女性(12.2%)の方が有意に高かった.骨折の有無を従属変数とし,性,年齢,介護度を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析では,男性に比べると女性の方が2.5倍骨折する危険性が高かった.また施設利用中の転倒については重度要介護群ではトイレ時,軽度要介護群では体操·レクリェーション時,立位時の転倒が有意に多かった.結論:転倒率は女性の方が低く,それは軽度要介護群の転倒率の低さが影響していることが示唆された.一方骨折においては年齢や介護度の影響よりも,性別(女性)の影響が大きいことが示唆された.
著者
鈴川 芽久美 島田 裕之 小林 久美子 鈴木 隆雄
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.103-107, 2010 (Released:2010-03-26)
参考文献数
24
被引用文献数
16 6

〔目的〕本研究の目的は,要介護認定を受けた高齢者における外出行動と身体機能との関係を明らかにすることである。〔対象〕通所介護サービスを利用していた高齢者359名(平均年齢82.2±7.0歳,男性119名,女性240名)とした。〔方法〕調査項目は性,年齢,chair stand test 5 times,timed up-and-go test(TUG),階段昇降の自立度,mental status questionnaireとした。なお外出は,これら調査の前後1ヶ月間(2ヶ月間)の状況を対象者の家族から聴取した。〔結果〕多重ロジスティック回帰分析の結果,TUGが有意に町内までの外出と関連し(オッズ比;1.04,95%信頼区間;1.01-1.08),町外までの外出とは階段昇降の自立度が有意に関連した(オッズ比;1.74,95%信頼区間;1.06-2.86)。〔結語〕外出の実行には実用的な歩行機能が必要であり,より複雑な状況への適応を要求される町外への外出には,階段の自立度が関与した。
著者
秋野 徹 波戸 真之介 鈴川 芽久美 林 悠太 石本 麻友子 今田 樹志 小林 修 島田 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101499, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】我が国では急速な高齢化が進んでおり、要支援や要介護状態となる高齢者は増加の一途を辿っている。その背景として、加齢や廃用による心身機能、認知機能の低下によって、日常生活活動(activities of daily living: ADL)が低下し、介護度が悪化する例は多く存在するものと考えられる。介護度の悪化がどのようにして起こったのか、介護度の悪化の傾向や要因を縦断的に大規模で調査した報告は、介護予防への取り組みにおいて重要性が高い。そこで本研究は、縦断的な調査により要介護度の悪化に影響を及ぼす要因を検討することを目的とした。【方法】対象は2005年10月から2012年10月の間で全国のデイサービスを利用し、2年間の追跡調査が可能であった要支援1から要介護4までの高齢者4212名(平均年齢82.2±6.6歳、男性1354名、女性2858名)とした。なお、追跡期間内に要介護度の改善が認められたものは対象から除外した。調査は、追跡調査開始時にベースラインとしてFunctional Independence Measure (FIM)、握力、歩行速度、Chair Stand Test- 5 times(CST)、開眼片脚立ち時間、Mental Status Questionnaire (MSQ)を測定した。その後2年間、1年ごとに要介護度の追跡調査を実施し、2年以内に要介護度の悪化した者を悪化群、悪化しなかった者を維持群とした。 統計学的解析は、ベースラインにおける各調査項目について、悪化群と維持群の間の差異を単変量解析(t検定、U検定、χ2検定)にて比較した。また、要介護度の悪化発生までの期間を考慮したうえで、要介護度の悪化に対する各調査項目の影響を検討するため、Cox比例ハザード回帰分析を実施した。独立変数は性別、ベースラインにおける年齢、介護度、FIM運動項目の合計点、FIM認知項目の合計点、握力、歩行速度、CST、開眼片脚立ち時間、MSQとし、ステップワイズの変数減少法による分析を用いた。また、要介護度の悪化と有意な関連を示した変数に関してはハザード比を算出した。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に沿って研究の主旨および目的の説明を行い、同意を得た。なお本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】2年間の追跡期間における悪化群は2693名(平均年齢82.4±6.4歳、男性879名、女性1814名)、維持群は1519名(平均年齢81.8±7.0歳、男性475名、女性1044名)であった。単変量解析により、悪化群と維持群間を比較したとき、年齢は維持群が有意に低く、ベースラインにおける介護度は維持群が有意に重度であった。加えて、FIM運動項目合計点、握力、歩行速度、CST、開眼片脚立ち時間、MSQは維持群が有意に高い値を示した。Cox比例ハザード回帰分析の結果、モデルχ2検定は有意となり、要介護度の悪化に有意な関連を認めた変数は、性別(ハザード比:0.749、95%信頼区間:0.724~0.776)、ベースラインにおける介護度(ハザード比:0.819、95%信頼区間:0.740~0.906)、FIM運動項目合計点(ハザード比:0.996、95%信頼区間:0.994~0.998)、MSQ(ハザード比:1.063、95%信頼区間:1.049~1.077)、歩行速度(ハザード比:0.759、95%信頼区間:0.655~0.880)握力(ハザード比:0.988、95%信頼区間:0.981~0.996)となった。【考察】2年間の追跡調査にて要介護度が悪化した群と維持していた群を比較した結果、ベースラインでのFIM運動項目や運動機能は維持群のほうが有意に高かった、また、縦断的な解析により、ベースラインにおけるFIM運動項目、MSQ、歩行速度、握力が高いほど、要介護度の悪化の発生が増加することが示され、これらの評価指標が介護度の悪化の予測に有用である可能性が示唆された。特に歩行速度に関しては、ADLの低下に関連することや、将来の要介護度発生に影響を与えることが報告されており、本研究も先行研究を支持する結果となった。しかし、要介護高齢者においては歩行困難な対象が多く存在することを考慮する必要があり、今後は対象を限定したうえで要介護度の悪化への影響を検討することも課題である。【理学療法学研究としての意義】介護予防は、現在要介護状態にあるものを要介護状態に陥らないようにすることに加え、現在要介護状態にあるものの要介護状態を悪化させないことも含む。理学療法士としての介護予防への取り組みとして、歩行を含む心身機能、生活機能の維持・向上を図ることの重要性が縦断的に確認されたことは、重要な知見と言える。