著者
大沢 愛子 前島 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.40-44, 2020-01-25 (Released:2020-02-18)
参考文献数
27

認知症に対する非薬物療法は,薬物療法と対をなし,MCIから重度の状態まで,様々な病期において実施可能な治療法である.また,非薬物療法では,患者本人へのアプローチのみならず家族へのアプローチも可能であり,家族にとっても意義のある治療法である.本稿では認知症に対する非薬物療法の原則を述べ,その後,代表的な非薬物療法を紹介しながら,そのエビデンスについて説明を加える.
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.21-28, 2012-03-31 (Released:2013-04-02)
参考文献数
41
被引用文献数
3 2

かつては Silent area と言われた前頭葉前野にも多くの脳機能が存在し, 人が生きていくために非常に大切な役割を果たすことが明らかとなってきた。前頭葉損傷では, 失語症や半側空間無視に加え, 記憶障害, 注意障害がみられる。また, 遂行機能障害に加え, 脱抑制や人格変化などの社会的行動障害, 発動性低下や無関心などの症状がみられる。前頭葉損傷を論じるためには, 前頭葉の機能解剖や病態生理を理解した上で, 詳細な評価を行わねばならない。ただし前頭葉機能検査の多くは, 限局した前頭葉病変に特異的な検査ではなく, 別の部位の損傷によっても低下がみられることもあるので注意が必要である。適切な評価を行い, 病状を正確に把握することは, 患者が快適な社会生活を送るための第一歩になると思われる。
著者
武田 有希 大沢 愛子 前島 伸一郎 西尾 大祐 木川 浩志
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.17-24, 2011-01-25 (Released:2011-01-26)
参考文献数
18
被引用文献数
9 6

回復期リハビリテーション(リハ)病棟における摂食嚥下障害の予後について検討した.対象は,発症1カ月の時点で経管栄養の患者47名(脳出血17名,脳梗塞19名,くも膜下出血11名)で,平均年齢は71.0±12.6歳であった.これらの患者の背景因子,身体機能,認知機能,嚥下機能,日常生活活動(ADL)を評価し,退院時に3食経口摂取の患者(経口群)と,経管栄養の患者(非経口群)の2群に分け比較した.また,原因疾患と嚥下障害の経過を検討した.その結果,経口群は非経口群に比べ年齢が若く,在院中の身体機能,認知機能,嚥下機能,ADLの改善が大きかった.脳出血の患者は発症6週から急速に改善したが,くも膜下出血の患者では発症後8週頃より改善した.以上から,脳卒中の嚥下障害の予後を考える上で,疾患による差に留意し,嚥下のみでなく身体機能,認知機能を高めるような訓練の継続が必要だと考える.
著者
吉村 貴子 前島 伸一郎 大沢 愛子 関口 恵利
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.361-372, 2008-12-31 (Released:2010-01-05)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

時計の絵および指定された時刻を描く Clock Drawing Test (CDT) について,さまざまな実施および評価方法が提唱されている。それぞれの信頼性や妥当性などについての研究は多いが,多数の CDT 実施および評価方法を同一症例群に施行し比較した報告はない。今回われわれは,“もの忘れ”外来を受診した患者41 名 (男性11 名,女性30 名) に対して,さまざまな CDT 実施および評価方法を多く比較することにより,それらの信頼性と妥当性,そして認知症診断への役割について検討した。CDT の施行中の症例の様子と症例のプロフィールなどを知らない評価者2 名がそれぞれの CDT を採点した。  その結果,その他の神経心理学的検査と相関が高く,年齢や教育歴の影響を受けにくく,罹患期間をより評価し,また認知症の重症度や類型診断への一指標として有用な方法は,外円をあらかじめ示した CDT である可能性が示された。
著者
鈴村 彰太 大沢 愛子 植田 郁恵 森 志乃 近藤 和泉 前島 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10430, (Released:2016-09-15)
参考文献数
20

失行は日常生活活動(activities of daily living: ADL)に大きな影響を及ぼすが,症候が複雑で行為の誤り方に個別性・多様性が存在するためリハビリテーション手法の確立は困難で,その障害や治療に関する詳細な検討もほとんどない.我々は左頭頂側頭葉のアテローム血栓性脳梗塞で,ごく軽度の右片麻痺と感覚障害に加え,観念失行・観念運動失行・肢節運動失行を呈した82 歳女性を経験した.特に食事動作に関し,右手では困難な動作をまず左手で実施し,その後道具を右手に持ち替える方法を取り入れ,誤りなし学習を徹底したところ,動作の自立を果たした.本症例の改善機序として,左上肢の使用により右上肢の体性感覚が補われたことで,誤りの認知や道具使用に関する意味概念への到達が可能となり,正しい運動プログラムの惹起が促進されて,右手の運動学習につながったものと推察された.
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 西尾 大祐 平野 恵健 木川 浩志 武田 英孝
出版者
Japanese Society of Prosthetics and Orthotics
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.46-50, 2013

医用工学の進歩に伴い,医療・福祉の領域においてもロボット技術が応用されている.なかでも,筋力が低下した高齢者や運動機能障害を有する人の自立支援や,介護支援などへの適用が期待されている装置がロボットスーツ Hybrid Assistive Limb (HAL)<sup>®</sup> である.HAL は生体電位信号を活用し,人間・機械・情報系の融合複合体技術を駆使したサイボーグ型ロボットである.脳卒中片麻痺に対するHALの効果について,現時点においてはほとんど検証されておらず,装着に手間がかかり,介助が増え,疲れやすい等の欠点も否めないが,将来性は高く,今後,装具あるいは訓練器具として,リハビリテーションへの利用が期待される.
著者
前島 伸一郎 岡本 さやか 岡崎 英人 園田 茂 大沢 愛子
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.322-332, 2016-12-25 (Released:2017-01-18)
参考文献数
53
被引用文献数
2

視床病変では,運動障害や感覚障害などの神経症状だけでなく,失語症や半側空間無視,記憶障害など多彩な神経心理学的症状をしばしば伴う.一方,失語症を伴わない読み書きの障害が単独でみられることは少ない.読み書きの障害を生じる視床の局在病変として明らかにされているのは,背内側核(DM核)と外側腹側核(VL核),後外側腹側核(VPL核)であり,それぞれ大脳皮質の前頭葉,運動関連領野,感覚野へ投射する.既報告例の多くで,SPECT検査が実施され,同側の頭頂葉や前頭葉,側頭葉の皮質・皮質下に局所脳血流の低下による機能的病変が示されている.
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.222-228, 2017-12-25 (Released:2018-01-11)
参考文献数
13

大脳内側面や底部(眼窩部)の障害を理解するために,その構造・機能とネットワークについて,臨床医の立場から概説した.その中でも,特に臨床的に重要と思われる,上前頭回や帯状回,楔前部,眼窩面などに関して解説を加えた.これらの部位は,その領域内で局在的に重要な役割を担っていること多いが,線維連絡による他の部位とのネットワークの形成によって,より多くの行動や情動,認知機能とも関連している.これらの解剖的関連を知っておくことは,臨床においても研究においても極めて重要なことである.
著者
山田 裕子 前島 伸一郎 片田 真紀 阿部 泰昌 爲季 周平
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.244-250, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

脳梗塞による右大脳半球損傷で失語症を伴わない口腔顔面失行を呈した症例を報告した。症例は64 歳の右手利きの男性で,左手利きの家族性素因はなかった。神経学的には顔面を含む左片麻痺と左半身の感覚障害を認めた。神経心理学的には,口腔顔面失行,左半側空間無視,注意障害,構成障害を認めた。失語症や観念失行,観念運動失行はなかった。頭部MRI では右中大脳動脈領域の広汎な梗塞巣が認められた。本症例の言語機能は左半球優位に,口腔顔面の随意運動に関する機能は右半球優位に側性化されている可能性が示唆された。一般的に口腔顔面失行は失語症に伴うことが多く,発語に関する半球に密接に関連すると考えられているが,言語と口腔顔面の随意運動に関する神経機構は互いに独立して存在しうるものであると考えられた。また失行の中でも口腔顔面と上肢の行為の神経機構は異なる半球間に側性化されていると考えられた。
著者
出口 一郎 荒木 信夫 前島 伸一郎 武田 英孝 古屋 大典 加藤 裕司 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.749-754, 2008 (Released:2008-10-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

症例は59歳女性.突然の眩暈,嘔吐のため当院へ救急搬送された.頭部MRI拡散強調画像上,左上小脳動脈灌流域に急性期脳梗塞所見を認め,加療を開始した.入院後上記症状の改善を認めたが,入院5日後に施行した神経心理学的検査では記憶・遂行機能などの認知機能の著明な障害を呈し,SPECTでも両側基底核,小脳,側頭葉,頭頂葉および前頭葉におよぶ広範な血流低下がみられた.入院約1カ月および2カ月後の神経心理学的検査では認知機能の著明な改善を認め,SPECTでも上記部位の血流は改善していた. 本症例は小脳梗塞にて認知機能障害を呈したCerebellar cognitive affective syndromeと考えられた.従来,認知・行動障害は小脳後方領域の障害,また感情障害は虫部の障害と関連があるとする報告や,認知障害は後下小脳動脈領域の障害で生じ,上小脳動脈領域の障害では生じないという報告があるが,本症例では上小脳動脈領域の梗塞で遂行機能障害を呈し,情動性変化は認められなかった.
著者
辰巳 寛 佐藤 正之 前島 伸一郎 山本 正彦 波多野 和夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.243-252, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
参考文献数
108

19 世紀フランスの外科医 Paul Broca (1824 ~1880) による Leborgne とLelong の臨床神経病理学的報告は, 今日の「失語症学aphasiology」あるいは「言語の神経心理学 neuropsychology of language」の誕生に大きく貢献した。前頭回の一つ (おそらく第三) , une circonvolution frontale (probablement la troisième) を「構音言語の座 le siège de langage articulé」として推究した Broca は, その領域の部分的損傷により惹起する特異な話し言葉の喪失 perte de la parole をaphémie と名付けた。 Broca の aphémie は, Armand Trousseau (1801 ~1867) によるaphasie/aphasia (失語症) への呼称変更を経て, Carl Wernicke (1848 ~1905) による感覚失語sensorische Aphasie, および伝導失語 Leitungsaphsie の記載, その後の Ludwig Lichtheim (1845 ~1928) の失語図式 Wernicke-Lichtheimʼs AphasieScheme (1884) による古典的失語論の萌芽とともに, 当初 Broca が提唱した言語病理像とは些か様相の異なる「皮質性運動失語 kortikale motorische Aphasie」として位置付けられ, 以後広く認知されるに至った。 Broca の独創的研究から派生した失語学的問題の幾つかは, 現代に至っても決定的解答は得られておらず, 失語症研究の最重要テーマとして存在し続けている。
著者
武田 有希 前島 伸一郎 大沢 愛子 西尾 大祐 木川 浩志
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.251-257, 2010-12-31 (Released:2020-06-27)
参考文献数
21

【目的】回復期リハビリテーション(リハ)病棟において,入院時のベッドサイドの嚥下機能評価と退院時の摂食状況や転帰との関連について検討した.【対象と方法】対象は,回復期リハ病棟に入院し,摂食嚥下リハを行った93 名(脳出血33 名,脳梗塞41名,クモ膜下出血10 名,頭部外傷9 名)で,年齢は18~93 歳,男性54 名,女性39 名であった.これらの患者に対し,背景因子,認知機能,嚥下機能,日常生活活動(ADL),転帰などについて調査し,退院時に経口摂取可能であった群(経口群),経管栄養であった群(経管群)の2 群を比較した.【結果】経口群は64 名で,経管群は29 名であった.経口群は経管群に比べ,年齢が若く,Mini-Mental State Examination, Raven's Coloured Progressive Matrices の得点が有意に高かった.また,経口群では,咽頭反射が正常なものが13 名(20.3%)で,反復唾液嚥下テストが3 回以上のものが32 名(50.0%)と経管群に比べ有意に多かった.発症から入院までの期間,在院日数,改訂水飲みテストで差はなかった.また,経口群は,遅くとも入院後5 週までに直接訓練が可能となり,入院後10 週までに3 食経口摂取が可能であった.経管群は経口群に比べ,入院時,退院時のADL が良好であった.経口群は経管群に比べ,自宅退院が多かったが,経口摂取が可能であってもADL の低い患者は自宅退院が困難であった.【結論】嚥下障害を有する患者に対し,適切な評価を実施し,入院後5 週間の摂食の経過について観察することで,退院時の経口摂取の可否について推察することが可能であると思われた.
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 山根 文孝 栗田 浩樹 石原 正一郎 佐藤 章 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.98-105, 2011-01-25 (Released:2011-01-26)
参考文献数
25
被引用文献数
2

【目的】小脳出血急性期の臨床像と機能予後や転帰に及ぼす要因について検討した.【対象と方法】小脳出血45名(男性28,女性17)を対象に,初回評価時の神経症状に加え,嘔気・眩暈などの自覚症状,認知機能,嚥下機能,血腫量と退院時の日常生活活動,転帰先について検討した.なお,入院期間は平均24.6日であった.【結果】意識障害は11名に認めたが,いずれも血腫量が大きく,機能予後が不良で,自宅退院に至ったものはなかった.意識障害のない34名中,嘔気・眩暈を22名,四肢失調を19名,体幹失調を16名,嚥下障害を19名,構音障害を8名,認知機能障害を24名に認めた.自宅退院は12名で,日常生活活動が良好であると同時に認知機能と嚥下機能が保たれていた.【結語】急性期病院において,小脳出血の退院先を決定する要因には,意識障害や日常生活活動だけでなく,認知機能や嚥下機能も念頭におく必要がある.
著者
前島 伸一郎 土肥 信之 梶原 敏夫 佐野 公俊 神野 哲夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.480-483, 1990-10-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

混合型超皮質性失語を呈した1例を報告し, 局所脳血流からみた責任病巣と発現機序について考察した.症例は67歳の右利き女性で, 左内頚動脈・前脈絡叢動脈分岐部の動脈瘤クリッピング術後, 右片麻痺と失語症のリハビリ目的で当科を受診した.初診時, 意識は清明で, 右顔面神経麻痺と右片麻痺を認め, 右半身の知覚鈍麻を認めた.言語学的には自発話に乏しく, 呼称や語の想起は著しく障害をうけていた.しかし復唱は良好で, 5~6語の短文でも可能であった.言語の聴覚的理解や文字の視覚的理解はともに単語レベルで障害をうけ, 書字は全く不可能であった.CTでは左前脈絡叢動脈領域に低吸収域を認めたほか, 左中前頭回皮質~皮質下にも低吸収域を認めた。123I-IMP SPECTでは左大脳半球全体に血流低下を認めるが, 言語野周囲の血流は比較的保たれていた.本症例は言語野が2ヵ所の病変によって周辺の大脳皮質から孤立した状態であると推定された.
著者
大沢 愛子 前島 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.192-205, 2008-06-30 (Released:2009-07-01)
参考文献数
62
被引用文献数
3 5

小脳は,長い間,純粋に運動の調節や制御を行うための神経基盤であると考えられてきた。しかし,1980 年代の半ばごろから,小脳と高次脳機能の関連性を示唆するような解剖学的,神経心理学的な種々の報告がなされるようになってきた。特に,近年の電気生理学や神経画像の発展に伴い,注意や記憶,視空間認知,計画,言語などに関するさまざまな課題の遂行に,小脳が関与していることが明らかになってきた。臨床的にも,脳卒中や自閉症,注意欠陥・多動性障害例などで小脳病変と認知機能障害に関する報告がみられる。   小脳と高次脳機能の関連についての仮説としては,小脳が内部モデルによる行為のモニターとフィードバックを行うとする説,情報処理の円滑な協調化を行うとする説,タイミングの制御を行うとする説などがある。しかし,これまでの研究には,運動出力との分離が困難である,前頭葉の賦活を伴うなどの種々の問題点もあり,小脳がどのように認知機能に関連しているのか,という問いに答えるためのエビデンスの構築が望まれる。
著者
吉村 貴子 前島 伸一郎 大沢 愛子 苧阪 満里子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.484-491, 2016-12-31 (Released:2018-01-05)
参考文献数
30
被引用文献数
3 1

言語流暢性課題 (Word Fluency Test: WFT) には, 意味流暢性課題 (Category Fluency Test: CFT) と文字流暢性課題 (Letter Fluency Test: LFT) があり, 臨床における認知症の評価にも有用と考えられている。   今回われわれは, 認知症のWFT の成績とワーキングメモリ (working memory: WM) の関連について検討することで, 認知症の WFT に現れた WM の特徴を明らかにすることを目的とした。さらに, 認知症における WFT の結果によって, WM をどのように推定できるかについて考察した。   結果, 認知症においても WFT は WM と関与する可能性があり, 特に LFT の成績には WM がより関わりが強いことが示唆された。さらに, アルツハイマー病と前頭側頭型認知症によって, WFT の遂行に関与する WM の特徴が異なる可能性も示された。   これらより, 認知症タイプによって WFT の遂行に必要な WM の側面が異なる可能性について考察した。
著者
舟橋 怜佑 前島 伸一郎 岡本 さやか 布施 郁子 八木橋 恵 浅野 直樹 田中 慎一郎 堀 博和 平岡 繁典 岡崎 英人 園田 茂
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10516, (Released:2017-06-13)
参考文献数
35

【目的】リハビリテーション(リハ)目的で入院した右被殻出血患者を対象に,半側空間無視の有無やその検出法に関与する要因について検討した.【対象と方法】対象は回復期リハ病棟に入院した右被殻出血103 名で,発症から評価までの期間は40.5±27.4 日.発症時のCT より血腫型を評価し,血腫量を算出して,半側空間無視がみられたかどうかや,その検出法を診療録より後方視的に調査した.【結果】半側空間無視は103 名中58 名(56.1%)でみられた.血腫量が多く,血腫が内包前後脚または視床に及ぶ広範な場合に半側空間無視は高率にみられた.半側空間無視の検出率は消去現象と注意で最も高く,次いで模写試験,視空間認知の順であった.【結論】回復期リハの時期でも被殻出血の半数以上に半側空間無視を認め,その発現には血腫量や血腫型が関与した.半側空間無視の検出に複数の課題を用いることで,見落としを大きく減らすことができた.
著者
吉村 貴子 苧阪 満里子 前島 伸一郎 大沢 愛子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.199-208, 2010-12-31 (Released:2012-02-29)
参考文献数
36

もの忘れをはじめ,言語,遂行機能, 問題解決などの様々な認知機能障害を呈する疾患のひとつに認知症がある(DSM-IV)。リーディングスパンテスト(RST, Daneman & Carpenter, 1980)はワーキングメモリ(Working Memory: WM)を測定する検査のひとつであり,前頭葉機能を反映すると考えられている。本研究はSPECTによる局所脳血流(regional cerebral blood flow (rCBF))をRSTの成績に基づいて分析することにより,RSTの成績差からみた,もの忘れを訴える患者の脳循環動態の相違や,RSTの認知症診断における有用性について考察することを目的とした。対象は,もの忘れを主訴として来院した在宅高齢者33 名であった。検査は,高齢者版RST(苧阪,2002),MMSE,SPECTを実施した。RSTの成績を高得点群と低得点群に分けて,領域別rCBF について統計分析を行った結果,RST高得点群と低得点群のrCBFの間に有意差を認める脳領域があった。しかし,MMSEの成績によりMMSE高得点群とMMSE低得点群に分けて各rCBFを分析すると,いずれの脳領域のrCBFにおいても有意差を認めなかった。さらに,認知症タイプ間にも各脳領域のrCBFに有意差を認めなった。以上より,RSTの成績差に影響を与えると考えられる脳領域や,RSTの臨床的意義について考察をした。
著者
前島 伸一郎 種村 純 重野 幸次 長谷川 恒雄 馬場 尊 今津 有美子 梶原 敏夫 土肥 信之
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.123-130, 1992-02-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
22
被引用文献数
3 2 5

言語訓練をうけることができなかった脳血管障害による失語症患者30例を対象に,失語症状の自然経過を経時的に評価し,年齢,性,原因疾患,失語症タイプ等との関係を検討した,言語理解は,健忘型で3ヵ月まで改善を認め,他のタイプでは6ヵ月以降にも改善を認めた.発話は,健忘型で3ヵ月まで,表出型,受容型では6ヵ月以降にも改善を認めた.表出-受容型は初期よりほとんど改善を認めなかった.書字は表出-受容型を除くすべてのタイプで3~6ヵ月以降にも改善を認めたが,表出-受容型では初期より改善を認めなかった.重度の失語症では,非訓練例は訓練例のような改善を認めないため,体系的な言語訓練が必要と思われた.