著者
須田 康之
出版者
比治山女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、グリム童話の「狼と七匹の子やぎ」を題材とし、異文化間での受け取りの特徴を把握し、そこに現れた教育的価値意識を分析することにあった。調査対象国として、日本、中国、韓国、アメリカ、ドイツの5カ国を設定した。まず、日本語版調査用紙を作成し、その後、中国版、韓国版、英語版、ドイツ語版の各調査用紙を作成した。調査対象者は、各国ともに小学5、6年生の子どもと彼らの母親である。現在までに回収した日本と韓国のデータを用いて分析した結果、次のことが指摘できる。1.韓国のこどもや母親は、日本の子どもや母親より題材を面白く思い、しかもこの題材が好きである。また、母親は日本や韓国の別なく子どもよりもこの題材を残酷であると思い、恐いと回答している。2.日本の子どもも韓国の子どもも共通に、面白い個所として「狼が大きな鼾をかいて寝ているところ」と「狼が石の重みで井戸に落ちて死んでしまうところ」をあげている。また母親に比べ、恐い個所がないと回答した子どもが極めて多いのが特徴である。3.韓国の子どもと母親は、感想として「悪いことをしたら最後は必ず罰を受ける」と回答した者が最も多い。これに対し、日本の子どもは、「たとえ悪者でも殺してしまうのは問題だ」と答えた者が多く、母親は「お母さんはいつも子どもを大事に思っている」をあげた者が多い。調査の結果、韓国では、誠実・努力・勇気という価値が尊重され、日本では対人関係に配慮した思いやりが尊重されていた。こうした価値志向の違いが読み取りにも影響を与えているものと考えられる。本調査により、読み取りに与える影響として年齢と社会文化的要因を想定することができる。特に結果の4は、S.フイッシュの解釈共同体の存在を実証するものである。