- 著者
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田中 正之
松永 雅之
長尾 充徳
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement 第25回日本霊長類学会大会
- 巻号頁・発行日
- pp.91, 2009 (Released:2010-06-17)
食べた物を吐き戻し,その吐しゃ物を再び食べるという吐き戻し行動は飼育下のゴリラでよく見られる異常行動の一種である。京都市動物園に飼育されているニシゴリラ1個体(ゲンキ,女,観察開始時22歳)も,幼時から常習的に給餌後の吐き戻し行動が見られていた。 本研究では,屋内での夕食給餌時に見られた吐き戻し行動を観察,記録し,吐き戻しの様態を分析した。観察は屋内居室に入ってからの45分間おこない,この間に起こった吐き戻しについて入室してからの経過時間を記録した。30日間分の記録を分析した結果,1日あたりの平均吐き戻し回数は23回であり,観察時間の間中,約1分間隔で吐き戻してはその吐しゃ物を食べるという行動を繰り返した。 吐き戻しの過程を観察したところ,やわらかく水分の多い果物や葉もの野菜などを一気に食べては吐き戻す一方で,水分の少ないイモやカシの葉を食べると吐こうとして失敗する場合が見られた。一度吐いた後は吐しゃ物を再び食べてはまた吐くという行為を繰り返した。対策として給餌品目の変更を試みた。 水分が多く,量も多かった白菜を草食獣用の青草やクローバーに変更して与えたところ,青草やクローバーを食べた後の吐き戻しはほとんど見られなくなった。これに加えて,居室に藁を入れ,給餌食物を藁の中に混ぜ込んで採食時間の延長を試みた結果,夕食時の吐き戻しはほとんど消失した。 吐き戻し防止の対策としては,居室内に藁を敷くことで防止効果があることは先行研究で報告されていたが,今回の試みにより,吐きにくい食物を与えることも効果的であることがわかった。給餌品目に青草などを導入することで吐き戻しを防止する試みは,日本モンキーセンターでもおこなわれており,その効果が報告されている。吐き戻し防止の有効な方法のひとつとして考えられる。 今後は,屋内だけでなく,屋外運動場でもおこなわれている吐き戻しにも対策を検討したい。