著者
児玉 雄二 青木 啓成 坂本 義峰 村上 成道
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CaOI2035-CaOI2035, 2011

【目的】<BR>我々は某長野県立高校野球部(野球部)の一学年に対してメディカルチェック(MC)を定期的に行い、経過と結果について、第44・45回日本理学療法学術大会、第7回肩の運動機能研究会において報告した。MCの特徴は当センターで実施している体幹機能と運動軸の評価の中で8種目をパフォーマンステスト(PF)として行い、体幹を中心とした全身機能評価の一つの指標としている。今回の目的は、1.PFの評価と対応が腰痛の改善と予防に関係があるか検証すること、2.腰痛とその他の障害の関連性を探ることである。<BR>【方法】<BR>対象は野球部の一学年25名について、MCを入学時から3年生4月までの2年間に4月、8月、12月の年3回、計7回実施した延べ175名のうち、外傷の2名を除く173名である。MCの評価内容は障害部位の確認、練習休養の有無、PF、関節可動域(ROM)から成り、PFは8種目のテストで合計12点を満点とした。ROMは股関節、肩関節、肘関節の3関節について計11項目を測定し、肘関節と股関節は左右差なしを1点、肩関節は左右差10度以内を1点とし合計11点を満点とした。MCを実施したのべ173名について、腰痛を訴えた選手を腰痛群、他の障害はあっても腰痛が無い選手を腰痛なし群、全く障害が無い選手を障害無し群と3群に分けて全MCやMC毎のPF、ROMについて比較検討した。検定にはMann-WhitneyのU検定、Wilcoxonの符号付き順位検定を用いた。有意確率は5%未満とした。なお今回の腰痛は、野球動作において全力でプレーが行えたとしても、腰部周囲の痛みを訴えるすべてを腰痛とした。部位は腰部を中心に上部は肩甲骨下角付近で、下部は仙腸関節付近までとした。<BR>【説明と同意】<BR>MCは野球部の依頼で実施し、事前に指導者と選手にはMCについての説明を行ない同意を得た。<BR>【結果】<BR>のべ173名のうち腰痛群は36名、腰痛無し群は47名、障害無し群は90名であった。入学後の4月と8月のMCにおいて腰痛を訴えた3名は全員中学校期にも腰痛の既往があり、うち2名は腰椎分離症と診断されていた。1年生で行なった3回のMCでは腰痛群は3名であったが、2年生4月では6名、8月では9名になった。その後腰痛群の人数は減少し、2年生12月は4名、3年生4月は5名と推移したが、全7回のMCのすべてに腰痛を訴える選手はいなかった。腰痛群が最も増加した2年生8月とその前の2年生4月での3群間比較において、ROMは腰痛群と障害なし群が有意に低下していたが、PFでは障害なし群のみ有意に向上していた(P<0.05)。全7回のMCにおける3群間比較では、腰痛群のPFが低下する傾向を認めた(P=0.097)。腰痛群で同時期にその他の身体部位に障害を有していたのは18名であり、その50%は肩関節痛で、肘関節痛は27%であった。高校入学以降で腰椎部の変性疾患や、分離症等の診断を受けた選手は無く、腰痛による1週間以上の長期休養した選手はゼロであった。<BR>【考察】<BR>腰痛群の約80%は肩関節と肘関節に疼痛を訴えていた。我々はMCにおける肩関節痛の先行研究において、肩関節痛とPFにおいて有意差が有ることを確認している。今回も全MCにおける腰痛群は障害無し群に比しPFが低下している傾向が認められており、PFの低下が障害発生に関係している事がうかがえた。一般的に腰痛をきたす要素は腰椎周辺組織の変性の他、股関節や上部体幹の可動域制限、自律神経系、メンタル等、要因が多岐に及ぶためROMやPFに相関はみられないと仮定していたが。しかし、今回の結果より腰痛群と障害無し群においてPFが関係している事がうかがえたので、早期より体幹機能と運動軸の問題を評価し対応することによって、腰痛やその他の障害の予防に繋がる可能性が示唆された。今後もよりシンプルで効果的なMCを実施することによって、障害予防をしつつ効率的なトレーニングが継続できるように参画したいと考えている。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>我々の臨床や現場における経験において、以前は腰痛を訴える高校野球選手の評価と治療を行なっても、疼痛の持続により練習休養を余儀なくされるケースが散見されていたが、体幹機能と運動軸の評価結果に基づいたセルフケアとトレーニングを指導する事によって、腰痛で練習を長期休養するケースはみられなくなった。今後も臨床やMC等の野球現場において、効率的で効果的な評価と治療が実施できるよう検証してゆきたい。
著者
唐澤 俊一 青木 啓成 村上 成道
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第28回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.123, 2009 (Released:2009-08-11)

【目的】上腕骨近位端骨折に対する骨接合術は、プレートや髄内釘などを用いて施行されるが、臨床上、関節可動域が十分に確保されないまま理学療法(以下、PT)を終了する症例が散見される。また、骨接合術後のPTに関する報告は少なく、その要点は明らかにされていない。今回、骨接合術後症例の経過からPTプログラムについて検討する。 【方法】対象は、2003年4月から2008年9月までに当院整形外科にて手術を施行された15例(男性7例、女性8例)、プレート固定8例(LHSP2例、PHILOS6例)、髄内釘固定7例、平均年齢60.9±13.5歳。術後PTは2日以内に開始された。退院後は外来リハビリへ移行した。PT終了時の他動屈曲角度(以下、屈曲)120°以下を成績不良群として、成績良好群との比較を行なった。調査項目は、術式、年齢、術前待機期間、PT内容、骨癒合と転位やスクリューの緩みの有無、屈曲の経時的変化および改善率(各時期の前回の値を基準値として、各時期の値/基準値×100-100)、PT終了時の平均屈曲として調査し、屈曲の経時的変化と改善率は、術後1週、2週、3週、6週、3ヶ月、6ヶ月の値から算出した。 【結果】成績良好群11例、不良群4例。術式は、良好群プレート6例、髄内釘5例、不良群プレート2例、髄内釘2例。平均年齢は、良好群57±12.3歳、不良群71.8±11.6歳。平均術前待機期間は良好群5.8±2.7日、不良群12.5±10.1日。PT内容は、翌日から振り子、他動運動開始、3週より積極的な自動運動を開始。良好群1例に大結節の上方転位を認めたがほぼ全例骨癒合した。スクリューの緩みは両群1例ずつであった。屈曲の変化は、良好群では術後6週までに終了時屈曲の約90%が確保されていたが、不良群では2週から6週の可動域は停滞する傾向にあった。改善率は、良好群1週~2週12.4%、2~3週5.7%、3~6週8.4%、6週~3ヶ月4.6%、3~6ヶ月2.7%。不良群1~2週14.4%、2~3週-0.5%、3~6週4.2%。終了時平均屈曲は良好群159.1±8.6°、不良群112.5±8.6°であった。 【考察】術後成績においては、高齢、術前待機期間の長期化による関節内の瘢痕組織形成、早期のスクリューの緩みによる疼痛などが影響を与えると考えられた。肩甲胸郭関節の柔軟性低下、創部や関節内の炎症に伴う肩甲帯の緊張は、肩甲上腕関節の運動を阻害するため、安易に振り子運動や他動運動を進めるべきではないと考える。術後2週までの期間では、過度な緊張を抑え、肩甲胸郭関節の動きの獲得に重点を置く必要がある。特に可動域拡大の難渋が予測される症例では、2週以降に生じる関節内の組織間の癒着や軟部組織の連結障害を重視し、肩甲上腕関節の運動性の低下を最小限に抑える必要がある。
著者
青木 啓成 村上 成道 児玉 雄二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101362, 2013

【はじめに、目的】野球による肘関節障害は、内側型、外側型、後方型に分類される。特に内側型の障害が多く、内側上顆障害、内側側副靭帯損傷、尺骨神経障害などがある。尺骨神経障害はしびれのみでも競技能力に影響を与え、保存療法に抵抗する場合があるため手術治療を要することが多いと報告されている。尺骨神経障害は手術療法の報告はあるものの、理学療法アプローチに関する報告は渉猟した限り見あたらない。今回、投球を契機に生じた尺骨神経障害に対する保存療法を経験したので、共通所見と具体的な理学療法について報告する。【対象、方法】対象は2007年1月~2012年9月までに当センターで尺骨神経障害と診断され理学療法が処方された4例である(年齢14歳~16歳)。受傷機転につては、3例は一球投球した際に強い痛みが増強したエピソードがあり発症から受診までの期間は3~4週であった。1例は肘伸展位荷重時に強い痛みを生じ、受診までに3ヶ月経過していた。主訴は肘関節自動運動での肘内側の痛みに加え、ランニングで痺れや痛みが増強し、投球は困難であった。4例の共通所見は、肘関節は10~20度の伸展制限(健側比)を認め、肩関節は外転90度内旋、伸展制限が顕著であった。チネルサインは上腕内側遠位に認め、小指外転筋力の低下や尺骨神経領域の感覚障害は認めなかった。触診上は上腕内側・外側筋間中隔、円回内筋、肘筋と上腕三頭筋の付着部に滑動障害を認めた。競技復帰の条件は、しびれや痛みがなくランニング・バッティングが可能になり、かつ塁間投球が80%の強度で可能となることとし、復帰までの経過を後方視的に診療録より調査した。【倫理的配慮、説明と同意】患者・保護者には初回受診の際に個人データの使用許可を得た。【結果】治療方針は初診から3週間の理学療法で症状が改善しない場合に投薬とMRI検査を実施し、6週間で改善を認めない場合は神経伝導速度の検査を実施する。4例中、投薬、MRI検査、神経伝導速度検査を実施したのは1名であった。3例の競技復帰までの期間は受傷後12.5週~14週であった。受診までの期間が長かった1例はバッティングが可能になったが、十分な強度の投球が困難で完全復帰できなかった。理学療法プログラムは、まず、肘関節の伸展制限の改善を最優先した。徒手的に橈骨頭周囲のmobility改善、肘頭外側・肘筋下の癒着改善をはかり、更に上腕外側・内側筋間中隔の滑動性の改善のために徒手で同部位を圧迫しながら肘関節の他動運動を反復した。また、初期には肘関節の自動運動を中止し、他動運動を推奨したことが可動域改善に有効であった。肩・肘関節可動域と肘・上腕の軟部組織の滑動性を改善させることで徐々にチネルサインは消失し、受傷後6週程度でランニングが可能となった。その後バットスイングを開始し、肩甲帯・体幹の柔軟性・安定性や肘周囲の筋力を高めながらバッティング練習、シャドーピッチングへ移行した。シャドーピッチングの痛みが無くなった段階で実際の投球へと進めた。【考察】いずれの症例も緩徐に運動時痛が増強するのではなく、急激な運動時痛が特徴である。そのため、肘内側から後面に炎症症状をきたした可能性が高く、尺骨神経周囲の軟部組織や内側筋間中隔の癒着が症状の要因であったと考えられた。内側筋間中隔の癒着部は徒手的に圧迫するとしびれが出現しやすい。そこで同部位の滑動を改善させるために、まず上腕遠位外側筋間中隔ならびに上腕筋と上腕三頭筋の連結障害を改善させた。結果的にそれが上腕内側筋間中隔の緊張を緩和することにつながり、尺骨神経のストレス減少につながったと考えられた。林は超音波解剖所見より上腕骨小頭前面の60%を上腕筋が覆被すると報告している。つまり、上腕筋の緊張緩和は肘関節伸展制限の改善にも大きく影響したと考えられ、肘筋周囲の滑動性改善のみでは伸展制限は改善しなかった可能性が高い。肘の伸展制限の改善を最優先したことで日常生活上の上腕部のリラクゼーションが得られたことも改善要因の一つであったと考えられた。また、セルフケアとしての肘関節自動運動は、結果的に上腕二頭筋・三頭筋の緊張を高めることになってしまったことから上腕筋間中隔の緊張が緩和されないことが推察された。そこで自動運動を中止し、他動運動に切り替えたことは初期の肘関節可動域改善において重要なポイントであった。尺骨神経障害の理学療法において注意する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】野球による尺骨神経障害に関する保存療法や理学療法については具体的な報告が皆無である。このような臨床症例の報告は患者の症状改善のみならず理学療法士の治療技術の発展のためにも意義があると考える。
著者
両角 淳平 青木 啓成 村上 成道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】Jones骨折は難治性の骨折であり,TorgやKavanaughは保存療法において22-67%が遷延治癒もしくは偽関節になると報告していた。現在の治療方針は,競技への早期復帰のために髄内固定による手術が中心となっており,手術治療の実績に関する報告が多い。その一方で,術後の再発例における報告も散見され,三河らは遷延治癒や術後の再骨折を来した症例に対して,スクリューの適合性を高めるために再手術を優先すると報告している。当センターでは,遷延治癒の傾向にあるJones骨折に対し,セーフス(SAFHS4000J,TEIJIN)による超音波治療と継続的な理学療法の介入を行っている。本研究は,Jones骨折を発症した選手の身体特性を詳細に検討する事,また改善させる事を目的とした理学療法が,競技復帰と再発予防へ与える影響について検証した。【方法】当院を受診した高校サッカー選手4例を対象とした。3例は,保存療法を行っていたが4週経過し仮骨が出現しない症例であり,1例は,他院での内固定術後に2回の再骨折を繰り返し,約1年間の遷延治癒を来していた。セーフスによる治療と理学療法を,競技復帰1ヶ月後まで継続した。理学療法では,第5中足骨近位骨幹部へストレスを与える要因として,足部・足関節及び股関節機能における身体機能因子と,姿勢や動作パターンの運動因子を挙げ,特有の障害パターンを検討し,その改善に努めた。介入頻度は,仮骨が出現するまでは週に1回,骨癒合が得られた以降は2週に1回とした。介入時は医師と協議し,運動負荷量を確認した。セーフス開始にあたり,骨折部へ的確に照射するよう透視下のマーキングを行った。4例の治療経過として,再発の有無と免荷期間,ランニング開始,競技全復帰,仮骨形成,骨癒合までの日数を集計した。【結果】4例全てにおいて,再骨折や遷延治癒を認めず競技復帰が可能であった。免荷期間は発症から平均24.3日(3-4週),ランニング開始は82.5日(10-14週),競技全復帰は126日(13-23週)であった。また仮骨形成を認めたのは64日(7-11週),完全骨癒合は113.8日(11-21週)であった。特有の障害パターンにおいて,身体機能因子のうち足部・足関節では,内反足(内側縦アーチの増強と前足部内転,後足部回外位)と,第5趾の可動性低下(足根中足関節や第4,5趾の中足間関節の拘縮)を認め,股関節では屈曲及び内旋制限が生じていた。運動因子は,片脚立位とスクワット,ランジ動作で評価し,いずれも股関節の外旋位をとり,小趾側が支点となり,重心は外側かつ後方への崩れが生じていた。筋力は,腸腰筋と内転筋,腓骨筋で低下を認めた。足部への具体的なアプローチは,第5中足骨へ付着し,かつ距骨下関節の可動性低下にも影響する長・短腓骨筋の短縮や,内反接地の反応により過活動が生じる前脛骨筋腱鞘や長母趾屈筋の軟部組織の柔軟性低下を徒手的に改善させた。足関節,股関節の可動域の改善後,姿勢・動作で重心の補正を行った。低下していた筋力に対して,単独での筋力強化は行わず,姿勢・動作練習を通して意識的に筋力の発揮を促した。【考察】治療過程において,運動強度の拡大については,X線による骨の状態を確認しながら検討し,仮骨形成後にランニングを開始し,骨癒合後に競技全復帰を許可した。しかし,X線上の問題がなく,圧痛や荷重時痛が一時的に減少しても,骨折部周囲の違和感や痛みの訴えは変動するため,継続的に運動強度の調整を行った。運動負荷の段階的な拡大に伴い,特有の障害パターンが再燃するため,骨癒合が得られるまでの期間は,早期に発見し修正するための頻回な介入が必要であると考えられた。術後の復帰過程において,横江らは,術後1週で部分荷重,3週で全荷重,2ヵ月でジョギング,3ヵ月で専門種目復帰としている。今回の4例の平均値と比較すると,ジョギング開始と競技全復帰までの期間は,約1ヶ月程度の遅れに留まった。理学療法により骨折部へのストレスを軽減させ,症状の変動に応じて運動負荷の調整を継続的に行う事は,骨癒合を阻害せず,保存療法であっても競技復帰に繋げられると考えられる。【理学療法学研究としての意義】手術及び保存のどちらを選択しても,骨折部の治療だけでは再発予防としては不十分である。身体特性から発生要因を検討し,その改善に向けたアプローチを充実させる事は,スポーツ障害における理学療法の捉え方として重要であると考えられる。
著者
青木 啓成 児玉 雄二 小池 聰 長崎 寿夫 山岸 茂則 奥田 真央 谷内 耕平
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0312-C0312, 2006

【目的】長野県理学療法士会社会局スポーツサポート部では長野県高校野球連盟の依頼により、1999年より硬式野球大会のメディカルサポート(以下サポート)を開始し、2000年より全国高等学校野球選手権長野大会(以下長野大会)一回戦よりサポート体制を整備した。また、硬式・軟式の他公式戦のサポートも開始し、長野県の高校野球選手の傷害予防とコンディショニングに取り組んできた。今回は第87回硬式長野大会のサポート結果を分析し、1回戦からのサポート体制の必要性を明確にすることを目的とした。<BR>【長野県高校野球サポート体制】硬式は長野県下の6球場に、軟式は2球場に原則1日2名の理学療法士(以下PT)を配置し、硬式・軟式の長野大会・県大会サポートを行った。内容は選手への個別対応を原則とし、試合後のチームごとのクーリングダウンなどは行わなかった。参加PTはスポーツサポート部高校野球部門に登録した63名であり、大会事前研修は年2回実施した。研修は障害特性を考慮し、補助診断として肩関節の理学所見を中心に研修を行い、専門医の受診を推奨できるようにした。また、ストレッチ・テーピング等の実技研修も行った。<BR>【対象・方法】調査大会は、第87回硬式長野大会に参加した98校を対象とした。同大会のサポート結果を集計し、大会ベスト16前・後(以下B16前・後)の選手の利用状況と障害の特徴とサポート内容について調査し、大会期間中のサポート体制について検討した。<BR>【結果】球場のサポート室を利用した選手は延べ78名、同大会参加PTは延べ74名であった。全体のサポート実施時期は試合前22件、試合中16件、試合後39件で試合後の利用が多かった。症状は急性期41件、亜急性期20件、慢性期19件であり、主訴は安静時痛16件、運動時痛54件、疲労21件で急性期・運動時痛への対応が最も多い傾向にあった。利用・治療回数は1回が65件、2回10件、3回3件であった。障害部位は肩関節23件、腰背部12件、次いで肘関節、足関節、大腿・下腿の順に多い傾向であった。治療内容はストレッチ33件、テーピング29件、アイシング26件であり、コンディショニング指導が40件であった。B16前後で比較すると試合後利用は圧倒的にB16前に多く59%、主訴に関しては安静時・運動時痛に差はないものの疲労がB16前26%、B16後14%であった。<BR>【考察】選手の利用時期はB16前の利用者が圧倒的に多いことから、一回戦からのサポート体制の妥当性と重要性が示唆された。障害部位は過去の実績同様、肩関節、腰背部障害が多く、障害特性となっている。B16前の急性期症状・疲労が多いことは慢性・陳旧性障害が大会前に悪化、または再発している可能性も考えられる。以上により、的確なサポートを実施するために、補助診断としての理学所見が必要であり、さらには、大会期間中のみでないサポートやメディカルチェックの検討が必要であると考えられた。<BR>
著者
関 悠一郎 青木 啓成 児玉 雄二 唐澤 俊一 村上 成道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0933, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】古府らによりアキレス腱保存療法を奨励する報告はされているが、保存療法のリハビリテーションに関する報告は少ない。当院におけるアキレス腱保存療法の治療成績について報告する。足関節可動域に着目し、装具除去(通常9.5週にて除去)時に関節可動域(以下ROM)が平均以下の症例について、原因を紹介し装具固定期間のROM訓練施行上の課題を検討したので報告する。【対象・方法】対象は平成18年12月から平成19年11月の間に受傷、保存療法を行った23例、平均年齢41.1歳(25~72歳)、男性15名、女性10名。装具療法は受傷・ギプス固定1週の後、装具装着。直後から装具装着下での足関節自動底屈運動と部分荷重を開始。Thompson testの陰性化を認めた3週前後から自動背屈運動を開始。9.5週以降で装具除去、荷重下での底屈運動を開始する。足関節背屈のROMを受傷3週・6.5週・装具除去時・3ヶ月で測定し平均値を算出した。また受傷から復職までの期間、杖なし歩行獲得までの期間、つま先立ち・走行(軽いジョギング)が可能となるまでの期間について調査、平均値を算出した。【結果】受傷から3週の足関節背屈ROMは-9.5°(-20°~0°)受傷から6.5週-4.2°(-30°~10°)装具除去時5.0°(-5°~15°)3ヶ月9.6°(0°~15°)。復職は3.4週(0週~9週)杖なし歩行獲得3.9週(2週~8週)つま先立ち14.7週(13週~16週)、ランニング17.2週(14週~20週)。装具除去時のROMが平均以下の症例は、距腿関節のモビリティー低下2例、腓骨神経麻痺と麻痺の疑い2例、足趾・足関節底屈筋群の短縮と筋硬結の残存2例、edemaの残存2例、背屈に再断裂への恐怖心伴う1例を呈していた。【考察】古府らの研究では受傷後6.5週の足関節背屈ROMは平均-11°、3ヶ月で平均6.3°とし、つま先立ち4.1ヶ月、走行4.8ヶ月で獲得したと述べている。当院の結果は、ROMについては概ね報告を上回る結果となった。つま先立ちと走行開始の期間も概ね同様の結果であった。ROM制限を来した原因のなかで、特に距腿関節の可動性低下と、程度の差はあるが下腿三頭筋以外に足関節底屈に関与する筋の短縮と筋硬結を有する症例が多くみられた。断裂による侵襲に加え長期の底屈位固定と荷重を行なうことから、周囲筋が代償して疲労が蓄積した結果であると考えている。早期から距腿関節の可動性と下腿周囲筋・腱の柔軟性と腱鞘部の癒着の改善を図ることで装具除去後の機能改善や再断裂予防に役立つものと考えている。今後の課題として、装具除去後の抗重力運動をスムーズに獲得するため、腱の修復過程・代償作用を考慮し、効果的な装具療法中の運動プログラムを作成する必要性が示唆された。
著者
両角 淳平 青木 啓成 村上 成道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1037, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Jones骨折は難治性の骨折であり,TorgやKavanaughは保存療法において22-67%が遷延治癒もしくは偽関節になると報告していた。現在の治療方針は,競技への早期復帰のために髄内固定による手術が中心となっており,手術治療の実績に関する報告が多い。その一方で,術後の再発例における報告も散見され,三河らは遷延治癒や術後の再骨折を来した症例に対して,スクリューの適合性を高めるために再手術を優先すると報告している。当センターでは,遷延治癒の傾向にあるJones骨折に対し,セーフス(SAFHS4000J,TEIJIN)による超音波治療と継続的な理学療法の介入を行っている。本研究は,Jones骨折を発症した選手の身体特性を詳細に検討する事,また改善させる事を目的とした理学療法が,競技復帰と再発予防へ与える影響について検証した。【方法】当院を受診した高校サッカー選手4例を対象とした。3例は,保存療法を行っていたが4週経過し仮骨が出現しない症例であり,1例は,他院での内固定術後に2回の再骨折を繰り返し,約1年間の遷延治癒を来していた。セーフスによる治療と理学療法を,競技復帰1ヶ月後まで継続した。理学療法では,第5中足骨近位骨幹部へストレスを与える要因として,足部・足関節及び股関節機能における身体機能因子と,姿勢や動作パターンの運動因子を挙げ,特有の障害パターンを検討し,その改善に努めた。介入頻度は,仮骨が出現するまでは週に1回,骨癒合が得られた以降は2週に1回とした。介入時は医師と協議し,運動負荷量を確認した。セーフス開始にあたり,骨折部へ的確に照射するよう透視下のマーキングを行った。4例の治療経過として,再発の有無と免荷期間,ランニング開始,競技全復帰,仮骨形成,骨癒合までの日数を集計した。【結果】4例全てにおいて,再骨折や遷延治癒を認めず競技復帰が可能であった。免荷期間は発症から平均24.3日(3-4週),ランニング開始は82.5日(10-14週),競技全復帰は126日(13-23週)であった。また仮骨形成を認めたのは64日(7-11週),完全骨癒合は113.8日(11-21週)であった。特有の障害パターンにおいて,身体機能因子のうち足部・足関節では,内反足(内側縦アーチの増強と前足部内転,後足部回外位)と,第5趾の可動性低下(足根中足関節や第4,5趾の中足間関節の拘縮)を認め,股関節では屈曲及び内旋制限が生じていた。運動因子は,片脚立位とスクワット,ランジ動作で評価し,いずれも股関節の外旋位をとり,小趾側が支点となり,重心は外側かつ後方への崩れが生じていた。筋力は,腸腰筋と内転筋,腓骨筋で低下を認めた。足部への具体的なアプローチは,第5中足骨へ付着し,かつ距骨下関節の可動性低下にも影響する長・短腓骨筋の短縮や,内反接地の反応により過活動が生じる前脛骨筋腱鞘や長母趾屈筋の軟部組織の柔軟性低下を徒手的に改善させた。足関節,股関節の可動域の改善後,姿勢・動作で重心の補正を行った。低下していた筋力に対して,単独での筋力強化は行わず,姿勢・動作練習を通して意識的に筋力の発揮を促した。【考察】治療過程において,運動強度の拡大については,X線による骨の状態を確認しながら検討し,仮骨形成後にランニングを開始し,骨癒合後に競技全復帰を許可した。しかし,X線上の問題がなく,圧痛や荷重時痛が一時的に減少しても,骨折部周囲の違和感や痛みの訴えは変動するため,継続的に運動強度の調整を行った。運動負荷の段階的な拡大に伴い,特有の障害パターンが再燃するため,骨癒合が得られるまでの期間は,早期に発見し修正するための頻回な介入が必要であると考えられた。術後の復帰過程において,横江らは,術後1週で部分荷重,3週で全荷重,2ヵ月でジョギング,3ヵ月で専門種目復帰としている。今回の4例の平均値と比較すると,ジョギング開始と競技全復帰までの期間は,約1ヶ月程度の遅れに留まった。理学療法により骨折部へのストレスを軽減させ,症状の変動に応じて運動負荷の調整を継続的に行う事は,骨癒合を阻害せず,保存療法であっても競技復帰に繋げられると考えられる。【理学療法学研究としての意義】手術及び保存のどちらを選択しても,骨折部の治療だけでは再発予防としては不十分である。身体特性から発生要因を検討し,その改善に向けたアプローチを充実させる事は,スポーツ障害における理学療法の捉え方として重要であると考えられる。
著者
坂本 義峰 児玉 雄二 青木 啓成 村上 成道
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2255-CbPI2255, 2011

【目的】投球動作を全身の運動として捉えることは重要とされている。われわれは投球動作について運動軸を中心として考え、体幹機能の評価を主としたパフォーマンステスト(PF)を行っている。PFを用いたメディカルチェック(MC)を某長野県立高校野球部(高校野球部)に対して行ない、結果を第44回、45回日本理学療法学術大会、第7回肩の運動機能研究会において報告した。今回の目的は3年間に得られたデータよりMC毎のPF、関節可動域(ROM)と肘関節痛(肘痛)を有する選手の人数の推移から肘痛の予防と改善について考察することである。<BR>【方法】対象は平成20年に入部した高校野球部員25名のうち、外傷により長期離脱した2名を除いた23名とした。MCは 20年4月、8月、12月、21年4月、8月、12月、22年4月の計7回行ない、PFとROMを計測した。運動軸の評価のうち8種目をPFとして実施し合計12点を満点とした。ROMは肘関節屈曲、伸展、肩関節屈曲、外転90°での内外旋、屈曲90°での内旋、水平内転、股関節屈曲、伸展、内旋、外旋の11項目であり、肘関節、股関節は左右差なしを1点、肩関節は左右差10度以内を1点とし合計11点を満点とした。ここでの肘痛とは内側型、外側型等の分類はせず、投球動作において疼痛を有するものとした。MC毎のPF、ROM、肘痛を有する選手の人数の推移をそれぞれ比較検討した。検定にはWilcoxonの符号付き順位検定を用いた。有意確率は5%未満とした。<BR>【説明と同意】MCは同校の依頼で実施し、事前に指導者と選手にはMCについての説明を行ない、同意を得た。<BR>【結果】MC毎の肘痛を有する選手数はのべ20名で20年の8月から20年12月にかけて増加し、さらに21年の4月に最も多く認め、その後減少した。肘痛により長期離脱した選手は20年12月に約2週間十分に投球できなかった選手1名のみであった。<BR>PFの平均点は、20年6.5±2.7点、21年8.8±2.5点、22年10.7±1.8点と徐々に増加する傾向にあり、20年4月と20年8月、21年4月と21年8月の間に有意な増加を認めた(P<0.05)。<BR>ROMの平均点は、20年6.4±1.4点、21年6.1±2.3点、22年4.2±2.8点と緩やかに減少する傾向にあり、20年12月と21年4月では優位な増加を、21年4月と21年8月では優位な減少を認めた(P<0.05)。<BR>【考察】20年12月から21年4月にかけてROMの点数は有意に増加し、ROMの改善を示しているにも関わらず、肘痛の選手数が増加したことは、ROMの改善のみでは肘痛を予防し得ないことが推察された。また、21年4月から21年8月にかけてROMの点数は有意に低下したにも関わらず、肘痛の選手数が減少していたことは、PFの点数が有意な増加を示したことが要因ではないかと推察された。PFが高い値を維持している21年8月以降も同様に肘痛の選手数は少ない値を推移している。これらのことより、肘痛の予防においては、ROMの改善のみでは不十分であり、PFで高い点数を得られる身体機能にしていくことが重要であると推察された。同校にはMC以外にも、運動軸の改善を目的としたセルフケアやトレーニング方法をチーム全体や個別に指導しており、その結果肘痛の改善と予防に効果があったのではないかと考えている。<BR>【理学療法学研究としての意義】障害予防に対する意識が広がり専門的な知識を必要とする監督や選手が増えている中、野球の現場へストレッチや筋力強化などの知識を持った理学療法士が介入することは有用と考えられる。野球の現場に臨む際は、選手に対し短時間で良い反応を引き出すことが求められ、そのためには全身を簡便に評価する必要がある。MCに用いた評価方法は野球現場での障害の改善と予防に対して効率的な評価が行なえるとともに、点数化したことにより選手自身にも指標となりやすい基準であったのではないかと考える。現場に赴いて成長期の経時的な変化を追い、時期に応じたケアやトレーニングを調整することにより障害がなく練習を継続できる身体機能にすることは意義があると考える。<BR>