著者
宮下 敦 村上 浩康 藤田 渉 力田 正一 市川 孝 関谷 友彦
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-07-04

群馬県下仁田町の中小坂鉱山は,明治初期に製鉄が行われた近代産業遺産であるとともに,高品位の磁鉄鉱鉱石を産する下仁田ジオパークのジオサイトであるが,その鉱床学的成因は不明であった. この磁鉄鉱鉱床は,中央構造線に比定されている大北野-岩山線の北側にあり,ジュラ紀付加体であるとされる南蛇井層と70 Maの領家帯平滑花崗岩中に胚胎される,小規模だが高品位の鉄鉱床である.磁鉄鉱鉱石は,アクチノ閃石もしくは加水黒雲母+緑泥石からなり炭酸塩鉱物脈を伴う変質帯中に,レンズ状から脈状の鉱体として産する.磁鉄鉱は3 wt.%に達するケイ素を含み,塩素を含む自形の燐灰石の微粒をしばしば包有している(Fig. 1).磁鉄鉱鉱石に伴う硫化物はごくわずかで,主に磁硫鉄鉱からなり,低硫黄分圧を示唆している,また,しばしば砒鉄鉱と硫砒鉄鉱の複合粒を伴い,その場合硫砒鉄鉱中の砒素量は約36 mol.%と高い.また,磁鉄鉱に伴う蛍石細脈中の初生流体包有物充填温度は500℃以上と,熱水鉱床としては高い生成温度を示す.磁鉄鉱に伴うアクチノ閃石,加水黒雲母,緑泥石も最大1 wt.%の塩素を含むことが特徴である.また,変質帯中にはミョウバン石やカオリナイトなどの酸性を特徴づける変質鉱物は伴わない. 大規模な構造線に近い地質体中に,500℃を超える高温の中性~アルカリ性変質帯があり,その中に燐灰石を伴う高純度の磁鉄鉱が産する産状は,中小坂鉱山の磁鉄鉱鉱床が酸化鉄-燐灰石(IOAもしくはキルナ)型であることを強く示唆する.また,地質状況から見て形成年代は70Maより若く,磁鉄鉱-燐灰石(IOA)型としては世界的に見ても若い鉱床形成年代を持つ可能性がある.
著者
野尻湖哺乳類グループ 高桑 祐司 間島 信男 加藤 禎夫 近藤 洋一 杉田 正男 鈴木 俊之 関谷 友彦 名取 和香子
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.219-233, 2010-11-25
被引用文献数
1

ヘラジカ Alces alcesは,ユーラシア大陸や北アメリカ大陸の冷温帯や寒帯において,主に高緯度針葉樹林に生息する,現生シカ類中最大の種類である.日本から報告されているMIS3末期からMIS2にかけての化石は,現生と化石を通じてもこのシカの分布の南限である.2008年,長野県北東部の野尻湖西岸に分布する上部更新統の野尻湖層立が鼻砂部層T3ユニット(44,000y.B.P.;MIS3)から,野尻湖層からは初となるヘラジカ化石が産出した.この標本(17N III F18-2)は左下顎骨の一部で,ほぼ完全なM3を伴う.さらにその近傍で採集されていた16N III F18-36(ほぼ完全な左下顎のM2)と10N III E17-88(左下顎骨の一部)が,17N III F18-2に接合した.野尻湖層の脊椎動物化石群は,ナウマンゾウとヤベオオツノジカが圧倒的に優勢であるが,より冷涼な気候を好む"マンモス動物群"の一要素とされるヘラジカがそれに加わることは,野尻湖地域の環境変遷を考察する上で重要である.このヘラジカは日本最古の化石記録で,MIS3以前の本州にヘラジカが生息したことを示す.そして後期更新世の古気候や海洋地形等から推測すると,ヘラジカが日本列島へ侵入したのはMIS4の寒冷期であった可能性が高い.