著者
高橋 勇夫 間野 静雄
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00030, (Released:2022-07-21)
参考文献数
37
被引用文献数
1

天然アユの流程分布,とくに遡上上限がどのように決まるのかを明らかにするために,アユの遡上を阻害するような構造物が無く,かつ,種苗放流を 2013 年から停止した北海道朱太川において,2013 年~2021 年の 7 月下旬~ 8 月上旬に 12 定点で潜水目視による生息密度調査を行った.また,2014 年には下流,中流,上流の 3 区間からアユを採集し,52 個体の Sr/Ca 比から河川への加入時期を推定したうえで,加入時期と定着した位置の関係についても検討した.アユの推定生息個体数は 4.6~132 万尾と 9 年間で 30 倍近い差があった.各年の平均密度は 0.09 尾 /m2 ~2.61 尾 /m2 で,9 年間の平均値は 0.82 尾 /m2 であった.アユの生息範囲の上限は河口から 21~37 km の間で,また,生息密度 0.3 尾 /m2(全個体が十分に摂餌できる密度)の上限は 4 ~37 km の間で変動した.河口から生息範囲の上限までの距離および 0.3 尾 /m2 の上限までの距離ともにその年の生息数に応じて上下した.流程分布の変動は,密度を調整することにより種内競合を緩和することに寄与していると考えられた.耳石の Sr/Ca 比から河川へ加入してからの期間を推定したところ,早期に河川に加入したアユは上流に多いものの,下流部に定着した個体もいた.一方,後期に加入した個体は下流に多いものの,上流まで遡上した個体も認められた.これらのことは,早期に河川に加入した個体が後期に加入した個体に押し出されるように単純に上流へと移動しているのではないことを示唆する.さらに,推定生息数が最も少なかった 2018 年の分布上限は平年よりも 10~15 km も下流側にあった.これらより,遡上中のアユは充分な摂餌条件が整えば,移動にかかるコストを最小限に抑える行動を取っていると推察される.
著者
間野 静雄 淀 太我 吉岡 基
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.185-192, 2018 (Released:2019-09-20)
参考文献数
28
被引用文献数
4

庄内川下流の小田井堰堤がアユの遡上に与える影響を明らかにするため,堰堤下流,魚道,河川中流における CPUE の経日変化,耳石 EPMA 分析から推定した河川進入時期,ならびに体サイズの特徴を解析した。堰堤下流では4月5日に投網で初めてアユが採捕され,6月中旬に CPUE が最高値を示した。魚道では5月中旬まで採捕される個体がきわめて少なかったが,5月下旬に急増し,同時期に CPUE が最高となった。堰堤下流には河川進入後80日程経過している体長の大きな個体がみられたが,魚道では体長の大きな個体はみられなかった。また,河川中流の個体の河川進入時期は4月上旬が最も多く,堰堤下流では4月下旬,魚道では5月中旬であった。以上のことから,早い時期に庄内川に進入した個体のうち,停滞なく小田井堰堤の魚道を利用した個体は上流へ遡上するが,すぐに利用せずに停滞した個体は環境の悪い堰堤下流に定住してしまうと考えられた。
著者
間野 静雄 淀 太我 石崎 大介 吉岡 基
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.89-97, 2014-03-20 (Released:2015-04-02)
参考文献数
23
被引用文献数
6

長良川ではアユの小型化が問題となっている。天然遡上個体以外に人工種苗,琵琶湖産種苗,海産種苗が放流されている長良川において,まず,各由来の放流用種苗の耳石 Sr/Ca 比と外部形態の特徴を把握し,その結果に基づいて10月下旬に夜網漁によって採捕した72個体の由来判別を行ったところ,86.1%が天然遡上個体,9.7%が人工種苗,4.2%が海産種苗と判別され,琵琶湖産種苗は認められなかった。また,天然遡上個体は放流種苗より有意に小さく,採捕時の体長は孵化日や遡上日との間に相関はない一方で,遡上時の逆算体長や河川生活期における瞬間成長率との間に正の相関がみられた。以上のことから,秋季に長良川でみられる小さなアユは,河川遡上時に相対的に体長が小さく,これにより遡上後も成長の悪かった天然遡上個体と考えられた。
著者
高橋 勇夫 間野 静雄
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-12, 2022-07-20 (Released:2022-10-05)
参考文献数
37
被引用文献数
1

天然アユの流程分布,とくに遡上上限がどのように決まるのかを明らかにするために,アユの遡上を阻害するような構造物が無く,かつ,種苗放流を 2013 年から停止した北海道朱太川において,2013 年~2021 年の 7 月下旬~ 8 月上旬に 12 定点で潜水目視による生息密度調査を行った.また,2014 年には下流,中流,上流の 3 区間からアユを採集し,52 個体の Sr/Ca 比から河川への加入時期を推定したうえで,加入時期と定着した位置の関係についても検討した.アユの推定生息個体数は 4.6~132 万尾と 9 年間で 30 倍近い差があった.各年の平均密度は 0.09 尾 /m2 ~2.61 尾 /m2 で,9 年間の平均値は 0.82 尾 /m2 であった.アユの生息範囲の上限は河口から 21~37 km の間で,また,生息密度 0.3 尾 /m2(全個体が十分に摂餌できる密度)の上限は 4 ~37 km の間で変動した.河口から生息範囲の上限までの距離および 0.3 尾 /m2 の上限までの距離ともにその年の生息数に応じて上下した.流程分布の変動は,密度を調整することにより種内競合を緩和することに寄与していると考えられた.耳石の Sr/Ca 比から河川へ加入してからの期間を推定したところ,早期に河川に加入したアユは上流に多いものの,下流部に定着した個体もいた.一方,後期に加入した個体は下流に多いものの,上流まで遡上した個体も認められた.これらのことは,早期に河川に加入した個体が後期に加入した個体に押し出されるように単純に上流へと移動しているのではないことを示唆する.さらに,推定生息数が最も少なかった 2018 年の分布上限は平年よりも 10~15 km も下流側にあった.これらより,遡上中のアユは充分な摂餌条件が整えば,移動にかかるコストを最小限に抑える行動を取っていると推察される.